配信24 特集:その聖水、あなたはどこから?

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「昨日、邪霊の楽団員の話をちょっとしたじゃない」

「そうだな」

「なんか昨日のニュースより反響があったんだけど」

「……なぜだ?」

「単なるゴーストの一種に過ぎなかったものが音楽やってくれてるからかな?」

「まあ、ありえるな」

「コメントも結構もらってるんだよね。ほらこのへんとか」


*:邪霊の楽団員……!?

*:楽器持った邪霊のことだよね?

*:音楽聴いたら生気吸い取られるやつじゃん……

*:いままで普通に聞いてて大丈夫か!? と思ったけど大丈夫だった

*:聖水撒いとかないとダメかな

*:いまなら邪霊の楽団員も倒せる気がする!!

*:やめろ早まるな!!

*:聖水持った?

*:そういえばアーシャは人間だったな

*:すべての楽団員に結界お願いします、魔王様!!


「なぜ吾輩が知らん冒険者のために結界を張らねばならんのだ! というかそもそも吾輩の魔力を使ってネットワークを乗っ取っている時点で疑問に思え」

「それはそう」

「……しかし吾輩が魔王であることより、お前が人間であることも忘れ去られつつないか?」

「それは本当に疑問」

「……」

「あきれ果てられた目で見られているのはなんでかな?」

「自分の胸に聞いてみるんだな」


「というか、邪霊とは言ってるけど要はゴースト系の魔物だよね」

「そうだな。楽団員なのも、楽器を持っているから楽団員と言っているだけだ」

「ゴーストの演奏だから聞くとグエーッてなるだけで」

「……昨日から思っていたが、もしかしてそれは生気を吸い取られる擬音か……?」

「そうだけど」

「……」


「まあそんなわけで、大丈夫だよ。私も特に何も無いし」

「吾輩が結界を張ってるからな」

「私も大丈夫だからな!!」

「吾輩が結界を張ってるおかげでな!?」


「でも、邪霊とかち合っちゃう時もあるだろうから、聖水は忘れるなよ!」

「……お前、まさか」

「というわけで、本日の特集はこちら!」



+++――――――――――――――――――――+++

《聖水はどこで入手するもの? 冒険者に聞いてみた》


 冒険者に必須のアイテムといえば、傷を治すポーションやダンジョンの外へ出られる「導きの羽」だが、そんな必須アイテムのひとつに聖水がある。

 聖水はアンデッドに効果のある、祝福された聖なる水のこと。ゾンビやスケルトン、ゴーストといったものに振りかければダメージを与えることのできる水だ。


 さて、この聖水だが、実は冒険者によって入手場所が違うことが明らかになっている。

 まず、多くの冒険者は雑貨屋で買うという意見が多かった。コスタズなどでは雑貨屋でもごく普通に売られており、他の場所でも雑貨屋などでは価格が統一されている。価格は50ギル。ポーションや毒消しより少し値段はするが、それでも一本持っておくといざという時に役に立つものだ。

 ポーションなどは比較的性質が同じになるよう作られているが、雑貨屋の聖水も実はそう。価格が決まっている代わりに効果も一定だ。


 もうひとつが、教会や聖堂で聖別されたものを直接貰うという場合だ。

 そう、買うのではなく貰うのだ。

 無料の代わりにお布施を請求されることもあるが、いくらでも構わないので、足りないときは最悪、1ギルでもあれば貰えることは可能だ。しかし、一人につき一本しか貰えず、そのうえ教会やそのとき作成している聖職者によって効果に大きな違いがある。一本でその場を聖別するほどの効果を発揮するものもあれば、50ギルの聖水にすら及ばないこともある。


 200人の冒険者にアンケートをした結果……。


 道具屋・雑貨屋で購入……116人

 教会などでもらう……43人

 街や金銭状況によって変える……26人

 その他……15人


 という結果になった。

 今回は教会でもらう人間が思ったよりも少ない結果になったが、これは出身地や街によっても違いがみられるせいだろう。昔からそうだったので必ず教会から貰っているという人も。また最初は教会で貰っていたが金銭的に余裕が出るようになってからは買っている、などの意見もあった。また逆に、パーティに聖職者がいるから聖水はほとんど買った事が無いという人や、教会の知り合いに頼んでいるので効果の違いを考えたことがなかった、という人も。

 さあ、これを聞いているあなたはどこで聖水を入手する?

+++――――――――――――――――――――+++



「……どこで聞いたんだ、これは?」

「コスタズの近くにあるダンジョンだって」

「何をやっているんだいったい……」


「ところでバルは聖水って効くの?」

「効くわけないだろうが。吾輩はアンデッドではないからな」

「いままで聖水撒かれたことある?」

「それはある」

「あるんだ……」

「勇者より先んじてやってきた奴等に思い切り聖水をぶちまけられた」

「聖水ってより普通に水状のものをぶちまけられたって考えるとキレそう」

「おう。普通にキレたわ」

「キレたんだ」

「とはいえ向こうが『なんで効かないんだ……!?』って狼狽していたのが面白かったから、それに関してはまあ」

「なんでアンデッドじゃないのに効くと思ったんだろ……」

「さあ……?」


「……」

「……」


「……と、いうわけで黙って疑問符浮かべててもあれなので、このへんでいったんブレイク!」

「ところでコレ、ちゃんと勇者の調査もやってるんだろうな」

「それはバルの部下に聞いて。それじゃ、安心安全に邪霊楽団員の音楽をお楽しみに~」

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