第8話 ~出会えてよかった~
さらに月日が経って、掃除機君のモニター利用期間があと1週間ほどになった頃、掃除機のメーカーから連絡が届いた。
~モニター利用のみなさま方へ~
お使いいただいている機種に一部不具合が見つかったため、モニター終了に合わせて、ご使用のロボット掃除機の交換をいたします。
後日、業者が交換にうかがいます。
ご迷惑をいかけいたしますが、よろしくお願い申し上げます。
と書いてあった。
無償で新しい機種と交換するということであるが、半年近くも使って、彼に愛着もあり、素直に応じる気にはなれなかったが仕方がない。
彼が交換される前の日の夜。
会社から戻って、様子を見に行くと、また、マットに付箋紙が張り付いていた。
「今度は何を拾ってきたんだ」
その付箋紙の手紙にはこうかいてあった。
「あなたの妻で本当によかった、ありがとう」
僕は、すぐに気が付いた。
こんな、手紙はもらっていないことを。
でも、まぎれもなく妻の字だ。
正気でないことはわかっている。
でも、いてもたってもいられなかった。
「僕こそ君の夫でよかった、出会えてよかった」
「ありがとう」
「一生忘れない、絶対に」
と書いた付箋紙を彼に託した。
彼は、ベッドの下にもぐっていき、まもなくして、僕の所に戻って来た。
そこには、僕の書いた手紙はなくて、別の付箋紙が張り付いていた。
そこには、
「ありがとう」
とだけ、書かれていた。
亡き妻の、愛しい笑顔が目に浮かぶ。
信じられない気持ちと、伝え合いたかった言葉を交わせられたようなうれしさが複雑に混じり合う。
「なんだよもう、ありがとう」
彼にそういって、僕はまた、夜が明けるまで泣きつくした。
朝、玄関を出て見上げて見ると、真っ青な空に真っ白にくっきりと輝く入道雲が浮かんでいた。
そして、彼は業者に引き取られ、新しい掃除機君が僕の部屋の掃除を担当してくれている。
今はもう、僕のベッドの下で道に迷うことも、手紙を拾ってくることもない。
おそうじロボット ブライトさん @BrightSun
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