配信14 勇者談義:注目株は?
夜十時。
夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。
やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。
――――――――――――――――――――
「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」
「……バルバ・ベルゴォルだ……」
「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」
「最近、魔物が増えてるって話題ばっかりだったので、勇者についても言及してくれというお便りがちょこちょこ来てるぞ」
「吾輩のところに報告はあがっているがな」
「魔王がいる前でこんな話もどうかと思うけどさあ。いまの勇者候補っていっぱいいるんだから、バラバラでやってないで纏めちゃえばいいんじゃないの。一気に攻め入るというか……」
「やってみればいいんじゃないか?」
「おっ、言うねえ?」
「やれれば、の話だがな」
「まー確かに一筋縄ではいかないかな。とくに冒険者なんて自由の権化みたいな人たちだし。一気に騎士団みたいにはいかないか」
「……そういう意味では……、まあいいか」
「とにかく、勇者はしょせん一人に絞られるからな」
「勇者、出てきてる?」
「いない。出てこればおのずとわかる」
「ふーん。じゃ、本当にまだ出てきてないんだ」
「じゃあ、バル的にはなんか注目株っている?」
「どいつもこいつも代わり映えしないな。以前は《帝王の牙》が、実力の割にダンジョンの攻略が非常に上手いと思っていたんだがな」
「壊滅事件があってから、《帝王の牙》はそんなに話を聞かないなぁ。治療中なのもあるだろうけど、やっぱり後方支援を抜かしちゃったのが大きいかな」
「というか、こいつらは後方支援でもっていたようなものなのに、どうして後方支援を外したままにしたんだ」
「……やっぱり地味だからじゃないかな?」
「もしその推測が合っていたのなら、とんでもない愚か者だ」
「合ってないことを祈るよ。ちゃんと立ち直ってくれるといいよね~」
「じゃあ、いまは注目株はいないわけ?」
「いない。……ただ、たまに面白いと思う奴らはいるな。このあたりだ」
「おお、どれどれ」
《医療班EX》……中級冒険者パーティ 構成:5人
《星の開拓者》……中級冒険者パーティ 構成:5人
「どっちも勇者候補じゃなくて、普通の冒険者なんだ」
「ああ。だが《医療班EX》は所属冒険者が全員回復専門――ヒーラーだ」
「えっ」
「《星の開拓者》は所属冒険者が全員採取スキル専門――コレクターだ」
「は!?」
「それはなんかあれなの、なんかの縛りででもやってるの!?」
「ちなみに《星の開拓者》と書いてコレクターズファイブと読むらしい」
「どういう読み振ってんの!?」
「この突き抜けた構成が面白くてたまに見物している」
「マジで言ってる?」
「《医療班EX》は正直、実力としては脳筋だが頭脳派だ。なぜなら全員がメイス系の武器を持ってぶん殴っているからな。反面、ポーションがなくても魔力回復剤があれば体力面はどうにかなる。魔力吸収系の魔法やダンジョン対策もある程度なされている。他の全滅寸前の冒険者と出会うとたまに野生の回復係と化しているのだけが苛々するがな。もっと金銭を要求してもいいと思うぞ」
「うわぁ……」
「そして《星の開拓者》は、全員が持てるスキルを総動員し、魔物から身を隠しつつ、怪我を負えば応急処置、魔物を倒せば解体スキルで並の冒険者よりも素材を収集し、ダンジョンの攻略よりも内部の採取ポイントに向かう事を主な目的としている……、これほどまでに突き抜けた奴らはいない」
「というか、誰でも出来ることじゃないな!?」
「うむ。面白いだろう?」
「確かにすごい」
「……ねえ、でもこれって、どっちも勇者として注目してるわけじゃなくて、おもしろ構成パーティを見てない!?」
「そうだが?」
「そういうお前は誰か注目株はいるのか」
「やっぱり《王剣の守護者》かなー! 二百年前の勇者タイジュ=クドーの血を引く王子様だよ? そりゃいやでも期待するでしょ」
「……あまり面白みのない答えだな」
「なんだよ! 正統派もいいもんだぞ」
「お前たちの中では、アイツは……タイジュ=クドーはそんなに規格外だったのか?」
「まあ、復活に時間が掛かって、この二百年ちょっとで魔王って人の存在感が薄れかけてたくらいには……」
「言い方はともかく、わからんでもない」
「それに、当時の人からしてもタイジュ=クドーはやっぱり特別な存在だったと思うよ。辺境の地の出身のくせして、クッソ強くて発想力も凄いし……、魔力パネルを作ったのも、蒸気機関の基礎を作ったのもそうだしさ。いまこうして並べてみても、どんだけ貢献してるの? って感じだし」
「……ずいぶんいろいろなものを作ったようだが、結局吾輩はこうして蘇ってきたからな。二百年かかったが」
「そう思うとやっぱり強さも規格外だなあ。ただ、タイジュ=クドーもあまりに規格外すぎて、若干存在を疑われてるけどね!? 『そんな都合のいい存在いない!!』みたいな……」
「実在していたぞ。実在していた吾輩が言うのだから説得力はあるだろう」
「あはは! 本人が言ってるんだからこれ以上のものはないね!」
「……さて、話を《王剣の守護者》に戻すけど」
「まだやるのか……」
「いや、だって注目株の話でしょ。おまけにこの間、また★5ダンジョンを踏破してるし」
「以前と同じじゃないか。足踏みでもしているのか?」
「じゃなくて、クエストで入ったんだって。医療関係者が手術に使う麻酔用の薬草を大量に求めてて、一気に手に入るダンジョンに入ったとか。このクエスト達成でかなり助かったらしいよ」
「ふん。ダンジョンに入った理由はともかく、他の王族や貴族出身の自称勇者よりは実力はあるだろうな」
「まあ王位第一継承者なのに冒険者やって生き残ってる時点でね。実際かなり実力はあると思う」
「……む。意外に理解しているではないか」
「一応ね~。それに低レベルのダンジョンでもほとんど気は抜いてないみたいだし」
「それもそうだな」
「というわけで、皆さんの推し勇者は誰かな!?」
「おい、またわけのわからん投書を募集しようとするな」
「今後もたまに勇者についての談義はしていくから、よろしくね~! それじゃ、ここらで一旦ブレイク! また後でね!」
「……」
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