第10話 不思議な出会い
「見かけない顔ね?
あなたたち、何処から来たの?
ああ、私の名前はクイーンよ。」
ご婦人の膝に乗っていた
「初めまして、私はタツロー、隣の男はタケシと申します。
タケシは、ここから南西に行ったところにある港町の出身で、私は大海原のような草原からやって来ました。」
「そう…。
でも、あなたは草原生まれでは無いようね。
私の
私の返答に対して、思わぬ言葉を返してくるクイーン。
私は驚きのあまり、クイーンの飼い主に視線を向けてしまいました。
すると、何かを含んだような笑顔で
何とも自分の正体を見透かされているのか、それとも私自身も知らない何かを知られているような変な不安に駆られた私は、クイーンに対して質問します。
「あなたの飼い主はどういう方なのですか?」
クイーンは
「単刀直入に言うわね。
全幅の信頼を置くのに足りる方よ。」
と、笑顔で答えてきました。
「猫さんが全幅の信頼をねぇ…。」
私が呟くと
「あら、聡明なワン子ちゃんね。
犬にしておくには惜しいわね。」
そう言って、コロコロ笑うクイーン。
偏見と言われれば、それまでなのですが、生来ネコという生物は人間にベッタリと頼るような類のペットではありません。
自己中が毛皮を羽織って闊歩しているものと、私は思っています。
まぁ、私のようなインドア志向の
さて、我々のやり取りを眺めていたタケシが私に話しかけてきます。
「どうしたんだ?
タツロー。」
「あらあら、どんなお話をしていたのかしら?」
私が答える変わりに、
「これは、失礼しました。
私、
「
そして、飼い主同士の挨拶と与太話が始まります。
「ねぇ、あなた。
何か隠してるでしょ?」
目を細めて私を見つめるクイーン
「何を隠しているんですか?」
おどけてみせる私ですが
「そうねぇ…。
例えば、あなたは犬じゃないっ!とか?」
コロコロ笑ってみせるクイーン。
「!!」
図星を突かれ絶句してしまう私。
「あらら、本当に犬じゃなかったのね。」
そんな私の所作を見たところで、笑いは止まり、目を細めて私を見つめるクイーン。
どうやら、タケシさんの方もケイコさんの誘導に引っ掻かってしまったのか、色々と化けの皮が剥がされそうで、会話がシドロモドロになってきています。
「本当に、ケイコさんは全幅の信頼を置くのに足りる方なのですか?」
「さぁ、私の言葉をあなたがどれほど信頼してくれるか次第かしら。」
私の問いに対し、相変わらず、目を細めて私を見つめるクイーン。
おもむろに、タケシへスマホを催促する私。
彼も何かを理解したのか、私の催促に同意してくれた。
スマホを受け取ると、いつも通り、慣れた手付きで文章を組み立て、読み上げアプリを操作する
ケイコさんと
『桜庭さん、はじめまして。
私は、タツローと申します。』
スマホの読み上げた言葉に、得心したのか満面の笑みを浮かべるケイコさん。
「タツローさん、はじめまして。
ところで、あなたたちは何の目的でこの街に来たのかしら?」
『それは…。』
そして、我々がこの街に来た
ケイコさんは、真剣に傾聴されており、適宜質問もされてきました。
さて、二人と二匹で話し込んでいると、窓口案内のアナウンスが流れてきます。
「番号札10番の方ぁ~。
お待たせしましたぁ~。
住民課の窓口へお越しくださぁ~~い。」
アナウンスに促され立ち上がるタケシ。
「すいません、呼ばれましたので…。」
「ええ、またゆっくりお話しましょうね。」
タケシとの挨拶を済ませると、私の方にも向き直るケイコさん。
「あなたもね、タツロー。
近いうちに、再開することになるでしょうから…ね。」
「わん!」
私は愛想よく返事を済ませ、ケイコさんと別れました。
すると、クイーンがケイコさんの膝から降りて、私のところまでやって来ます。
「それじゃぁ~ね、坊や。」
そう言ってクイーンは、私の額を軽く舐め、ウィンクを送るとケイコさんの膝へと帰っていきました。
さて、住民課の窓口へ向かうと、先程の女性がわれわれを迎えてくれます。
「こちらが、木之本さんの住民票です。
ご家族などの記入欄に不備がないかご確認下さい。」
住民票を受け取り、一通りの内容を確認するタケシ。
「はい、問題ありません。」
「本籍地は、現住所と合わせるという事で問題ありませんか?」
「はい、お願いします。」
「分かりました。
…と、こちらの住所は…。」
そう言って、法務省の登記簿謄本を確認する女性。
「はい、確認できました。
こちら、固定資産税も発生しますのでご注意下さい。」
「分かりました。」
とりあえず、家主変更の手続きが正式に完了した瞬間です。
その後、印鑑登録証の手続き、住民税や国保、年金の説明を一通り受けたところで、私とタケシのミッションはコンプリートとなりました。
さて、窓口の席を立ち振り返ると、ケイコさんとクイーンが先程の席からずっとこちらを笑顔で眺めています。
「お先に失礼します。」
タケシと私も笑顔を返して、役所を後にした。
これでようやく、木之本夫妻は自宅を手に入れ、私とミカも安住の地を確保できました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます