配信39 ニュース:ホムンクルス製造工場を摘発

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「突然だけどバルはゴーレムの素材ってどう思う?」

「どうしてまたいまさらゴーレムの話題を振った?」

「いや、いいから答えろよ」

「素材と言われてもな。ほとんどは土塊が一般的だろう。良いとこで岩だな」

「やっぱそのへんが一般的か~」

「……まあ、場所にもよるがな」

「場所って?」


「例えば――寒冷地。特に凍土や一年中氷に包まれたような場所では、土塊ではなく氷や雪といったものが素材になる。これもまたゴーレムだ」

「あー。そういうことか!」

「反対に、火山地帯では岩石の他に溶岩のゴーレムもあるだろうな」

「そこまでいくと本当に人造兵器って感じだ」

「溶岩ゴーレムがか?」

「見るからにヤバそうじゃない?」

「吾輩に聞かれても、ゴーレムの一種だな……という感想しか持たないが?」

「この魔王!!」

「他になんだと思っているんだ!?」


「まあいいや。今回はそんなゴーレム……というか、肉のゴーレムの話題です」

「相変わらず前後関係がわからん事をいうな。……というか、肉のゴーレム? 待て、それは――」



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《ホムンクルス製造工場を摘発、ミラス騎士団が公表》


 ミラス騎士団は本日、ホムンクルス製造工場を摘発したと発表した。

 摘発された工場はミラス市郊外の地下深くに形成されており、この工場では不正にホムンクルスの研究・製造などがされていたという。


 ミラス市では少し前から「魂の入ったホムンクルス」と称して瓶詰めのホムンクルスが貴族たちの間で裏取引されていた。しかし「魂が入っているという触れ込みだったのに、瓶から出しても動かない」「ホムンクルスのはずが死体が入っていた」などの相談が寄せられ発覚。ホムンクルスとして売買されていたもののほとんどは失敗作で、中には死産や、早産などで生まれた赤子が代わりに詰められていたものもあったという。工場ではこうした赤子を安く買い取り、ホムンクルスと称して高く売りつける詐欺行為が頻発していたものと思われる。実際、工場内では研究よりもこうした赤子のホルマリン漬けが大量に発見されている。

ミラス市では、こうした被害の実態解明のため買い取ったホムンクルスの回収を呼び掛けている。


 以下は捜査関係者の錬金術師Oさんへのインタビュー。

「駄目でしたね。ひょっとしたら魂の入ったホムンクルスがいるんじゃないかって、ちょっと期待していたんですが……。ほとんどが失敗作で動かないか、それでなければ未熟児の赤子でした。騎士団の中には気分を悪くしている方もいましたが、これはしょうがないなと。実際、ホムンクルスの生成は禁止されて長いので、どのようなものができれば成功なのかがわかっていません。そのため、「万能の知識をあたえてくれる」とか「人間そっくりのもの」とか噂だけ独り歩きしている状態です」


+++――――――――――――――――――――+++



「ホムンクルスって金に次いでっていうか、金の生成以上に禁止されてる気がする」

「……」

「まあ一応倫理観の問題あるからねえ」

「……」

「あれっ。おーい。バルー?」

「……お前……」

「えっ、なに?」

「……お前、何故……、この話で……ゴーレムの話題を振った?」

「なんとなくだけど」

「……本当にか?」

「ホムンクルスって肉体使ったゴーレムみたいなものだと思うからなー」

「いや、……うん。わかった」


「ところでそれは、感想か?」

「うん。まあでもキメラはいいけどホムンクルスはダメってのは、やっぱ人間が素材なのはダメって感じなんだろうなあ。倫理的観点から規制されてるのもそのせいでしょ」

「……なるほどな、倫理か。そんなものがお前たちにまだあったとはな」

「そりゃあるでしょ、規制されてんだから。まぁ今回捕まった人達みたいなのは倫理観無さそうだけど」

「……だそうだぞ。聞いているか?」

「えっ、なに?」


「気にするな。お前に言ったわけではない」

「なんだよ、気になるじゃん!」

「あ~、はいはい。えー、そうだな……。人間の肉体を使ったゴーレムなど、吾輩たちですらやらないような事をやった人間に対して言っただけだ」

「本当かなあ!? でも確かに肉のゴーレムとかいないな」

「まあ、ニュースの中でも言っていたように、ホムンクルスはほぼ成功例は少ないんだろう。例え肉のゴーレムと言い切ることが出来てもな」

「へー。そうなんだ。なんか違いとかあるの?」

「キメラのように人とそれ以外の体をくっつけるのとはまた違ってくるしな」

「ほーん」


「なんか難しい話になりそうだからこのあたりでブレイクしようか」

「なんだ、逃げるのか?」

「逃げるのではない、ブレイクだよ!」

「なにが違うんだ」

「はい、じゃあ邪霊楽団の音楽をお楽しみに!」

「おい、逃げるな。逃がさんぞ吾輩は。おい!」

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