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ライブが終わり控室に戻ってくると、穂乃果が私の下に来る。おろおろしながらも笑顔を崩さない穂乃果に怒りが募る。


「これで、どう・・・?」

「ふん、さっさとノルマを寄越しなさいよ」

「う、うん。さっきはごめんね」

「どうでもいいわよ」


許す許さないなんてことをしなくても穂乃果なら金をくれるだろうけどね。普通ならマネージャーや社長とかがこんな暴挙を許さないだろうけど、穂乃果の悪女というイメージがそれを許していた。マネージャーも私たちの行いには目を瞑っている。


世間じゃ≪国民的嫌われアイドル≫と言われているけど、☆7VENUS☆の私たちにとっては丁度良い雑用であり捌け口であり奴隷だった。メディア関係者にとってもでしょうね。穂乃果が炎上することによって数字が得られるんだから。


穂乃果が私に貢ぐのは当たり前のこと。私たちがこのイメージを付与したおかげでうだつの上がらないほんわかアイドルからある意味で一番知名度のあるアイドルにしてあげたんだから感謝されることはあっても恨まれる筋合いはないわね。


まぁこの子はそのあたりのことは全く気付いていないんでしょうけど。底抜けにお人よしだから、自分を犠牲にすることに何も文句を言わない。だったらとことん利用させてもらうわ。まぁとはいっても辞められると困るのは事実だから加減を間違えないようにしないと。


っていうのが・・・・・・☆7VENUS☆全体・・・・・・・・・・にとっての話・・・・・・


「うじうじ女が!なんでてめぇみたいな嫌われアイドルが一番認知されてるんだよ!」

「グフっ」


☆7VENUS☆は確かに国一番のアイドルグループだ。だけど、それはグループでの話だ。一番このグループで顔を覚えられているのは穂乃果だ。後は可愛いくて美人だけど顔は覚えていない凄い人たちの集まりというのが現状。


私はそんな状況を許せなかった。


もちろんそう仕組んだのは私たちだ。ヘイトキャラを作ることによって、拡大できたのは成功だろうし、間違えてはいない。だけど、それはそれだ。私が一番になりたい。一番知られたい。そして、一番ちやほやされたい。歪だけどそれを成し遂げている穂乃果に怒りが収まらない。


「立ちなさいよ!」

「うっ、ご、ごめんなさい・・・」

「謝るな!こっちが惨めになるじゃない!」

「痛っ!」


これが八つ当たりであり、栄光のため自業自得であったとしても感情面は別だった。青あざを作り、嫌がらせをして鬱憤を晴らす。他のやつらは見ているだけ。まぁ私の鬱憤が晴れたら他の六人人もおなじようなことをするんでしょうけど。


「出た、雅っちの八つ当たり。ほのかっち可哀そう~」

「ど~でもいい~つ~か~れ~た~」

「うるさい!」


私に対してメンバーから煽りの言葉が浴びせられてより穂乃果へのアタリが強くなる。


「死ね死ね死ね死ね死ね!」


私は自分の気が済むまで穂乃果に暴力を振り続けた。



家に帰る。私の家はどこからどう見ても巨大な家だ。メイドや警備員は当たり前にいるし、金は腐るほど持っている。それでも穂乃果に貢がせるのは趣味だ。本当は欲しいものなどいつでも買える。


今は食事中だった。うちは家族全員で食事をするという決まりがある。両親と私、その三人で並んで食べる。そのおかげか分からないけど、うちの家族が不仲になるみたいなことはない。二人とも仲が良いし、私を大切に扱ってくれる大事な両親だ。


「雅、今日はどうだった?」

「まぁまぁだったわ。いつも通りって感じ」

「そう。お母さんは雅が有名になってくれて鼻が高いわぁ」

「お父さんもだよ」

「もぉ、お母さんもお父さんもいつもそればっかりなんだからぁ」


わははと家族内で歓談を行う。今日のライブのことを話して、お母さんとお父さんがうんうんと誇り高そうに聞いている。それだけで私の自尊心は保たれる。だけど今日は様子が違った。


「実は今日、穂乃果のライブを見に行ってたんだ」

「ええ!本当?それなら言ってよ!」

「すまない。プレッシャーになったらと思って声をかけなかった。ただ一個だけ思うところがあってな・・・」


お父さんが深刻そうな顔をする。お父さんだけじゃない。お母さんもだ。


「どうしたの?」

「私とお父さんで一条穂乃果を追放しようと思って」

「っ」


ここにきて穂乃果の話題を聞くとは思わなかった。ギリっと歯を食いしばる。そして笑顔で耐える。


「あんなに下劣で品のない女性は見たことがない」

「本当よ。親の顔が見てみたいわ。それにあの女が雅をイジメているのを見るのが耐えられないのよ」

「腹黒強欲女と言われたときは会場を壊しそうになったしな」

「そうね。どう?私たちが掛け合ったら追放できるけど?」


両親はもちろん、そこら辺で控えている執事たちもそう思っているらしい。私のことを心配してくれているのは嬉しい。だけど、それをやられては困る。


「それはやらなくていいよ。穂乃果だって私たちの仲間だしね。あの子も含めて☆7VENUS☆だからさ」

「雅・・・」

「だから、追放とか余計なことはしないでね?これから世界に飛び立つのに穂乃果は絶対に必要な人材だから。それじゃあお風呂に入ってくるね!」

「あっ、こら!待ちなさい!」


私は両親の制止を振り払いお風呂に退散した。私は廊下に出て誰もいないのを確認すると、爪を壁に引っ掻く。血だらけになるのに気づかないほど、引っ掻きまくった。


「憎まれ人形が!うちの家族にまで浸食しやがって!」


私の話ではなく、穂乃果の話に家族どころか執事やメイドたちにまで浸食した。あの女が私よりも上にいると突きつけられているようだった。いつかあの女は追放する。けれど、それはあの女がいなくてもやっていけるという事実と私がトップに立ってからだ。その時は


「絶対に殺す」


ここまでの屈辱をくれたのだ。楽に死ねると思うなよ?


ピコン


「何よ。このイライラしている時に?」


スマホを見る。そこには


『雅様、これ貢物です』

『海外の超高級ブランドのチョコです』

『ダイヤモンドが取れたのであげます』

『世界で一番可愛いので送ります』


私に対する貢物の連絡で溢れていた。それは私の●witterに載せておいた●mazonの欲しい物リストだ。『私はこれを買うために頑張ります』と言っておくとファンが買ってくれる。物欲ナシアピールをしておけばいっぱい貢物が入るのよね。


矛盾しているけどこれが大事。後はもう一個別の女王蜂をしているけど、そっちがメインの仕事。穂乃果のことで怒りまくっていたけど、少しだけ溜飲を下げた。


暗闇の中、人影二つ。大豪邸を目指して歩いていた。


「あそこが浜辺雅の家か?」

「はい、そうです」


俺はミオを隣に連れて正面から堂々と浜辺雅の屋敷に向かう。ぽっけに手を突っ込み、軽く猫背にしながら歩くその姿勢は一介の高校生にしか見えない。けれど、ここら辺は高級住宅街だから普通の高校生が返って目立つ存在へと昇華してしまっている。


「他のみんなは?」

「配置についていますよぉ」

「そうか」


本当はミオと二人で終わらせようと思ったけど、うち漏らしとかがあると後で面倒だった。まぁ後は他の配下もみんな俺の役に立ちたいと必死だったから、連れて来た。明らかに数百人は入れそうなその家の門の大きさに驚きを隠せない。


「おお~魔王城と同じくらいの大きさですかね?」

「そうだな」


そんな大規模な家が日本にあるんだから中々面白い。俺はずんずんと歩いていく。門が近づいてくると両端に警備員がいるのが見える。顔が割れると面倒だから俺たちは仮面を装着する。もちろん顔が割れないように凄く速く動くことはできるけど、今のネット社会は何がきっかけで正体がバレるか分からない。


だったら最初から偽りの姿で動いた方が良いだろう。そして、


ノル様・・・。ご武運を」

「そっちもうまくやれよ?」

「はい!」


俺はノルと言う偽名を使う。そして、ミオは影も残さず消える。さて、久しぶりの実戦だ。


「ん?止まれ」

「誰だ?」


俺の前に当然のことながら警備員が止めに来る。が、


「≪影喰≫」

「ギャア!?」

「なんだこれ!」


影が二人の警備員を飲み込む。俺はその様子を見た後、そのまま門をくぐろうとする。しかし、


ビー―!


「ありゃりゃ」


もしかして、生態認証も必要なのかな。やっちまったな。穏便に事を済ますつもりだったけど失敗しちまった。ぞろぞろと人影がそこら中から溢れてくる。中々訓練された動きだ。少しだけ褒めてやろう。


「侵入者だ!」

「援軍を!得体の知れない力を使っています!」

「降伏しろ!」


一気に百人ぐらいの警備員がわらわらと出てきた。本当に日本かというくらいの武装をして俺たちの元に来ていた。銃はもちろん防弾チョッキまで着て一体何がしたいんだか。まぁおおよそ配下たちの調べで浜辺雅が何をやってきたかなんてことは分かっている。


俺に戦力が集中するというのはどうなんだろう。プラス思考で考えたら、他の七人の仕事が減ったと考えることもできる。魔王が一番働くというのも面白可笑しい話ではあるが、それはそれでいいことかもしれない。


「ノクターンを奏でるのは魔王である俺の役目か」


俺は溜息をつく。そして月を見上げた。今夜は満月か。


「後に続け、≪魔王の七剣≫。この夜想曲に乗り遅れるなよ?」


ここにはいない七人に向かって俺は虚空に向かって呟いた。

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