配信13 ニュース:門番スフィンクス、難題化

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「この間、クラーケンの話題出したじゃない」

「それがどうした」

「あの後から、魔物に関してのお便りというか質問がいっぱい来てるんだよ。これは魔物ですかとか、どういうのが神代からの血を引いてるものなんですかとか」

「なぜここに送ってくる!?」

「魔王に聞くのが一番早いからじゃない?」

「自分達で調べろ、その程度!」


「なんか同じ人とおぼしき文章がいっぱいきてるんだけど……、これひょっとして魔物研究者の人たちなんじゃない?」

「魔物研究者がなおさら吾輩に聞くのか……」

「神代からの血を引いてる、魔物じゃない怪物がいるって話も結構衝撃的だったんじゃないかな~」


「まあバルも全部には応えられないだろうから、とりあえず魔物に関するニュースにだけでも反応してもらおうか」

「……」

「いっぱい入ってきてるんだよね。何個か読もうかと思って。というわけで今日一発目のニュースはこちら!」



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《スフィンクス、魔王による影響で難題化か?》


 砂漠地帯に点在するダンジョンには、地下迷宮に下る際にスフィンクスが門番として存在している事がある。スフィンクスとは、獅子の体に女性の顔を持ち、翼を持った魔物のこと。彼女らは地下に向かう冒険者を試す目的で存在するとみられ、冒険者に対して謎かけをしてくる魔物だ。正解すると道を通してくれるが、不正解ならば素っ気なく追い返される。謎かけだけなので図体だけと思われがちな彼女たちだが、それでも機嫌を損ねたりして襲いかかってくるとかなりの強敵となる。


 そのスフィンクスだが、魔王の復活に伴って問題が難問化・複雑化しているという報告があがっている。以前であればその場で問題をひとつ出される方式だったのが、部屋中に仕掛けられたヒントや問題を解いていく方式に変わり、一つの答えを出すのに幾つも問題を解かねばならないなど、難易度やゲーム性が取り入れられている。中には物語性を持たせたり、制限時間が設けられたり、脱出という名の目的でゲーム性の高い謎解きを解かされた冒険者も。


 魔王の存在は以前から、魔物を強化すると言われてきた。この説は魔王の復活によってその伝説通りであると明らかになったが、スフィンクスの出す謎かけが難問化・複雑化しているのもこの影響ではないかと言われている。ただ、強さに対してはあまり変化が見られないところで疑問が残る。


 先日の魔王の証言により、魔物ではないのではないか、という説も浮上しているが、実際のところはどうなのか、議論や魔王自らによる答えが待ち望まれるところである。

+++――――――――――――――――――――+++



「……なんだ、このニュースは……」

「スフィンクスの出す問題が複雑化して、《脱出ゲーム》とか言われてる件について。どう思う?」

「どう思うと言われても」


「いやでもどうなの実際。スフィンクス。魔物なの?」

「……スフィンクスは魔物じゃないが?」

「じゃああれ? あのー、神代からの血を引いてる?」

「いちいち神代からっていうのも面倒だな。怪物、……、いや、仮の名前として神獣、と言っておくか。スフィンクスも神獣の類だ」

「……じゃあなんで難題化してんの?」


「奴らはある程度、知能があるからな。乗っかってるだけだろう」

「乗っかってるだけ……」

「せっかく魔王が復活したし、ついでに問題も複雑化したら、意外にはまったんだろう。問題を作るのに」

「問題を作るのにはまった!?」

「たぶんそうだ。下に行きたいなら解くしかないな」

「なんかちょっと楽しそうなんだよなあ!」


「とはいえ、他にも『実は……』みたいな事が起きてるから、ついでに紹介しようか。霧の国シュマガルドのニュースを二つ続けてお届け!」



+++――――――――――――――――――――+++

《ブロッケンの妖怪、魔物だった!》

 霧多き蒸気機関の国シュマガルドに出現する《ブロッケンの妖怪》が、このたび魔物であったことが判明した。シュマガルドで頻発する《ブロッケンの妖怪》は、霧の中に人影が映る現象。この霧の中の人影は、長い間、影を見ている人物自身の影であるとされてきた。しかし映った影が本体と違う行動をしたり、襲いかかってくるような動作をすることは何度も報告されてきた。

 だが今回、魔王復活を契機に、この霧の中で出てくる人影が武器を持って襲ってくるという事件が多発。冒険者に調査を依頼した結果、《ブロッケンの妖怪》が本物の魔物であったことが判明した。魔王の出現によって強化され、それまで軽く脅かす程度であった魔物が牙を剥いたのだ。

 シュマガルドでは霧の日に自分の影のようなものを見たら気をつけるよう呼びかけている。



《凶暴化が進むグレムリン、進まぬ駆除》

 また、シュマガルドではグレムリンの被害も報告されている。グレムリンはシュマガルドではメジャーな魔物。鍛冶職人や蒸気機関などの多いシュマガルドでは、これまでにも仕事場や車内に出没。道具を隠したり、機械を止めてしまったりといった被害が出ている。1匹、2匹であれば一般人でも駆除ができるが、既に何十匹ものグレムリンが巣を作っていると厄介だ。そうなればプロの冒険者に依頼しなければならず、シュマガルドでは比較的ありふれたクエストにもなっている。

 そんなグレムリンだが、魔王の復活により凶暴さが増し、手がつけられなくなってきている。下手をすると道具だけではなく人間が引っかかれたりして病院に運び込まれるケースが増えてきている。

 シュマガルドではブロッケンの妖怪とあわせ、「どうせ1匹だからと面倒がらず、駆除剤を置いたり、冒険者に依頼してほしい」と呼びかけている。

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「というわけで、霧の国シュマガルドで最近増えてる魔物被害です」

「ふむ。小手先が得意な魔物が多いが、よくやっているな。そのままやれ」

「うわ、魔王っぽい意見だ。どっちも生息域が人間に近いのも困りものだな。とくにグレムリンなんか仕事場とかに入ってきてるタイプだし」

「グレムリンは倒されやすいが、隠れるのが上手いし数が多いからな。……なんだか虫のような扱いを受けているのはさておき」

「弱点とかないの?」

「吾輩から聞き出そうとするな」

「太陽に当てると死ぬとかそういう直接的な弱点無い?」

「弱点のチョイスが謎すぎる」


「ともあれ、こいつらは吾輩の配下だからな。知っていたとしてもそうそう教えてはやれん」

「スフィンクスと違って?」

「そうだな。だがこの戦争というのは、一斉に互いに剣を向けあうだけではない、ということだ。グレムリンのように既に人間どもの住処に入り込むものもいるからな」

「ふーん」


「お前くらいだ、乗り込んできてこんなことをしているのは」

「あはははは!」

「……はあ……」


「というわけで、今日も楽しんでいってね。一旦ブレイク! また後で~!」

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