第十三話 Weltwals, the city of beginnings 2

 目の前に広がる街は、少し小さくて、小汚い建物が幾つも連なっていた。日本とは違い、レンガやコンクリートなどで作られた建物が多かった。中世風......では、一応あるのか?

 しかし、なんだかんだ言いつつも内心はワクワクしていた。新しい事象と街に、俺の心は鼓舞していた。

 かつて無い。こんな夢見たことは。


「ここが、始まりの街か!!」


 俺は柄にもなくそんな事を言ってみた。いや、雰囲気出るかなって。


「すげぇ」


 目の前に広がっている光景は皆んなが思っているよりは全然凄くは無いんだけどな。所謂、ナーロッパと言われる奴だ。

 いや、それ以下だ。田舎のヨーロッパな感じだよ。


「ここが駆け出しの冒険者が集う街。ヴェルトヴァルスだよ!!かつて世界を救ったとされる有名な勇者もいた街だよ。」


「おおお、何これすげぇ。」


 俺はリリアナの説明も聞かずに、他の珍しいものに興味を抱いていた。それに対してリリアナは少し不屈そうな態度をとっていた。悪いなリリアナ。悪気は無いんだ。


「ふんっ、まるで聞いてないですね。」


 と、まあ言いつつ俺の所にまでリリアナは近づいてくる。やっぱりなんだかんだ言って気にはなっているのだろうか。そんな事を思ってしまう。

 そして、俺が興味を持ったのは、魔法で芸をしているお兄さんだ。その兄さんは手から水の魔法を使い、器用に頭に乗っている器に入れている。手先から出てくる水はまるで噴水の様に噴き上がり、キラキラと輝く器に溜まっていく。そんな異質の光景に俺は思わず見入ってしまった。

 いや、これは凄い。やっぱり俺が居た世界とは違うな。 

 ここに来て、様々な種類の〈魔法〉というものを見て、異世界へと来たぞという実感がどんどん湧いてくる。もしも、現代で魔法だなんてそんなふざけた事を言えば、詐欺師、又はペテン師扱いされるであろう。

 そして、SNSに投稿し、死ぬほど叩かれる羽目になるであろう。CGやら、ヤラセとか言われるんだ。

 だが、この世界は違う。そんなCGレベルの事が安易に出来てしまうんだ。恐らく、俺のステータスも魔法特化寄りにしてくれているのかもしれない。


「なあ、魔法ってみんな持ってるのか?」


「まあ、そうだね。この世界ではステータスで目視できる魔法があって、みんな様々な工夫をして生きているんだよ。例え、弱い魔法でも使い方次第では、彼のように商売にだってなる。」


 ここまで来ると圧巻だ。俺はこの世界に来れて良かったのかもしれない。前の世界とは違い、此処には夢が沢山詰まっている。夢も、希望も、魔法も。


「なるほど、それを見る為に能力屋に行くって訳か。」


「そう、正解。取り敢えず、この格好でこのまま突っ立ってたら悪目立するから、ほらさっさと行くよ。」


 俺はリリアナの案内に導かれて、路上を真っ直ぐ進んでいく。始まりの街でも、繁華街であろう筈だがお世辞にも人が沢山居て、活気が湧いているわけでもない。ただ、テンションが上がる。まるで県外旅行に行った時に知らない田舎でも盛り上がるかのような感じだ。


「疑問に思ったんですが、貴方が来ているその服ってどう素材なんですか?」


「えっ、珍しいか?」


「まあ、今はあまり使われてないですからねぇ」


 なるほど、服文化に関してはこっちの世界の方が進んでいるのか。


「そうだな。うーん、布かな?俺、服には無頓着だからあんまり分かんないんだよな。」


「布では銭湯では破けてしまうので不利ですね。余裕が有れば此方で服を買うのもいいでしょう。」


 リリアナは服屋のような建物を指差す。コーディネートか......。異世界ではどんな物がトレンドなんだろうな。

 現世では服、及び流行り物自体にもあまり興味無かったが、こっちの世界では是非、オシャレになりたい物だ。

 そして、暫く歩き続けるとリリアナの足が止まった。


「えーっとー。多分ここが、能力屋ですね。」


「此処が......そうなのか?」


 能力屋と呼ばれている場所。俺にはどう見てもお化け屋敷にしか見えなかった。いや、確かに建物自体は立派なのだが、とても人がいるとは思えない、禍々しい雰囲気を感じる。


「ええ、まあモノは見た目だけでは決められないので。ただ単に外見だけがボロい、老舗の喫茶店パターンかも知れませんよ。」


 その例え、異世界人がやるモノなのか。まあ、俺にはよーく伝わったけれども。


「うーん、そうだと良いんだけどな」


「とりあえず、中に入りましょうか」


 そう言うと、リリアナは先陣を切って重くて大きい扉をゆっくりと開けた。大きな音と共に、ドアが開き切った所で、俺たちは完全なる現実を見る羽目になる。

 理想では中はある程度綺麗そうだと思ったのだが、目の前に広がる景色には少々自分の目を、疑わなければならないものだった。

 

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ZEROとイチとの狭間〜バカは死んでも治らない〜 Air @yachirigi

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