第16話 改修と同窓会 前編
自宅の改修が始まりました。
当初は、一階と外観の手直しだったはずなのですが、
おかげさまで、私たちは二ヶ月ほどホテル住まいとなりました。
え、マンスリーアパートは借りられないのか?ですって。
まぁ、アパートを即座に借りることが出来なかった原因は
閑話休題
さて、自宅から必要最低限の生活品の運び出しも済ませ、家財の移動に立ち会うべく、私とタケシ、そしてケイコさんが立ち会うことになりました。
家財は一度貸しコンテナに保管することになっています。
「やぁ、先生。
今日はご贔屓に、どうも!」
運送屋の上着を羽織り、表れたのは中学時代の同級生シンジ君でした。
昔は余りの細さに『もやしっ子』と言われていたのに、まぁ、筋骨隆々のマッチョオヤジになっています。
「シンジ君、よろしくね。」
ケイコさんが笑顔でお願いすると
「ガッテン、承知!!」
どこかで見たことが有るようなポーズを決めると、手下どもを引き連れて家の方に入っていきます。
タケシも彼らに併せて、家に入りました。
さて、暑苦しい連中が消えた頃、これまた細身の男性が大きなアルタートカバンを肩に掛けてやってきました。
彼にも見覚えが有るのですが・・・。
「先生、ご依頼の物件はこちらでしたでしょうか?」
「!!!」
彼の声にビックリした私。
「ええそうよ、トオル君。
今二階で荷物の運び出しをしてるから、取り合えず、外観の確認からお願いね。」
「分かりました。
おい、ユイ行くぞ!」
「はぁ~い、あなた。」
ケイコさんの指示を受け、家の調査を始めました。
『トオルって、もう少し太ってたはずだし、いつの間に結婚した?』
思わずタブレットで質問してしまう私にウィンクしながらケイコさんは答えます。
「彼は、五年前に糖尿病が原因の病で生死をさ迷った事が有るの。
まぁ、その時にダイエットを決意し、手助けしてくれた方が、あの奥さんというわけ。」
『そうですか。』
正直感慨深いものがあります。
どれだけ他人を見過ごして来たのでしょうか。
そう思いため息をついていると、ケイコさんが悪戯っぽい笑みを浮かべてきます。
「まだまだ、タツロー君の同窓会は続くわよ。」
(絶対、この人愉しんでるだろ!)
と心の中で叫びつつも、同級生二人の活躍が眩しく見える私でした。
やがて荷物の運び出しが始まり、その作業も一段落したところで、私とケイコさんにも声がかかります。
外観の確認を済ませたトオル夫妻も同行し、私たちは二階に登りました。
待ち構えていたのは、開かずの扉が二枚。
扉を開けるかどうか悩んだタケシが、ヘルプを出したのでした。
「開けましょう。」
「わん!」
ケイコさんと私の返答に頷き、元書斎寄りのドアを開くタケシ。
部屋の中には骨蕾と遺影が一枚、床に置かれていました。
ケイコさんは、一礼すると部屋に入り、骨蕾と遺影を取り上げ、私に見せます。
「お母さんの遺骨と遺影ね。
お父さんと同じ所に弔いましょう。」
「わん!」
私はケイコさんに賛同の意を示し、彼女も了承しました。
不思議な事に、誰も邪魔をせず、成り行きを静観していました。
もう一つのドアをタケシが開きます。
部屋一面に新聞紙が覆いかぶされて、何かを隠しているようです。
こちらもケイコさんが部屋に入り、ある部分の新聞紙を取り払います。
「まぁまぁ。」
ケイコさんは思わず感嘆の声を上げ、隠されていた正体を私たちに示します。
「陶磁器製のティーセットよ。」
後にわかることなのですが、ここに在った食器のほとんどは純白の陶磁器製で、資産価値まで付くようなシロモノでした。
「さてさて、これは誰の遺産なのかしら?
シンジ君、この食器たちも新しいお店で使うから、大切に運び出してね。」
「ガッテン、承知!!」
決めゼリフとポーズを決めると、シンジ一行は準備のために階下に移動しました。
「それじゃ、トオル君も開いた部屋から順次確認を進めてね。」
「分かりました。」
ケイコさんにお辞儀をし、私たちの、寝室へ移動していくトオル夫妻。
「あ、忘れてた。
トオル君、一級建築士で腕は確かだから。」
『分かってます。』
ケイコさんは、変なところでお茶目が過ぎるようです。
荷物の払い出しも終了、耐震の確認も兼ねたリフォーム下準備も完了したところで、本日は解散となりました。
解散後、ケイコさんに伴われ、私は父の墓に母の遺骨を安置してきました。
これで、長年心に積もっていたわだかまりも、少しはガス抜きができたのかもしれません。
ケイコさんにお礼を述べ、私は帰途につきました。
ケイコさんは、目を細めて、私を見送ってくれました。
まぁ、帰宅途中に二回ほど子供とお巡りさんに追い掛け回されたのはナイショの話しです。
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