配信12 ニュース:魔物愛護団体、声明を発表
夜十時。
夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。
やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。
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「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」
「……バルバ・ベルゴォルだ……」
「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」
「いやー、それにしても魔物もガンガン増えてきてるね。これ、バルの影響?」
「吾輩の他に影響があるなら聞いてみたいものだが」
「でもたまにあるじゃん。地下水道のスライムとか」
「……前言撤回だ。スライムは確かに増殖しやすいな。他の魔物でも発情期なんかはあるが、スライムだけは別だな。特に雨の季節なんかは増殖しやすい。反面、一匹一匹の力は減るが」
「その季節だけは一気に★1ダンジョンが増えたりするからな~」
「下水道か?」
「ぜんぶ下水道」
「とはいえ、スライムは魔物は魔物でもちょっと便利なところあるからな。汚水処理とか」
「あまり意識が無いからな、スライムは」
「あと、たまに人に懐くよね」
「そういう事もあるな。敵か味方かくらいしか判断能力が無いから、当然、人間どもに懐くこともある」
「それは魔王的にはいいの? 竜みたいに、あのー、神代? からの生きものじゃないんでしょ」
「一匹や二匹、人間どもに懐いたところで問題はない。ゴブリンどもの中にだって、勝手なことをしている奴らもいる。お前たちだってそうじゃないのか。魔法使いの中には魔王軍の軍門にくだった者もいるからな」
「それはね。でも魔物だから強化はしてると」
「している」
「そういう感じで、魔物の中でもわりと人間と距離が近い種族っているんだけど、基本的には敵なんだよね?」
「基本的にはな」
「ただ人間の中には、そういう魔物にも権利があるから守ろうとか」
「頭沸いてるのか?」
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《魔物愛護団体、魔王に陳情提出へ》
キリュウ共和国の魔物愛護協会 《深紅の僧兵団》は近日中に、魔王 《幽冥なる忌み仔》バルバ・ベルゴォルに向けて正式な陳情を提出すると明らかにした。魔物愛護協会 《深紅の僧兵団》はこれまでにも魔物の権利を訴え、冒険者ギルド前への座り込みや、壁への塗装、クエストボードに手を貼り付けるなどの抗議を行ってきた。
同団体は「魔物にも生きる権利はある、殺すのは可哀想」と訴える。
僧兵団の団長は「罪もない魔物たちを勝手に従えて強化し、戦争を始めているのは魔王。魔物にだって自由に生きる権利と、戦争反対の自由があるはず。このままでは魔物たちが可哀想」と述べた。
去年7月には、近隣の山にできたコボルトの巣の駆除をした村で抗議の座り込みを行ったことも記憶に新しい。当時、コボルトに畑を荒らされるなど被害にあった村人はこう言う。「あの人たちは魔物と戦ったことも無ければ、その被害も知らない人たち。こっちからすればいい迷惑です」また別の村人は、「昔、『コボルト族のコール』という児童本が全国的に流行ったので、悪戯好きで犬に似た可愛らしいイメージを持っている人もいる」と話した。
魔王復活以降、《深紅の僧兵団》はその動向が注目されてきたが、今回はそれに応えるような形になった。果たして魔王がどう応えるのか、今後に注目である。
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「……。……。……、は?」
「バルがいままでにしたことの無いような顔をしている」
「……お前たちは吾輩が死んでいる間にいったい何をしてるんだ?」
「いやこういう人たちもいるんだよ」
「確かに今回、吾輩は二百年ほど死んでいたからな、どんな思考回路の人間が出てきてもおかしくはないが……」
「遠回しに理解不能だって言ってない?」
「遠回しどころか率直に理解が追いつかない……、ちょっと待て」
「うん。ちょっと待つよ」
「……、正直、言いたいことはまったくわからないが、魔王軍に入りたいという事でいいのか?」
「なんかそれも違うような気がするんだけど!?」
「だが、我が配下である魔物達を守りたいというのはそういう事なのではないか?」
「そうかなあ!?」
「そもそも吾輩も、魔物どもも、たかが一介の人間に哀れまれるほど落ちぶれていないんだが」
「あ~……」
「これは戦だ。誰にも逃げる事は許されぬ。魔物も人間も――当然、吾輩も、勇者もだ」
「覚悟ガンギマリじゃん」
「覚悟が無ければこんな事はできん」
「ともあれ状況によりけりなのはわかるぞ。……だからその……、えー、なんだ。……誰だった?」
「《深紅の僧兵団》?」
「そう。《深紅の僧兵団》にひとつ指令をくれてやる」
「魔物を守りたいのであれば、お前達が人間と戦えばいい」
「……まあ、道理かな?」
「そんなちまちました抗議活動などやめて、まずはやりやすいところからやれ。剣を持ち、人間と戦え。冒険者が殺せないのであれば、親類縁者や一般人と呼ばれる者であれば油断しやすい。まずはお前達が人間を殺せ。それは吾輩の、ひいてはお前達の愛する魔物どもの益になる」
「えっ、なんか急に酷いこと言ってない?」
「吾輩は魔王だが?」
「それもそうだった!」
「その覚悟が無ければ自害せよ。それで人間が少なくとも一人は減る」
「なんか急に酷いこと言ってない?」
「なぜ同じことを言った!?」
「なんか、バルって本当に魔王なんだなぁと思ったよ」
「吾輩はお前こそ一番どうにかしたいんだがな!? さっさと勇者でもなんでもいいからこいつを連れ帰れ!」
「やだ……、なんか私には優しいじゃん。なに?」
「なにじゃないわ死にたいのか!?」
「いや死にたくないけど」
「まあ《深紅の僧兵団》の人達は陳情を出す手間も省けて良かったんじゃないかな!? 内容はぜんぜん良くない気はするけど!」
「いや良いだろう。吾輩からの返事をもらったのだぞ? 喜んで戦争に参加するに決まっている。だから……」
「あ~、このへんでちょっとブレイク! 今日も楽しんでいってね~」
「あっ、コラ! 勝手に次に行くな! おい!!」
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