配信25 ニュース:鉱山がダンジョン化、ランクも

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「そういえば、バルって自分の武器あるの?」

「お前はこの腰の剣がいったい何に見えているんだ?」

「えっ、それ一応使えるんだ」

「なぜ驚く……!?」

「魔王っていわれると魔法のイメージがある」

「まあ、魔法も使うが」

「えー、でも折れたりしないの? 魔王の剣だったら専門の鍛冶師とか研ぎ師とかいそうじゃん」

「折れても吾輩の復活と一緒に元に戻るからな」

「……、もしかしてバルとその剣って一体化してる……?」

「鎧も元に戻るが?」

「どういう原理なのそれ!?」


「うわー。意外だった。でも、人間はそうはいかないよね」

「その点に関しては吾輩が魔王だからとしか言えないが、それはそうだな……」

「まあ魔王の復活で武器の需要が増えてるくらいだし。そうなると更に盛況になるのが、鉄鉱石のとれる鉱山! 当然そこで働いてる人達もいるよね」

「そうだな」

「だけど、その鉱山が大変な事になっているニュースが入ってきました」

「……ふむ? 速報ではないのだな」

「うん。普通のニュースでいいかなって」

「なんとなく予想はつくが、そう言われると癪だな……」

「というわけで今日のニュースはこちら!」



+++――――――――――――――――――――+++

《ソマッソ鉱山がダンジョン化、冒険者向けに解放》


 東ハンザスにあるソマッソ鉱山をご存じだろうか。

 ここは鉄鉱石から黒曜石まで、様々な鉱石の眠る鉱山だ。コスタズだけでなく周辺地域の武器素材はここで採取されるものである。普段であれば多くの鉱夫やドワーフたちが作業に勤しんでいたこの場所だが、このたび、魔物が住み着いてダンジョン化してしまったというのである。

 この場合のダンジョン化とは、ギルドがダンジョンとして認めたということだ。★3のダンジョンとして認められたソマッソ鉱山は、いまや魔物の徘徊する危険地帯となってしまった。


 だが、ソマッソ鉱山がダンジョン化したと聞いても地元民やドワーフたちは冷静だ。

 それというのもソマッソ鉱山にはもともと魔力が通っていて、魔物たちがちょくちょく出現していたというのである。鉱山を管理するドワーフ衆の一人は、「いままでも危険地帯に関しちゃあ、冒険者にやってもらってたんだ。ツルハシを貸し出してな。採掘をしてもらう代わりに鉱石を買い取ったり、交換したりな。いまさら鉱山がダンジョン化したからといって、軽い魔物くらいだったら俺たちでも吹っ飛ばせる。忙しいんだから、散った散った」と語った。

 実際に鉱山で働いたことのあるという冒険者にも話を聞けた。「これまでは冒険で食えない時のバイトみたいな感覚だったんですけど、こうなると自由に採掘とかできそうですね。……えっ、ツルハシはまだ貸し出し制でお金とるんですか。そうですか……」と彼は驚いた表情を見せていた。

+++――――――――――――――――――――+++



「という感じで、鉱山の宣伝を任されました」

「この間の賭博都市といい、お前ら……」

「鉱山で働いてる人達は強いなあ、やっぱり」

「誤魔化すな」

「というわけで、鉱山の人手募集をここに表示しておきまーす」

「だからこの配信を宣伝に使うな!」



*ソマッソ鉱山での採掘依頼

 ツルハシ1本……10ギル

 タオル、水筒など……3ギル

 採掘した鉱石は一括で買い取り、または受付にて専用装備などと交換。

 ※現在ダンジョン化しているため、一般人の採掘は責任が持てません



「……むしろこれでダメージ受けてるの、一般人でたまに採掘やってた、みたいな人じゃないかな?」

「その意見には同意しよう。冒険者にダメージが無いことが悔やまれる」

「あれ、バルって意外に冒険者のこと敵視してる?」

「それはそうだ。我が配下の魔物どもと一番よくぶつかるからな。それに、戦闘能力に優れているものから勇者は出やすい」

「ほーん。そうなんだ。ところで勇者はもう出現した?」

「まだだな。……まったくその気配が無い」

「前から思ってたけど、勇者の出現ってわかるもんなんだ?」

「わかる。……勇者は吾輩と対を為すものだからな」

「まだ生まれてないとか、もう死んでるとかあったりして」

「それは無い。吾輩がこうして蘇っているのだからな。必ず一人、選ばれることになる」

「へー。誰に?」

「……、いや、話が逸れすぎじゃないか。鉱山のバイトの話はどうした」

「それもそうだ!」


「というわけで、鉱石採掘に興味のある冒険者の方々は一度ソマッソ鉱山に行ってみるのはどうかな!?」

「……」

「配信は一旦ブレイク! まだまだ続くけど、いったん邪霊楽団員の音楽をお楽しみください。では!」

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