3 君と未来と『かけがえのないもの』(1)

 俺は夢を見た。幼馴染が出てくる夢を。


 その夢は妙にリアリティーがある夢だった。俺が誰か知らない人に刺される、そんな夢。でも俺の目が覚める前、そばにはアイツがいた。幼馴染で、幼稚園の頃からずっと一緒に遊んだりしていたアイツ。


 アイツはこんなことを言ってた。またダメだったとか、次こそ絶対助けるだとか。そんなことを悔しそうに泣きながら言ってた。なんだよそれ。意味分かんねぇよ。そんなことを思いながら目が覚めた。


 学校にいる間も、アイツのことが頭から離れなかった。授業を受けている間も、友達と話している間も、俺はずっとアイツのことばかり考えていた。アイツが何か大変なことに巻き込まれているんじゃないか、そんなことを考えていた。


 放課後、俺は知らない女子に呼び出された。呼び出された場所は誰もいない教室で、そこにはさっきの女子がいた。その女子に俺のことを部活で見て一目惚れしたから付き合ってほしいと言われた。俺は断った。向こうが好きでも、俺にとっては初めて出会う女子なんだから好きもクソもない。そんなことより、待たせているアイツの方が気がかりだった。


 外は雨が降っていた。昼休みくらいまではあんなに晴れてたのに。そんなことを考えながら、俺は下に降りる。部活が休みの日はいつも一緒に帰っているアイツ。アイツは玄関で、虚ろな目をしていた。まるですべてを諦めて、絶望の淵に立たされているような。


 俺はどうしたらいいのか分からなかった。アイツに何か悩みがあることは分かった。でも、もしその悩みは俺が思っているより何倍も大きくて、俺一人なんかじゃ到底どうすることもできなかったら……。そんなことを考えた。でもアイツの力にはなりたい。どうしたら……。


 そう考えていたら、アイツがボソッと何かを言った。その一言で、俺は何をしたらいいのかがはっきりと分かった。


「誰か、助けて……。」


「……え?朔也?」

「何で……?」

 俺は抱きしめていた。アイツを。晴香を。

「大丈夫だから……。俺がそばにいるから……。」

 俺はそう言った。そしたら晴香は泣き出した。今までに見たことがないくらいに。俺は抱きしめ続けた。晴香のために。


「……ありがとう。」

 しきりに泣いた後、晴香はそう言った。

「いいよ別に。……何かあったのか?」

「うん……。でも大丈夫。」

「そうか。なら良かった。」

「うん。もうかっこ悪いとこは見せない!」

「……俺もあんなところで恥ずかしいことはしたくない。」

「ちょっと!女子とハグして最初の感想がそれってどうなの!」

「そんなことが言えるなら大丈夫そうだな。」

 良かった。本当にそう思った。晴香と他愛ない話をして、笑って、そんな風に過ごすのが本当に楽しかった。ずっとこの時間が続けばいいのに。そう思った。


「ああ、そうか……。」

 この時俺は思った。彼女は……晴香は、俺にとってかけがえのない存在なんだなって。

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