魔王城の外

 喜びを分かち合う彼らを見て


 「ねぇ、早く国に帰りましょ?」


 私は、優しい表情で彼らにそう語り掛けた。


 「そうだな。国に帰ろう。なぁ、魔法使い……」

 「どうかした?」

 「いや、何でもないよ。さぁ、みんな帰ろう!」

 

 勇者は何かを言葉にしようとしたけど、結局語ることはなかった。死ぬ前に、話せばよかったのに。


 「おう!」

 「そうですね」


 戦士と僧侶は何も知らない。ただ純粋に、世界を救うため勇者と共に戦った戦友だ。


 「俺たち……国に帰ったら英雄だよな」


 恥ずかしがるように、勇者はそういった。

 

 「そうだな、俺も国に帰ったら娘の顔を久しぶりに見たいよ」

 「私も、したいことがありますの」


 戦士は娘に会いたい、僧侶はしたいことがあると言った。そうか、みんなしたいことがあるんだ……。

 私は少し羨ましくなった。


 「そうね、私は……何をするのかしらね」


 考えてみたけど、何も思い浮かばなかったし。生きている姿も想像できなかった。


 「魔法使いは、したいことないのか?」

 「私も気になります!」


 勇者と僧侶は、私に身を寄せて聞いてくる。

 

 「何も思いつかないのよ」


 私は、淡々とそう答えた。だって、私は……勇者を殺した後、きっと死ぬから。


 「魔法使い、気になってたんだがよ。この際、聞いていいか?」

 「ええ。なんでも答えてあげるわよ」

 「家族はいるのか?守りたい人でもいい、お前が魔王と戦う理由は何なんだ?」


 私が戦う理由か……


 「俺は、娘の笑顔を守りたかった。勇者は、世界中の人を助けたかった。僧侶は、これが役目だと言ってたぜ。でも、魔法使いからは理由を聞いたことなかったからよ」


 戦士は、私の戦う理由を知りたいのだろうか。

 家族はいない、守りたい人もいない。

 

 強いて言うなら――


 勇者も魔王もどちらも存在してはいけないからかな。この世界で、強力な力を持つ人はいてはいけないから。

 それを止めるのが、私の仕事。そう教えられてきたから。


 「秩序を守りたいから、かしら。この国、世界に平和が訪れてほしいから。私は、何も持っていない人だから」


 それが、本音なのかどうかは関係ない。


 ――言ったところで、変わらないこと。

 どうせ、死ぬんだから。


 でも、どうしてだろう。胸が締め付けられるように痛いのは。


 そして、魔王城の廊下は過ぎ。扉を開け、外へ出る。

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