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「あら?ノル様ったら穏便にって言っていたのに、さっそく騒ぎを起こしちゃってるじゃないですかぁ」
私、ミオは屋敷内に侵入できました。元々下調べでどこに何があるかというのは知り尽くしています。後は私が浜辺雅を捕まえれば任務完了ですね。おっと赤外線ですか。危ない危ない。一応穏便に済ませろとの指示を受けているので、バレないように頑張ります。
『お、おい!誰だ!』
「あれれぇ?」
後ろに人が・・・と思ったら、ノイズ音が混じっています。上を見ると、カメラが私を見ていました。まさかの記入漏れ・・・ここを任せた≪魔王の七剣≫は誰でしたっけ?後でガツンと言わないといけませんね。
まぁこの程度なら全く問題ありませんけど・・・
「≪狐火≫」
黒い炎で監視カメラを破壊します。バレた後では全く効果がないかもしれませんが、これから移動するのに支障をきたすかもしれません。それにノル様も通る可能性があるのです。あのお方の素晴らしい玉体がカメラごときに映るのは許せないですねぇ。
「こっちだ!」
「いたぞ!」
「降伏しろ!」
重装備をした人間たちが私に向けて、銃を向けています。私、女なんですけどねぇ。まぁここに侵入した時点で生きて返す気はないんでしょうね。ただ、
「人間ごときが私に銃を向けるなんて・・・ふふ、万死に値しますねぇ」
ぞっ
銃を持ち、重装備をした警備員たちは丸腰の女に負けるはずがない。だけど、目の前の女のプレッシャーでぶわっと汗があふれ出す。逃げようと身体が後ろに向かおうとする。しかし
「っ!惑わされるな。相手は女一人だ!撃て!」
隊長らしき人間の発破で冷静になります。やりますね。いくつか修羅場を潜り抜けていそうです。
冷静さを取り戻した警備員たちは慌てて女に向けて銃を乱射してきたその時、その女が三日月型に口を歪めたのを見てそこから先の記憶は全くない。
●
「な、何が起きているの!?」
屋敷の防犯システムが起動してフォンフォンうるさい。丁度SNSでエゴサをしていたところなのに!
自分の部屋から扉に耳を当てて、外の様子を気に掛ける。
「手榴弾の許可とロケットランチャーの使用許可が下りたらしいぞ」
「マジか!一体どんな大群が?」
「それが正面から一人、後は屋敷内に既に一人侵入しているらしい」
「お、おい!別の場所で侵入者だ!」
「こっちもだ!」
なにやら私の屋敷に侵入者が入ってきたらしい。しかも聞く限り少数で警備員たちを圧倒している。そんな凄腕が入ってきているということは
お父さんとお母さんの財産を狙って入ってきたに決まっている。全くはた迷惑な話ね。だけど、数人ではいずれ時間の問題。それに銃声がこれだけなっているんだもの。近所の人間が集まって警察を呼んでくれるはず。
さっさと泥棒達には豚箱に入ってもらわないと。夜更かしは美容の天敵。一番しか欲しくない私にとっては自分で足を引っ張るようなことはしたくない。とりあえず日課のエゴサは続けましょう。アンチ共が今回でどれだけ見つかるかしら。
●
「って思ってるんだろうな」
残念ながら戦闘が苛烈化し、俺にロケットランチャーや地雷、手榴弾も投げ込まれてきた。当たっても全然痛くもないが、埃っぽくなる。それは勘弁してほしいし、くしゃみとかしたら威厳がなくなる。だから、≪影喰≫を使って、所々は防ぐ。
「クソっ!何で止まらねえ!」
「撃ち続けろ!」
「効きません!」
「なんだよあの力!?」
「それでも撃つしかない!」
「それでいい!なるべく音を立て続けろ!」
「ふむ」
最悪の場合は騒ぎを聞きつけた近隣の住民に助けてもらうつもりだろう。このあたりの人間たちは浜辺家に世話になっているものたちだらけだ。こういうことも想定してる可能性が高い。だけど残念、こっちには認識阻害と音声遮断ができる人材がいるんだわ。
上を見ると、結界が張られていた。ただ術者はここにいない。結界を張り終わった後に、浜辺雅を探しに行ってしまったらしい。俺がここで全員潰せば、後は蹂躙のみ。浜辺雅には地獄を味わってもらう。ただ一つ問題がある。
「ミオめ・・・浜辺雅の部屋を伝えずに行っちまいやがって・・・」
俺は絶賛迷子中だったと同時にこれからの行動を考えていた。あんな察してますみたいな雰囲気で消えられたら呼び戻すのも恥ずかしい。俺は威厳のために余計な労力を担っていた。
●
「ひぃぃ!ば、化け物!」
「失礼ですねぇ。むしろ」
「に、逃げろぉ!」
誰もいなくなりました。最後までセリフを言わせろっての。化け物化け物って!
「本当、失礼しちゃいますねぇ」
警備員は私の真の姿、九尾と耳を見たら、さっさとどこかに行ってしまいました。まぁいいでしょう。異形が恐れられるのはあっちの世界でも経験済み。それに散歩しながら、浜辺雅の部屋は見つけていました。私はその部屋に歩いて向かいます。ちょっと大き目な扉。自動ロックなのでしょうけど問題ありません。
私の≪狐火≫で扉を燃やし尽します。すると、背後に気配を感じます。
「みんなも揃ってたんですかぁ」
私の背後に≪魔王の七剣≫は全員揃っていた。私は振り返らずに言います。誰一人として反応してくれないのは悲しいです。ノル様はまだ来ていないですが、捕縛しておくのが良いでしょう。黒い火が扉を燃やし、徐々に徐々にその存在を焼き尽くします。そして、
「な、何のようだ!?」
「か、金なら払うからさっさと出て言って頂戴!」
浜辺雅とその両親がいました。ふむ。両親は別室で寝ているとのことでしたが、身内だけの隠し通路でもあったのでしょう。このあたりもしっかり調査しとけっての!まぁここまできたらもうどうでも良いです。
「我らは≪魔王の七剣≫ノル様の忠実な手足」
「今宵我らが欲するのは一つ」
「浜辺雅の身柄一つのみ」
一応それっぽいことを言っておきます。スパイ映画をノル様に予習しておくようにとの指示だったので、みんなで観ました。意外と面白かったです。こっちの世界は娯楽が素晴らしいですねぇ。そんなのほほんとしている中で必死な形相の浜辺雅の両親。
「む、娘を明け渡せというのか!?」
「私たちの子を渡すわけがないでしょう!連れてくなら私たちを連れていきなさい」
「お父さん、お母さん・・・」
中々良い両親です。娘のことを本当に思っているのでしょう。自分のことを犠牲にできる両親なんてこの世界に何人いるのでしょう。幸せ者ですね。
「ユィット」
「はいはい」
「な、なにを・・・す・・・る」
「貴方!だい・・・じょ・・・う・・・ぶ」
ユィットがフィンガスナップをすると、浜辺雅を庇っていた両親は寝落ちしました。これで数時間は起きないです。ベッドで女の子座りをしている浜辺雅をまっすぐ見ます。
「こ、来ないで!」
怯えていますが当然でしょう。私たちは全員人間じゃない。ノル様に教えていただいたこの世界の常識では魔族なんていないんですから。ただそれは普通の人間に限ったことです。
「はぁ、怯えた表情なんて似合わないですよ。先代魔王の幹部、≪七大罪≫が一人強欲のマモン様」
「・・・」
ピタリと怯えた表情が消えます。そして、表情が抜け落ちます。そのプレッシャーに一瞬だけ気圧されますが、すぐに冷静になります。
「・・・それをどこで?」
「我が主、ノル様の教えです」
「なるほど、なるほど。私の奴隷にでもなってもらおうかと思ったけどそうもいかないみたいね。消すわ」
膨大な赤い魔力の奔流が溢れます。これじゃあ結界が持つかどうか。結界を形成したエマを見ると、すぐにこの場から消えました。張り直しに行ったのでしょう。
☆7VENUS☆を簡単に排除できない理由。我が主の義姉君、穂乃果様を除いた七人が先代魔王の幹部、≪七大罪≫の転生体だからです。もちろん我が主なら後れを取るわけがありません。ただし、≪七大罪≫すべてを相手取るのはしんどいようです。
だから、ノル様は一人一人潰していくことを考えました。そして、一番重要なこと。それは≪大罪≫の強奪です。≪七大罪≫は勇者であった我が主に勝てないと悟った時に集団自殺をし、先代魔王を置いて転生しました。そんな卑怯なやつら義姉君をイジメているのです。ノル様の怒りは相当だったでしょう。
今、ここにいないのはノル様が現強欲担当の私に偽物の強欲の座を得ているマモンから≪大罪≫を戦って奪えという指示ということでしょう。面倒な警備員たちはすべてノル様に集中しています。必ずや期待に応えて見せます!
「ふん、気に入らないわね。そういえば狐の剥製が欲しかったのよ。貴方を殺した後に飾ってあげるわ」
「ふふ、義姉君がいなければトップになれない情けない魔族が吠えても何も怖くありませんよ?」
「!死ね!」
現在と過去の強欲の戦いが世界を超えてぶつかった。
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