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 今日もアイタラとおしゃべりをした。支給されたパンとアイタラのお母さんが作ったお弁当を一かけずつ交換したり、一緒にしりとりをしたり(サファイキ語は基本開音節言語なので、日本語とほとんど同じレギュレーションでしりとりができる。今回は、子音で終わる単語を言ったら負け、というルールにした)した。


 その中で困ったのが、アイタラに僕の情報をどのように開示するか、であった。正直言って、言えることはあまりない。


 例えば「へえー、今まで日本に! 留学してたんですか。凄い。何勉強していたんですか? 文学? 三島由紀夫とかですか?」


 ここからが困る。実は僕、日本文学については大学で最低限しか触れていない。専らサファイキの文学について研究していたのだ。そもそもなんでそんなことになっているかと言うと、サファイキ共和国には大学そのものが存在せず、周辺四ヶ国と共同で建てたUHAIMSだけが……いや、これでは話が長くなるから、簡潔に言おう。


 サファイキの文学を研究しようと思ったら、自国の大学ではなく日本の大学に行った方が早かったから、である。


 独立からまだ10年も経っていないような極小国の悲哀だった。第41回留学生と言ってもHAIMS諸国がまだ一つに纏まっていた頃からの引継ぎだ。見栄張ってゲタを履いているのである。


 という訳で、アイタラに自分の話をしようとすると毎回「いや、実は違うんだ」から話を始めることになる。難しい。かと言って、この純真な青年に嘘を吐くのはなんか嫌である。唯一の救いは、そんな面倒臭い話にも嫌な顔をせずに相槌を打ち続けてくれる彼の度量であった。


 好きになってしまうかもしれない。ならないけど。

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