配信23 ニュース:幻の楽器が驚きの値段で落札?

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「バルは音楽ってどう思う?」

「相変わらずいきなりだな。今日はいったいなんだ」

「貰うコメントの中にも『配信の最初とかブレイク中に流れてる音楽なに?』って来るんだけど」

「あれは邪霊の楽団員どもが弾いている。結界の中でな」

「邪霊の楽団員、普通にゴースト系の魔物だから、人間が聞くと普通にグエーッてなるよね」

「吾輩としては、それを理解していてなお『音楽が必要だから』という理由で弾かせたお前も大概だと思うがな……!?」

「でも一応ほら、結界越しだから」

「誰が結界を作ってやったと思ってるんだ!」


「というわけで、邪霊の楽団員が弾いてます。リクエストも受け付けてるよ!!」

「受けつけなくていい!」

「でもレパートリーが増えるから」

「増やしてどうするんだ!?」

「人類の曲を弾いたら人間がどうなるのかくらいの実験はできるかもしれない」

「お前のその思い切りの良さはいったいどこから来てるんだ……」


「というわけで、今日はそんな音楽にまつわる話題が入っております」

「わかってたが、毎回どういうフリなんだ……」



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《オーフェンルーの竪琴、驚きの500ギルで落札》


 オークション。それは師かな熱気に包まれるある種の戦いの場だ。

 知らぬ者はいないだろうが、オークションとは一つの物品に対して一番高い値段をつけたものが落札、つまり購入することができるというシステムだ。主に高級劇場などで絵画などが取引されるが、砂漠地帯でのバザールなどでも開かれる。

 今回、そんなオークションでオーフェンルーの竪琴が出品された。

 オーフェンルーは千年ほど前に活躍した吟遊詩人で、竪琴弾き。彼の弾く竪琴はあらゆる魔物を鎮めるとされ、当時は時代が時代なら勇者になりえただろうと言われていた人物だ。その竪琴が出品されるとなればかなりの高値が期待されたが、どういう手違いか500ギルで落札されたというのだ。

 これはいったいどういうことなのだろうか。


 なんでも当初、竪琴の入った箱はバルザックの高級劇場に運ばれる予定が、誤って大衆向けに行われていた小さなオークション会場に運ばれてしまったという。中には竪琴の来歴を記した証明書が入っていたというが、雨かなにかで文字が掠れていて、「フェンの竪琴」という名前に変わってしまっていたという。

 オーフェンルーの竪琴が無い事に気付いた高級劇場の支配人たちが、血相を変えて大衆オークションの会場にやってきたというが、そのときには既に遅し。既に終わっていたオークションで、吟遊詩人らしきみすぼらしい男が500ギルでとっくに落札したという。

 今度は男の特徴を教えてもらって探したが、男は既に宿屋を出て、どこかに旅だった後だったという。


 支配人たちは「オーフェンルーの竪琴は本来、こちらが出品するはずだったもの。咎めないので、一度名乗り出てほしい」としている。それとは対照的に、自身も竪琴を弾くというオーフェンルー研究家のボッグ氏はこう語る。「オーフェンルーは華美な装飾や富を嫌い、ボロ布をまとって一生を流浪の生活で過ごしたといいます。そんな彼の持っていた竪琴だからこそ、高値を避けようと不思議な力が働いたのかもしれません。それに彼の竪琴はいまだに弾くことができる品。飾られるより、旅の吟遊詩人に買われていったことは竪琴にとっても本望だったのでしょう」ボッグ氏は自分も竪琴を鳴らしながら、どこの誰とも知れぬ吟遊詩人に思いを馳せた。


 もしかすると今後、知らずにオーフェンルーの竪琴を持った吟遊詩人があなたの街にも現れるかもしれない。ぜひともその音色を耳にしたいものである。

+++――――――――――――――――――――+++



「あるのか、そんなことが」

「あるみたいだなあ。オーフェンルーの竪琴が違う会場に運ばれたってのは事実みたいだし。ときどき、こういう偶然が必然に思えるような出来事って起きるよね」

「わからんでもないな」

「バルはある? こういうこと」

「さあ? 考えたこともない」

「えー、そう? 勇者関係とかでいない?」

「そもそも偶然に思えるようなことがあっても、必然だと思っても、それは結果がわかった後の話だろう。そうであれば……、すべての出来事は必然なのかもしれん」

「おう。よくわかんないこと言うな?」

「じゃあ何故聞いた!? 一応考えたのだぞ吾輩は!!」

「あははは~」

「笑うな!!」


「というわけで、ここらへんで一旦ブレイク! 邪霊楽団の音楽をお楽しみください!!」

「結界外すぞ、小娘ェ!!」

「邪霊楽団の皆様は結界が外れたらストップしてね!」

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