配信35 ニュース:「違法に金を作り出している」、男を釈放

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「この魔王城って、結構いろんなニュースが入ってくるけどさあ」

「そういう風にしたのはお前なんだがな……」

「たま~にちょっとマヌケなニュースが入ってくるんだよね」

「……まあ、ほとんどすべての情報を網羅しつつあるからな。というか、本来は勇者の動向を見るために張った情報網だぞ!?」

「あはははは!」

「笑ってるんじゃない!」


「そいつの中でわざわざ使えそうなものを用立ててやるって話だっただろうが!」

「なんでかもう私も組み込まれてるからな~」

「それは本当になんでだ!!」

「だからさあ、最初から言ってるけど、魔王に毎回『魔王様! ご報告です!』ってやるより私の方に『はい』って渡す方が簡単なんだと思うぞ。もう慣れてきたけど」

「慣れるな!」

「とかいいつつバルもこの状況が普通になってない?」

「ぐっ……」


「まあそんなはなしはどうでもよくて」

「お前が振った話だろうが!?」


「とにかく、今日のニュースはマヌケな話も入ってくるよねってことで」

「……まあ、そうだな。勇者や冒険者でも、たまに変なニュースが入ってくるな」

「というわけで、今日はそんなちょっと変わったニュースのひとつをピックアップ!」



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《「違法に金を作り出している」と通報、手品師の男を釈放》


 先日、ルニス共和国の北にあるマペラ街にて、騎士団に拘束されていた手品師の男が約2時間後に釈放されるという事件があった。男は「錬金術師のサン」を名乗って、路上などで手品を見せていたパフォーマー。2日前にマペラ街に入って、パフォーマンスの許可もとっていた。何故男は拘束されたのか。


 男は手品の過程を錬金術と称してパフォーマンスを行っていた。鍋の中に賢者の石と称した色つきの液体などを振りかけたりなどして、最後に鍋の中から金塊を取り出す仕組み。ところがそれを見た観客のうちの何名かが手品を本物の錬金術と誤認してしまったという。「錬金術を使って違法に金を作り出している男がいる」などと通報し、騎士団によって拘束されてしまった。

 錬金術による金の生成は全国的に禁止されている。マペラでも錬金術師による金の生成自体は禁止されていないものの、実験や術の継承など、特定の目的でのみに限られている。


 ところで件の手品は本当に錬金術に似ているのだろうか。

 本物の錬金術師に話を聞くと、「一般人にもわかりやすくやってるだけでしたよ。むしろ錬金術のやり方というより、魔女の薬草作りのイメージに近いですね。でも、俺もああいう感じで作ってるって見られてるのかなあ……」と遠い目をしていた。実際の錬金術ではどのように金を生成するのかと聞いてみたが、さすがに教えてはくれなかった。

+++――――――――――――――――――――+++



「手品が錬金術と見間違えられることなんてあるんだなあ」

「これはもう錬金術師と名乗ったこの男の落ち度な気もするがな」

「信じられちゃうくらい手品が見事だったのかな」

「それを信じる方も信じる方だと思うがな……。だいたいパフォーマンスとしてやっていることを信じるか、普通?」

「でもあるんじゃないかな~」


「錬金術といえば、バルはどう? 錬金術で実際に金を作ったのって見たことある?」

「一応はな」

「仲間にしようとは思わないの?」

「錬金術師をか?」

「うん。例えば錬金術師に金をしこたま作ってもらって、金の価格を暴落させて、経済的に人類を殺すとか」

「お前のその発想はいったいどこから出てくるんだ……!?」

「ここから」

「自分の頭を指ささなくていい!」


「大体、経済的に殺してどうする。吾輩と勇者が賭けるのは命だぞ」

「たまには経済とか賭けてもいいんじゃないの?」

「そんなものは賭けてない……というかそこから離れろ!」

「あははは!」


「まったく……、だが、錬金術も自由自在になんでも金にできるわけではないからな」

「あっ、やっぱり見たことあるんだ」

「当然だろう。錬金術というと金の生成のイメージが強いが、そこまでいくにもかなり時間が掛かるようだからな」

「もしさっき言ったみたいな事をしようとしたら、何人くらい必要になりそう?」

「まずは三百ほど欲しいところだ」

「あれっ、意外と少ない?」

「三百万の方だがな」

「小さい国じゃん!」

「価格を暴落させるほど金を生成するとなると、それくらいは欲しい。……実際、一人の錬金術師が作れる金などたかが知れている」

「へ~。やっぱり大変なんだ」

「その一度でも成功と失敗があるからな」

「もしかしてこの話題、これ以上振ったら錬金術師からクレーム入るやつ?」

「そうかもな」


「それじゃあ、これ以上クレーム来ないうちに一旦ブレイク! 邪霊楽団へのリクエストも受け付けてるぞ!」

「お前、この間からリクエストで死にそうになってばかりなのにそういうことを……」

「もうそろそろバルにも手伝ってほしい」

「吾輩はこっちを正規の仕事にした覚えはない!」

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