第6話 ~かぜ~

「すまん、どうやら風邪ひいたみたいだ」

「いいっすよ、いいっすよ」

「ほんとっ、ゴフォっ」

「気に病まずに、休んでくださいよ」

「ほんと、すまんな」


日頃の不摂生がたたったのか、めったに引かない風邪を引いた。


「また、甘えてしまった。。。」


冷凍庫から氷枕を取り出し、薄手のタオルで包んで枕においた。

だいぶ熱が上がってきたようだ、ズキズキと頭痛もするし、めまいもひどい。

ベッドに腰かけ、枕元にスマホをおき、倒れ込むように頭を氷枕に落とした。


今日は木曜日、週に2度の掃除の日。


「今日も頑張ってもらうか」


横になったまま、スマホを開き、いつもの「自動」のボタンをタップする。


「ガシャ」

「ふぃーン」

「ゴロゴロゴロゴロ」


掃除機君が仕事を始めた。


「ふぃーン」

「ゴロゴロゴロゴロ」


ボォーとする頭には、ここちよい子守歌に聞こえてくる。

瞼も重くなり、朦朧とした中で意識を失っていく。


気が付くと、夕方になっていた。


休んでいたせいか、若干体は軽い。


「なんか、ノドが乾いた」


ベットから起き上がり、雑然としたキッチンへ向かう。


「大丈夫?無理しないでねぇ」


キッチンには、洗い物をしながら、心配そうな声でそう微笑む妻の姿が見えた。

のも束の間、ハッと我に返った瞬間、そんな妻の姿は霧が晴れるように消えていく。


「そうだような」


冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し、扉を閉めると、


「大丈夫?無理しないでね」


と書かれた1枚の付箋紙が剥がれ落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る