今までありがとう

 扉を開け、闇が晴れたこの世界の空は本当に綺麗だった。


 美しく輝く太陽が、空を赤く染め……夕日となって私たちを祝福した。


 「綺麗な景色ね、勇者」

 「ああ、そうだな。魔法使い」


 勇者は私の前を行き、戦士と僧侶もそれに続く。


 ――バンッ


 強く鳴る轟音。その銃から放たれた弾は勇者の胸を貫いた。


 「……え?……どうな……て」


 勇者は、胸に大きな穴をあけながら私のほうを見た。

 私が手に持つ銃から上がる硝煙を見たのだろう、勇者の表情は見る見るうちに暗くなっていった。

 

 「……嘘だろ?」


 勇者は、絶望の表情を見せたがそれも一瞬……悲しみの表情へと変わった。"信じられない"とでも言うように。


 「勇者!」

 「勇者様!」


 戦士と僧侶も、こちらへと走ってくる。


 「牢獄プリズン


 私は、戦士と僧侶をその場で拘束する。ごめん、動かれたら困るんだ。


 「戦士、僧侶……ごめんね。今まで騙してて」


 口を塞いだからだろう、戦士と僧侶は訴えるように口を動かしているが何も聞こえない。


 「ねぇ、勇者……私はあなたを殺すためにここまで来たの」


 「なん……で?」


 「そう教えられたの。魔王が死んだあと、勇者を殺すのが、最もいい選択だった。それだけなの」


 「嘘だ……魔法使い……ッッ」


 勇者の口からは、赤い血が止めどなく流れ続ける。


 「あなたは、私を信用しすぎたの。ただの村娘が、魔法を扱えるなんておかしい話でしょ?」

 「ま、待て……魔法使いが……、なのか?」


 勇者は、何を言おうとしたのだろうか。"暗殺者なのか?"とでも、聞きたいのだろうか。

 そうね、


 「私が暗殺者よ」

 「そうだっ……のか」


 何か、気になることでもあるのかしら。勇者は、顔を暗くして涙を浮かべていた。


 「とどめを刺す前に、言いたいことがあるなら聞いてあげるわ」

 「……、俺は、魔法使い……お前の……好、き……だ。今も、ずっ……と」

 「そう、今までありがとう」


 私は、淡々とそう答えると勇者の頭に銃口を持っていき


 「あたしも、好きよ」


 引き金を引いた。

 

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勇者は用済みになった @AI_isekai @isekaiAi

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