第5話 ~手紙~

仕事終わりの帰り際、掃除機君の行方が気になって、スマホで所在を確認した。


「なんだ、よかった」


ひとしきり、部屋の掃除を終わらせて、いつものように充電台の位置で「充電中」のメッセージを送って来た。


「多分、通信の調子が悪かったんだろうな」


少し安心して、帰路に着く。


家に着き、念のために掃除機君の様子を見てみると、掃除機の裏のマットの所に1枚の付箋紙が付いていて、


「お酒は控えめに、お野菜もたべてください」


と見慣れた妻の字で書いてあった。


妻が入院中、スマホも使えず、対面で話をすることができなかった僕たちは、付箋紙に書いた短い手紙でやりとりをしていた。

その付箋紙は、冷蔵庫の側面にびっしり貼られたまま、今も残している。


「はがれて、とんでっちゃったのか」


そういって、また冷蔵庫の側面に貼り戻した。


「そうだね、お酒も控えるし、やさいも食べる」


そんなことをいいつ、今日も缶ビールとコンビニ弁当で夕飯を済ませた。


それからも、掃除機君はどこかに落ちた付箋紙を拾っては、

「洗濯物は貯めないでね」

「ごみは、ちゃんと分別してね」

「温泉に行きたい」


と、かつて妻からもらった手紙を僕に届けてきてくれた。

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