第17話 改修と同窓会 後編

 トオル君夫妻は、相当に優秀なようで、三日と待たずにリフォーム案を提示してきました。

 当然のように耐震設備から、補強箇所の追記と補強什器の説明まで付いています。

 タケシ夫妻が喜んだのは、二階の部屋割りで、4Kから3LDKへの変更とユニットバス追加という状態…。

 まぁ、今までの住まい自体が2K程度しか利用していなかったという事も有るのですが…。

 一階部分もだいぶん変更され、倉庫と化していた住居区画は、手洗いとセットで、従業員控室に縮小し、二階へ上がる階段の下に置かれました。

 そして広がった店内は区画整理が成され、ちゃっかり書斎机も一式鎮座しています。

 出来上がった図面と参考イラストにご満悦の木之本夫妻とケイコさん。

 ゆっくりしているわけには行きませんので、そのまま役所へ向かい改築の手続きを行います。

 さらに二日後、役所からの改築許認可を受けたところで、本番スタートです。


 さて、先日の場所と面々で待っていますと、資材を積んだ4t車が、2台の軽トラを従えてやってきました。

 ドアを開けて降りてきたのは

「こんにちは、あけぼの工務店ですぅ。」

 4t車から降りてきたのは、独特な語尾が特長のミツテルこと、通称ミッチャン。

 年甲斐もなく、金色の短髪に、金色のチェーンを首に巻き、灰色ダンダラ模様のチョッキと迷彩柄のニッカポッカ姿。

「先生、仕事ありがとな。」

 手前の軽トラから降りてきたのは、人懐っこいケンゴ。

 こちらも、ミッチャンといいとこどっこいの、金色の短髪に、オレンジと黄色の派手なツートンカラーのチョッキと明るい紫色のニッカポッカ姿。

「よろしくお願いします。」

 奥に停まった軽トラから降りてきたのは、礼儀正しいサトル。

 アッシュグレーの角刈りに、紺でまとめたチョッキとニッカポッカ姿。

 中学時代は、その名を轟かせた悪ゴロトリオが。揃い踏みしたのです。

 確かミッチャンが棟梁を張ると思っていたのですが、服装の落ち着き具合を比べれば、サトルが一番としています。


 三人が揃ったところで、改めて施主の紹介を始めるケイコさん。

「みんな、よろしくね。

 で、こちらが、ご依頼主の木之本さん…。」

 三人とも、中学時代の面影が良く残っている。

 変わったといえば、何かに打ち込む真剣な眼差しかもしれません。


「…、というわけでトオル君の図面を参考に、作業に入ってください。」

「了解ぃっすぅ!

 よぉ~し、ケンゴ、サトル。

 がんばんぞ!」

「「おぉ~!!」」

 ケイコさんの指示を受け、棟梁ミッチャンの檄を受け、拳を掲げるケンゴとサトルでした。

 彼らは早速家には入り、不要な壁の解体に入りました。


 さて、そろそろ町内放送のスピーカーからお昼の音楽が流れ始める頃に、一台のクレーン付きの2tダンプが玄関付近に横付けしてきます。

 運転席から降り立つグレー迷彩の作業着を纏った大男。

(ロック!)

 ロックとは、彼の巨体に付けられた中学時代の愛称で、本名はコウタロウで、ニックネームはコーチャンと呼ばれることもありました。

「ミッチャン、ロックが来たぜぇ~!」

 ケンゴの声が響き

「了解ぃ~。ケンちゃん、玄関の廃材搬出を手伝ってもらえるかなぁ。」

了解ラジャー!」

 ミッチャンとサトルの掛け合いの後、ロックを中心にサトルとケンゴが打ち合わせを始め、広めの布をロックから受け取り、部屋へ向かうサトルとケンゴ。

 そしてロックはクレーンを動かし、クレーンの先を玄関の方に下ろしていきます。

 トラックの裏側の作業で、こちらからは確認する術はありませんが、男性陣の「セーノーデェー!」という掛け声と、物が当たる音から、瓦礫の撤去を進めていることが想像できます。


 やがて、お昼のチャイムが町内放送のスピーカーから流れると、4人の男が2t車の周りに整列する。

 そう、お弁当サラめしの時間が、彼らにも訪れたのです。

 路肩にブルーシートを敷き、四人並んで楽しそうにご飯を食べる悪ゴロトリオプラスワン。


 私が思わず吹き出していると、ケイコさんが不思議そうに私の顔を見てきます。

 おもむろに、タブレットを取り出し、説明を入れる私。

『悪ゴロとロックはライバルだったんですよ、喧嘩ごとのね。』

「なるほど。」

 相槌を打って感心するケイコ。

「お、俺、お茶を届けてくる。」

 そう言ってタケシは、お茶と菓子折りを持って四人のもとに走っていきました。


 二言三言の挨拶を済ませると、肩を叩かれながら、仲間に引き込まれていくタケシ。

 弁当の中身を分け合ってもらい、楽しくお茶と菓子を楽しむ若いオジサンと古いオジサンズ。

 結局瓦礫の撤去まで手伝ってきてしまうタケシさん。


『お疲れ様ぁ。』

「お疲れ様でした。」

 二人に迎え入れられ、ヘトヘトながらも笑顔のタケシが帰ってきました。

 ちょうどタケシが戻ってくる頃に合わせて、ロックの2tトラックも動き出します。

 玄関に積み上げてあった瓦礫は姿を消し、ミッチャンの4tトラックに積んであった機材が整然と積み上げられていました。


 ほどなくして、工事も再開し、徐々に機材も消費されていきます。

 初日から山場であった耐震工事も完了し、十六時頃には役所の担当官の監査まで完了してしまいました。

 これは、喫茶店の開店時期は相当な前倒しになってしまいそうです。


 そして、はからずも中学時代の友人たちの元気そうな姿を見ることが出来、非常に満足できました。

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