配信34 インタビュー:邪霊楽団のバイオリニスト
夜十時。
夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。
やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。
――――――――――――――――――――
「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」
「……バルバ・ベルゴォルだ……」
「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」
「というわけで、魔王城の魔物の誰かにインタビュ~~!!(ドンドンドンドン!!)」
「うるさい!」
「はいバルはこれやって!」
「どこで見つけてきたんだこんなもの!(パフッ)」
「私の家の中にあったやつ」
「お前の私物……、いやそれにしたって何故ある!?」
「まあそういうわけで、もういっそのこと本人に聞こうかなっていうのは考えてて」
「だからってなぜこの城の奴等を選ぶ」
「すぐ聞けそうだから」
「……」
「とはいえ、そのすぐ聞けそうな奴を選んで大変なことになりかけただろうが」
「まあねえ」
「まったく……余計なことを」
「あははは。ちなみに最初に言っておくと、今日のインタビュー相手……というか予定は邪霊楽団の人たちでした!」
「だいたいなんで邪霊楽団の奴等なんだ」
「なんかすぐ聞けそうなの、邪霊楽団の人しかいなくて」
「……それは、まあ」
「さすがに邪霊の人で、ちゃんと言葉が通じる人は少なかったんだけど、その中でもギリギリインタビューできそうな人をね、こう、チョイスして」
「奴等、基本は叫び声をあげているか楽器を弾いているかのどちらかだからな」
「それに、他っていってもみんな忙しそうじゃん。あの人とか。あの人ってあの、……えー……」
「名前がわからんなら特徴で言え」
「カジノで全額スッて借金抱えちゃった人」
「ジューロ・ジャーロの事だな……。もう外見的な特徴よりそっちが優先されるのか……」
「でもバルもいますぐわかったじゃん」
「あいつは本当にまず反省しろ」
「まあとにかく、邪霊楽団の人にインタビューしたんだけど、ちょっとトラブルがあってね」
「……」
「本当は、昨日やる予定だったんだけどさ。邪霊について教えろってリクエストがあまりに多いから!」
「……まあ、どうして今日になったのかは記録を聞けばわかるだろう」
「というわけで、生のインタビューにはできなかったんだけど、こちらをどうぞ!」
+++――――――――――――――――――――+++
―記録開始―
「はい、じゃあこれでいいかな? よろしくー!」
「"よろしく"」
「……うん、声もちゃんと聞きやすくなってるね。じゃあ、お名前教えてください」
「"オルと呼ばれている"」
「オルさんだね。じゃあ、これは予行演習みたいな感じで、本番で実際に聞くことをいろいろ聞かせてもらいたいんだけど」
「"かまわない"」
「それじゃあいくつか聞きたいことを質問して、本番は時間に合わせるよ。本番はコメントも見て、いくつか答えてもらう方式でいいかな?」
「"わかった"」
「ありがと! まずは、えーっと……、オルさんはもともと人間だったって聞いたけど?」
「"多分、そう。人間だった"」
「どうして邪霊の楽団員になったのか覚えてる?」
「"わからない。気付いたら、ただバイオリンを弾いていた。私にはこれだけしか残らなかった。ひどく、悲しく……、悲しくて……。(雑音)……そうしてバイオリンを弾いていたら、いつの間にか、他の音があった。仲間がいた"」
「それってスカウトみたいなもの?」
「"それをスカウトと形容するのならば、たぶんそうだ"」
「他の邪霊の人たちってしゃべれるの?」
「"個体による。私のように……元人間は、多少は。だがほとんどみんな、無口だ"」
「無口っていう括りなんだ」
「"そう"」
「じゃあ今はどう? 邪霊楽団って言われて魔王城で楽器を弾いてる気分は?」
「"悪くない。いままで自分で弾かなかった曲も弾ける。楽しい"」
「それは良かった」
「"ああ"」
「そういえばオルさんは昔から楽器を弾いてたの? 人間だった頃とか覚えてる?」
「"人間だった頃も、バイオリンを弾いていた"」
「へー。音楽家だったんだ。吟遊詩人とか?」
「"バイオリン弾きだった。だから、きっとバイオリンを弾いていた。(雑音)……ひどく悲しかった"」
「もしかして結構いいとこの人だったんじゃ……」
「"貴族だった。バイオリンの腕を認められ、第二楽団で"」
「第二楽団?」
「"控えのようなもの。第一楽団に入れば宮廷で、王の前で演奏できる"」
「へー。そんな制度あったんだ」
「"そうだ。私はその第一楽団に……"」
「抜擢されたの?」
「"だいいちがくだんに"」
「……ん? ……あれ? オルさん? おーい?」
「"……そうだ。そうだそうだそうだそうだ思い出した思い出した思い出した思い出した"」
「え、ちょっ……」
「"思い出した思い出したぞ私の名前はオルゴ・ドール、ヨールズの第二楽団でバイオリン弾きだった私はあの日舞台の上でシャンデリアに潰されたのだ第一楽団へ抜擢され入団の演奏会を控えた舞台で"」
「オルさん!? ちょっと落ち着い……落ち着け!」
「"そうだあの瞬間だあの瞬間に私はバイオリンを弾いたまま死んだのだどうして忘れていたんだあの時見えたあそこでシャンデリアの仕掛けを動かしたのは確かにあいつだった私の最高のライバルだったあいつの……"」
(雑音とノイズ、轟音と何かが割れる音)
「おい何をしとるんだお前は!?」
「うわーっ! バルなんとかして!!」
「まずなんだこの状況は!!」
「"そうだ私は奴に殺された事故などではない決してないあいつが殺したあいつに殺されたあの時間にシャンデリアに細工をできたのはあいつしかいないのだから絶対に許さない許さない許さない許さない"」
―記録終了―
+++――――――――――――――――――――+++
「というわけで、なんか奇しくもオルさんの過去が垣間見えてしまったインタビューになりました」
「深掘りしなくて良かったのか?」
「どうだろう。さすがに何年前の出来事かまではわからないしなあ。でも、オルさんが思い出したらなんか進展があるかもしれないね。あったら報道します!」
「報道ってほどでもないだろう、これは」
「ちなみにオルさんはいまは落ち着いて楽団に戻ってるので大丈夫です! ほら、オルさん! なんか言って!」
「"ごめいわくおかけしました"」
「だそうです」
「じゃあ今インタビューしても良かったんじゃないか……?」
「いや一応、オルさんの心身の安定を優先して」
「邪霊にそこを気にするのか!?」
「ちなみにオルさん的にはどう? 自分の過去について」
「"いずれ復讐を果たす"」
「すっごい笑顔だ。虚ろだけど」
「邪霊のこういう表情は吾輩もはじめて見た」
「レアじゃん」
「奴等、基本は無表情だからな」
「無表情で無口なんだ……」
「というわけで、このあたりで一旦ブレイク! 今日はオルさんの好きな曲弾いていいよ」
「"……では、第一楽団入りが決まったバイオリン協奏曲を"」
「未練たらたらではないか」
「いいじゃん別に」
「まあ邪霊とはそういうものだがな」
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