第18話 落成

 耐震設備の設置が初日で完了するという快走ぶりに、落成も早いのかと期待感も高まりましたが、まぁ、物を造るというのは、そうそう都合よく行くものではありません。

「早くても、半年は掛かります。

 一年とまでは言いませんが、そのぐらいの猶予を下さい。」

 工事契約の際、立ち会ってくれたトオルからは、そのように聞かされました。

 ミッチャンも、頷いていました。


 しかし、何だかんだで外装がレンガ壁調の建材パネルサイディングで覆われると、グッと喫茶店っぽい趣が増してきます。


 四六時中建設現場へ足を運ぶのもどうかと言うことになり、木之本夫妻はケイコさんの口利きで、近所のスーパーのレジ係や品出しのアルバイトを始めました。

 生活が云々というより、近所の顔見知りを増やすというのが、主目的のようです。


 私とミカは暇人なので、雨でも降らない限り、三日に一度の偵察を行っていました。


 やがて、着工から半年、ミッチャンから『内覧』のご案内が届きます。

 日取りを決め、謎のドレスアップを済ませた木之本夫妻と、何故かお供のケイコさんを従えて、いざ、へ向かうと、外観はほぼ完成し、感嘆の声を上げる夫妻。

 内装は、まだまだ配線・配管が露出していたり、壁の一部が剥きだしになっていたりしましたが、予想以上の出来栄えに、夫婦はすっかり有頂天!

「ちょっと、あそこ見てよ!

 私たちの新しい寝所ですって!」

 LDKの奥に設えられた大型の二段ボックスを見て、興奮を隠さないミカ。

「ん~、これで、子供もお迎えできる!!」


 あ、言い忘れてました。

 私事ですが、先週のはじめに成犬せいじん致しまして、その日の内にミカが妻になりました。

 ええ、どのような恐ろしい顛末が在ったのかは内緒にしますが、私も一家の大黒柱になりました。


 さて、一通り内覧も済ませ、玄関を出てみると外向工事も本格的に始まっています。

「後一週間もあれば、こっちは終わります。」

 陽気に語りかけて来るロック。

「で、相談なのですが、そろそろ屋号を決めてもらえませんか?」

 追加でお話をするロック。

 すると夫婦は笑顔で答えます。

「「ダワンで、お願いします。

 ローマ字書きで…」」

 そう言って、一枚の紙を渡すカスミ。

 しばらく紙をじっと眺めていたロックが、おもむろに顔をあげます。

「分かりました。

 デザインは、こちらに合わせれば良いですか?」

「ええ、お願いします。」

「あと、配色は…」

 具体的な看板の位置を確認しながら話し込むロックと木之本夫妻。


「もうすっかり、自分たちの城ね。」

 ケイコさんが、話しかけてきます。

「ええ、そうでないと困ります。」

 私は答えます。

「何だか、お父さんのように見えますよ。」

「えっ?

 知りませんでした?

 私、先週のはじめに正式なミカの夫になったんですよ。」

「そうそう。

 ねぇ~、ダーリン!」

 おどけた私の隣で、ミカが身体を擦り寄せています。

「まぁまぁ、それはおめでとう。

 元気な赤ちゃんを沢山産むのよ!」

「はいっ!!」

 ケイコさんに激励され、こちらも有頂天のミカ。

 何だか今日は天井の抜けた人が多いようでした。


 内覧から一ヶ月が経とうとする頃、いよいよ落成の話しが舞い込んできます。

 連絡を受けた週末に、確認へ向かう旨を伝え、その日を指折り数え、ニヤニヤするやからが、私のごく近くで増えてきました。

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