配信27 ニュース:ヨールズ王家が婚約破棄を発表

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「そういえば聞いた?」

「毎回その入りをするのはひょっとしてもうネタ切れなのか?」

「いや、フリをするのにちょうどいいから」

「フリに入るのにも若干無理がある時が無いか?」

「せっかく私がフリに入ろうとしてるのに台無しにするような事言うな!」

「ええ……」


「というわけで、聞いた?」

「そこからやり直すのか!?」

「最近、勇者じゃなくて『真の勇者』って言い方が出来てるらしいっていう」

「真の勇者……」

「バルがまたすごい顔をしている」

「いや……、別になんと呼ぼうと、勇者は勇者なんだが」

「でも国から指定された勇者と呼び方一緒だとごちゃごちゃしない?」

「それは……そうか」

「えっ、納得した……」


「吾輩からすれば、そもそも吾輩と対をなす『勇者』はただ一人。だがお前達が勝手に勇者を指定しまくっているのが問題だからな」

「魔王から見るとそうなのか」

「そうだ」

「まあ、勇者は一人なのはわかってても、これだけ居るとね」

「だが、他に問題はないだろう別に。もとから勇者がたくさんいるのは……いや、わかってなかった奴等もいたな……」

「そうだよ。それに、これまで勇者だと思ってたから価格を下げてたけど、まだ本物じゃないならってことで正規の宿代を後から請求されたみたいなニュースも入ってきてるからね」

「それはもうどこからつっこめばいいのかわからんニュースだな……」


「まあそういう感じで、『実はまだ真の勇者じゃない』ってことが明るみになってきたせいで……というか、認識しはじめてきたせいで、ちょっと別の問題も起き始めてるらしいんだよ。今日のニュースもそんな感じ」

「なんだ、いまの宿代の話とは違うのか」

「というわけで、今日のニュースはこちら!」



+++――――――――――――――――――――+++

《「勇者ではないから」? ヨールズ王家の王子、婚約破棄》


 西方の都市国家、ヨールズ王家のコルファ王子が、セリリアス・モリス嬢との婚約を破棄すると発表した。

 本来、こうした発表にたいして、あまり深掘りされることはない。しかし今回は婚約破棄の実情に勇者が絡んでいるというのである。


 セリリアス・モリス嬢はモリス公爵家の長女であり、その類稀な魔力を認められヨールズ王家によって勇者指定されていた。コルファ王子との婚約は勇者指定と同時に発表されていたのである。だがここにきて突如として婚約のみが破棄。コルファ王子による発表によると、「勇者である女性と結婚するのは決まっていたことでした。しかしセリリアス・モリス嬢が『真の勇者』になれるかわからない状況になり、一度婚約を破棄することにした」とある。

 どうやら『真の勇者』の話は王家の婚約まで左右しはじめてしまったようだ。


 だが話はここで終わらない。

 コルファ王子はここしばらく、平民出身である女性と懇意にしている場面が幾度も目撃されているという。かなり親密な様子で、目撃した人間によると、「あの女性がセリリアス様だと思っていた」という人もしばしば。もしかすると勇者ではないというのは表の理由で、彼女を勇者に新たに指定し、婚約するのではないかと貴族たちは噂している。事実、セリリアス・モリス嬢の勇者指定が解除される話も出ていて、なにやら一筋縄ではいかなさそうである。

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「お前達は『勇者』をいったいなんだと思っているんだ?」

「少なくとも魔王と対峙する人だとは思ってるはずだけど」

「その認識で間違ってはいないはずなんだが」

「なんでこんなことになっているんだろうな?」

「それは吾輩が一番聞きたい」


「でもまあ、『真の勇者』に乗っかられた感じはちょっと否めないよね、このニュース」

「真偽はさておき、というのが入りそうだがな」

「でもまあ、都市国家とはいえ一国の王家の婚約状況まで左右するなんてなあ」

「……」

「……え、どういう感情なのその顔?

「……もしかして、いままでもこの情報を流せば楽しめた可能性が……?」

「パニックになってそう」


「とはいえ、だけどさあ。実際、これだけいろんな国が勇者指定したって話が出てきたのも今回からだからなあ。タイジュ=クドーが凄すぎて次があったら勇者指定しよう、みたいな話が出てきたみたいだし」

「それは誰から聞いたんだ?」

「勇者の研究してると普通に出てくる話だよ」

「……ああ、そういえばお前、そんなことを言っていたな」

「そうそう。これでも勇者研究者だったんだよ~」


「ただ吾輩の城に侵入してきた小娘ではなかったのだな」

「侵入ってそれはほぼバルのせいだからな!?」

「はいはい」

「うっわ、こういうときに限って流すんだから」


「まあいいや、ひとまずここらでいったんブレイク! このあとは安心安全に邪霊の演奏をお聴きください。リクエストも待ってるぞ!」

「そういう事を言うと聖歌の類をリクエストされそうだな」

「もう来てる」

「来てるのか……」

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