配信11 速報:『選ばれし星屑隊』、勇者詐称で逮捕

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


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「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「さて、今日の話題なんだけど、ちょっと速報が入ってきてるよ!」

「もう流れるようにお前から報告の形になってるな……」



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《冒険者パーティ『選ばれし星屑隊』、勇者詐称で逮捕》


 さきほどジェイン王国の西デリン村にて、冒険者パーティ『選ばれし星屑隊』が逮捕されたという情報が入ってきました。『選ばれし星屑隊』パーティの6人は、ジェイン王国内で「勇者指定された。自分たちは魔王を倒す為に旅をしている」などと嘘を言って、各地で支援金などをだまし取っていた疑い。


 ジェイン王国では、200年前に制定された「勇者支援法」により、勇者指定された者による民家侵入や窃盗などは罪に問われず、むしろ支援目的として村側から積極的に差し出すよう定めたもの。最近までS級以上の冒険者などにも適用されていたが、国外で同様の行動をする者が相次ぐなどして、国内外から批判があがっていた。

 この法律は5年前に現国王により廃止されたものの、今回、小さな村などではそれを知らず、被害が拡大した模様。西デリン村ではジェイン騎士団の団員が帰省中で、団員からの通報によって発覚、逮捕に至った。ジェイン騎士団はまだ余罪があると見て調べを進める方針。

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「……」

「バルがすっごい微妙な顔で報告を読んでる!!」

「いや……、さすがの吾輩もコメントに困る」

「そうかなあ?」


「ほら、この間も、勇者が来たから歓迎パーティをしたってお便りがあったじゃないか」

「ああ……、勇者が多すぎて偽物かと思ったという話だったな」

「勇者が一人だったら、よく似た顔の人が偽勇者になって詐欺を働くってのはありそうだけど。とうとう勇者を詐称する人たちまで現れたね」

「いや勇者は一人なんだが」

「最終的に一人に絞られるとしても、現状、国に指定された勇者候補はいっぱいいるから。こういう事もあると思ってたけど。逮捕者出ちゃったか」


「しかしこいつらは具体的に何をしたんだ? 勝手に勇者を名乗るくらいなら、正直勝手にやっていろという感じだが」

「バルから見ればそうかもね。別に国が定めた勇者が、人類代表としての勇者になるとは限らないし」

「その通りだ」

「ただまぁ、人類的には勇者は国が指定するものだからなあ」

「いつからそんなシステムになったんだ……」


「ともあれ彼らが具体的に何をしたかっていうと、偵察部隊からの独自の報告があるんだけど……」

「報告せよ。……というか、なぜそんなことまで毎回お前の方に報告が先に行くんだ! 吾輩の方に回せと何度言えばわかる!?」

「たぶん私に持ってくれば、謁見通さずに魔王に報告してもらえると思ってるからだと思う」

「面倒がるな!!」

「でもバルも毎回謁見するのも面倒じゃない?」

「……」

「うわっ、図星突かれた時のすっごい苦い顔をしている」


「まあ、要は勇者を名乗って食費や宿代をタダにしてもらったり、支援金を貰ったり、あとはこの……、民家に勝手に入って窃盗っていうのをやってたって報告が入ってるね」

「最後のソレの意味がわからん! この『勇者支援法』と関係があるのか?」

「大アリだよ! というかまあ、法律としてはもう廃止されてるけど、出来てしまう土壌があったって事。問題はこの『選ばれし星屑隊』が勇者指定もされてないし、冒険者としてもB級だから、騙したって事には変わりないな」

「……ただの詐欺師ではないか」

「ぶっちゃけるとそうなんだよね、このニュース」


「さて。それじゃあ『勇者支援法』っていうのは、さっきも表示したけど、勇者指定された者による民家侵入や窃盗などは罪に問われないってもの」

「具体的にはどんなものなんだ」

「ざっくり言うと、勇者指定された人が勝手に家の中に入ってタンスとか漁ってポーションやお金を持っていっても、家の人は文句言えないって法律だね」

「ざっくり言い過ぎだが、それが許されるのか……。まあしかし文句を言えないどころか、むしろ積極的に差し出せ、とさっきもあったな」

「そうそう。そもそも国をあげて勇者を支援しようって目的で作られたんだけど、勇者がいない時はS級以上の冒険者にも適応してたから、結構評判悪くてねー。それもあって廃止になったと」


「まあとにかく勇者にはすべて差し出せ、というものか。それが近年まであったというなら、土壌があったと言われても仕方ないな」

「実際にはその土壌を悪用してるわけだけど」

「ふん。聞いてみればつまらんニュースだったな」

「それって、面白いニュースもあると思ってらっしゃる?」

「!?」

「あはははは! バルもだんだん配信に慣れてきたところで、いったんこのあたりでブレイク!」

「慣れとらんわ!!」


「それじゃ、今日も《深夜同盟》、最後まで楽しんでいってくれよ!」

「慣れてないからな!!」

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