配信38 ニュース:コスタズ美術館にて特別展開催

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「魔王討伐に欠かせないのは『真の勇者』らしいって話はもう有名だけども」

「『真の』はお前たちが勝手に言っていることだがな」

「高名な実力者たちが、だれが真の勇者になるか盛り上がる一方で、二百年前のタイジュ=クドーについて知りたいっていう意見が増えてるみたいだ」

「まあたびたび話題にはするが……」

「私も研究者だったけど、もう半分伝説と化してて、魔王も本当にいたの? みたいな感じだったしなぁ」

「目の前にいるんだが」

「二百年も経ってたら、やっぱり復活するまで信じられないって人もいたんじゃない? そんなに長生きできるのってエルフとかくらいでしょ」

「……それもそうか。人間など五十年生きればいいほうだ」


「いまは昔に比べて平均年齢は増加傾向だけど、二百年っていうともう人間は世代交代も何回かしてるしなあ」

「で、なんだ? 奴の特集でもするのか」

「ふっふっふ……、実は特集じゃないんだな~」

「なんか異様にムカつくな」

「というわけで、今日のニュースはこれだ!!」



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《コスタズ王立博物館にて特別展開催 タイジュ=クドーの歴史》


 コスタズ連合王国の博物館にて、緊急の特別展が開催されることになった。

 その名も『王となった勇者・タイジュ=クドーの歴史展』だ。本来は魔王討伐より二百年を祝って開催される予定だった同特別展だが、魔王復活によりタイトルと時期を変更して開催されることになった。


 タイジュ=クドーはだれでも知っている、魔王を倒した勇者にしてコスタズ連合王国の祖となった人物。規格外の力を持った実力者で、魔王を倒してからはその類稀な発想力を用いてさまざまな発明品を作り出した。

 彼の生前の物品は、普段は博物館の常設展の一部としてだれでも見られる状態になっている。しかし今回はそれらに加えて、普段は保管されて出てこない当時の試作品やアイデアメモまで展示するとのこと。また、本来作られていた彼の足跡がわかる展示物もまるごと作り直されて掲示されるという。どんな特別展になるか楽しみである。

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「だからこの配信を広告代わりに使うな!!」

「予想通りの反応をありがとう、バル!」

「普通に礼を言うな!」


「勇者関連だからバルも気になるかな~っていうのはだいたい半分くらいあった」

「せめてそこは9割気にしてから言え」

「でも気にならない? 前回の勇者だからそうでもないかな」

「脳天気な奴等だなとは思っている」

「えっ、そう? だって勇者だよ?」

「吾輩が復活に二百年かかったような力の持ち主だぞ。世界の敵になったらどうしようとかは思わなかったのか?」

「あー、そういう? でも、引退するまでは力じゃなくて発想力のほうで名を馳せてたって話だからなあ」

「なるほど。……幸運だったな」

「あ~~、そういう事言う~~?」

「……」


「それにしても、タイジュ=クドーのものを納めてる美術館って、別に隠してもなかったんだけど……、襲撃みたいな話は聞かないね?」

「どうせ当時の鎧だの剣だのあっても、いまさら使えたものではないだろう」

「そりゃねえ」

「吾輩の死後二百年で変わってしまった文明は把握するのに多少の時間は必要だが……、そんなものは資料を見なくてもわかる。かといって、装備品が特殊というわけではないしな」

「そういえば、タイジュ=クドーも最終的に『勇者の武器』を手にしたんだっけ」

「そのとおりだ」


「……それってさあ、もしかしてこの魔王城が出てくる前にぶっささってたやつかな……」

「あ?」

「石みたいな剣がブチ刺さってたんだよ、この土地。魔王城が出てくる前に」

「魔王城の予定地に変なものを建てるな」

「復活に二百年掛かったそっちが悪いんじゃ?」

「は?」

「それはジョークだけど、変なものじゃなくて、勝利の印にぶっ刺しておいたみたいな記述はあるよ」

「……もしかしてあいつ、吾輩の魔王城跡に勇者の武器を突き立てたのか?」

「多分そう」

「なんてことをしとるんだ……。だが本人がいなくなったなら、石にもなるか」

「まあ魔王城が出てきたときに吹っ飛んだけど」

「だろうな」


「でも私の家ごと吹っ飛ばなくて良かったと思ってるよ。吹っ飛んでたらこの魔王城を私のコテージ第二号にするところだった」

「やめろ」

「じゃあ、タイジュ=クドーが実際使ってた勇者の剣はもう無いってことになるのか……」

「いまの話からすると、奴の使った『勇者の武器』はとっくに風化して吹っ飛んでいることになるな。別に勇者ごとに違うから問題ないだろうが」

「でも魔王城が吹っ飛ばさなきゃ、結構目玉になった気がするな~」

「もしかして特別展の話をしているのか……?」

「そうだけど」

「……」

「なんで呆れた目で見てくんの?」

「いや……」


「まあいっか。このあたりで一旦ブレイク! 邪霊楽団の音楽をお楽しみに! 今日の音楽は、勇者タイジュ=クドーをイメージして作られたという古典音楽『勇猛』です!」

「だれだそんなものをリクエストしたのは!」

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