配信36 特集:各地のダンジョンは増加傾向、冒険者の分布に偏り
夜十時。
夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。
やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。
――――――――――――――――――――
「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」
「……バルバ・ベルゴォルだ……」
「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」
「先日、コスタズの★3ダンジョンが3件ほぼ同時に攻略されるという事態が起きましたー! すごいすごい!」
「……」
「割と世界規模だとありがちなんだけどな、ほぼ似たような場所で攻略されるのは珍しい」
「それほどか?」
「いや割とそれほどのことだろ」
「それにしてもコスタズはやっぱりダンジョンの増減が激しいなあ。狙ってる?」
「単純に冒険者が多いからだろう。攻略が早いから魔物を送りこむ速度もそれに合わせているしな」
「そういうのやっぱり考えてるんだ」
「お前は吾輩が普段なにをしていると思っているんだ?」
「なにも……して……ない……?」
「やっとるわ色々!!」
「あはははは!」
「ええい、笑うな! こっちだって冒険者の推移や地域の傾向を見ているのだぞ!」
「ただ魔王の力で魔物が活性化しているだけでなく?」
「だけではない! そのへんは……、……その、いろいろあるのだ……!」
「もしかして言えない話?」
「! そうだ、まだお前に、というか人類に対しての機密事項だ」
「ほほーう。いい事聞いたな! そのうちバルの口から機密事項を洗いざらいしゃべってもらいたいね」
「あーもう、そんなことはいいから今日の仕事をはじめろ!」
「もう仕事になってるじゃん」
「お前の仕事じゃないのか?」
「研究の一環ではあるけど、半分は趣味かな」
「趣味……」
「ま、というわけで、今日の特集は、冒険者にもダンジョンにも偏りがあるので、全体的に見るとどうなってるのかっていう話です」
+++――――――――――――――――――――+++
《冒険者の分布に偏り 敬遠する地の対策不足も露呈》
魔王復活で魔物が活性化したことにより、ダンジョンの数が増減を繰り返している。特にコスタズではその傾向が激しく、一時は日々ダンジョンが入れ替わるといっても過言ではなかった。しかし冒険者がコンスタントにダンジョンを攻略しているため、現在は落ち着いてきているという。
しかし全国的に見るとダンジョンの数は増加傾向にあり、魔物の数も増え続けている。
これは一体どういうことなのだろう。
例えば先ほどのコスタズは勇者タイジュ=クドーが治めた地であることから、冒険者の国としても有名。全国各地の冒険者の拠点としても機能しているため、付近一帯ではコンスタントにダンジョンが攻略されている。
もともと冒険者はギルドが管理しているとはいえ、ほとんどはごろつきと変わらない。それはタイジュ=クドーが冒険者となった後も、地域によって意識差があった。現在でも冒険者を敬遠する国は存在している。そうした場所では騎士団や自警団などがダンジョンの制圧を行っているが、実力差などにより追いつかなくなってきているのが実情だ。現在は冒険者への依頼を推奨傾向にあるが、なかなかうまくいかないのも現実だ。
また、国自体は冒険者を拒否していなくても、小さな村では村の中心人物の考え一つによって左右されてしまう。そのような村に住むAさん(仮名)はこう語る。「私の村の近くに魔物が住み着き、ダンジョン化してしまいました。村長が冒険者を敬遠しているので、いまは騎士団が来るのを待っている状況です。しかしどうしても順番待ちになってしまって、これ以上襲撃に耐えることができません。もう若い衆でお金を出し合って冒険者を雇おうかという話も出ているのですが……」などと戸惑っていた。また、「ところで、本物の記者さんなんですよね……このインタビューって本当にちゃんと国に届くんですよね……?」とも語った。
+++――――――――――――――――――――+++
「最後のコメントって別に答えたわけじゃなくない!?」
「自分で読み上げておいて自分で突っ込みを入れるな」
「いやだって書いてあるから。原稿に」
「原稿……」
「原稿書いた魔人によって人間への扱いに差がありそう」
「それは……まあ」
「でもとにかく、冒険者の分布には結構偏りがあるみたいだね?」
「まあな。タイジュ=クドーが冒険者という道を選んだせいなのか、当時に比べてかなり数も増えているが……。信頼できるかどうかという意味では違ってくるだろう。AクラスだのS級だのいわれている高ランクと、破落戸に近い奴等ではほぼ天と地の差がある」
「魔王に真面目なことを言われている」
「でもこっちに入ってきてるニュースでも、冒険者に前金だけとられて逃げられたとか、ギルドを通してないせいで強盗みたいなことをされたとかいう話もあるからなあ。冒険者ならだれでもいってわけでもないし、全員がタイジュ=クドーみたいな風に思わない方がいいね」
「……無理だろう、あれは。一種の奇跡みたいなものだろう?」
「うわ。魔王も認めるところなんだ、それ」
「……」
「バルは実際に戦った事あるからそう思うみたいな?」
「……まあ、……そういうことだ」
「?」
「えー、それじゃ、このあたりで一旦ブレイクにしようかな。このあとは普段どおり、邪霊楽団の音楽をお楽しみに~!」
「……」
「ほら、バルもなんか言って」
「……ああ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます