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俺は学校にてスマホをいじる。クラスメイト達は義姉さんのこともあって俺に近付くことをやめたらしい。俺の席の周りだけ謎の空間が出来上がっている。俺と同じ空気を吸うのが嫌だとか触れてはいけない人間と認識してくれたらしい。
それならそれでいい。というかどんどん近づかないようになってくれると嬉しい。人間に価値を見出せない俺からすると、ゴミに近付かれた気分になる。
「またまたぁ。私に近付かれるのは嬉しいくせにぃ。ほらほら素直になって!」
「マジで邪魔・・・」
「酷い!?」
クラスメイト達が近づかなくなったのに、ミオ、じゃなくて澪は変わりなく俺に近付いてくる。それにしてもよくもまぁJKに擬態してるよなぁ。実年齢は「それ以上の思考は許しませんよぉ?」すいません。
魔王なのに配下に謝ってしまった。
「なんであいつと澪ちゃんは楽しそうに話してんだよ」
「幼馴染とか聞いたけど?」
「脅してんじゃない?」
「それはありそう」
「いやいや男子共には申し訳ないけど、ああいった類の女はヤリマ●なのよ?」
「そうそう」
「嘘やろ!?」
ヒソヒソ話しているようだが俺には丸聞こえだ。もちろん澪も気が付いてるに決まっている。それにしても早速澪の悪口か。女って本当にどうしようもない人種だな。事実をねじ曲げるクソ種族。穂乃果姉さんを見習ってほしい。
「そんなに褒めても何も出ませんよぉ?」
「心を読むな」
「朔君が分かりやすすぎるんですよ。この程度ならユィットじゃなくてもみんなできますよぉ」
「マジか・・・」
「マジです」
結構ポーカーフェイスには気を付けていたと思うんだが、意外とバレているのか。これはいい情報をもらった。今後に活かそう。澪に構っていたら授業のチャイムが鳴った。俺は数学の教科書を鞄から取り出してテキトーなページを開いて勉強しているアピールをする。
成績は普通、スポーツも普通。俺のこの評価は本気を出していないことに起因している。成績が良いとよくわからん合宿に連れていかれるし、スポーツができると運動部連中がスカウトに連日来るらしい。そんな面倒な目に遭うくらいなら、実力を隠せばいい。
今は目立つ場面じゃない。俺がやるべきことは邪魔な☆7VENUS☆のメンバーを潰すだけだ。そして、俺たちは今日決行する。義姉さんは今日、公欠でライブに行っている。最高の場面だ。
『リオがターゲットを追跡中です』
『義姉さんは?』
『
『そうか・・・』
『抹殺ならすぐにでもできますが?』
『ダメだ。計画通りに行く』
『かしこまりました』
文通で澪と会話をする。俺はスマホを机の下でいじる。
☆7VENUS☆のメンバーの一人、
今夜のターゲットであり、記念すべき一人目だ。
●
バチン!
「違うでしょ!この馬鹿!どんくさいわね!」
「ご、ごめんね」
浜辺雅に穂乃果は叩かれた。
「私が欲しかったのはベージュのシュシュ!これじゃあ白すぎじゃない!」
「ご、ごめんね。すぐに買い直しに行ってくるね」
「もうそんな時間はないでしょ!ああ!もう!あんたのそのシュシュを貰う!」
「それは私の・・・」
「あんたがどんくさいから仕方なく使ってあげるの!これと今日のライブ代で私にブランド品を貢げば許してあげるんだから感謝なさい!」
「ありがとう・・・」
浜辺雅。髪型はミディアムの黒髪。凛としていながら、優し気のある表情で綺麗さと可愛さが両立している女性だ。愛嬌がよく、様々なドラマやMVに出演している。☆7VENUS☆のセンターを務めている。どんなことにも寛容で愛嬌が良いことから多大な人気を誇る・・・というのが表の顔。
欲しいものがあったら、何があっても手に入れようとする強欲な女だ。実家は宝石ショップを経営しており、大金持ちで政治家にも働きかけができるほどの力を持つ。穂乃果はそんな女の捌け口であり、雑用として利用されていた。
「穂乃果を壊すなよ?」
「そうだよぉ?私たちの共有財産で私たちがのし上がるための踏み台なんだからさぁ。辞められたら私たちも困るんだよ」
「みんな・・・」
「ちっ、そうね。やりすぎたわ。ごめん、穂乃果」
「う、ううん。私たちはワンチームだもんねぇ」
「そうそう。それじゃあ行きましょう。いつも通り頼んだわよ。穂乃果」
「うん!任せて!」
穂乃果がやる気を出す中で七人はほくそ笑んだ。せいぜい私たちの養分となってくれ・・・と
「生きる価値のないみなさんこんにちはぁ!いつも通り私たちのために貢いでくれてありがとねぇ!(笑)」
いつも通り穂乃果へのブーイングからライブが始まった。
●
俺はライブ映像を配下から送られてくる配信で見ている。いつも通り穂乃果姉さんは総袋叩きに遭っている。その時点で隕石でも落としてやろうかと思ったが、俺は我慢する。そして、今回のターゲットである浜辺雅を見る。
「超腹黒強欲女の浜辺雅ちゃんでぇす。はい、拍手~」
『ひっこめクソ女!』
『邪魔なんだよゴミ!』
『俺の雅ちゃんがそんな女のわけがないだろうが!』
『死ね』
『ブーメランを百倍にして返してやるよ!』
穂乃果姉さんに対するブーイングが吹き荒れ、物を投げつけるやつらまでいる始末だ。
「穂乃果の言う通りなんですよ。最近、どうしても欲しかったバックを買ってしまって・・・三万円くらいのやつなんですけど・・・私の欲って底を知らないんですよね」
『いやいやそれくらいなら普通だって』
『むしろ安い』
『ってかゴミ女を庇うとか寛容だなぁ』
『流石雅ちゃん!』
ファンは知らないが三万円というのは実は三十万の間違いだ。しかも、穂乃果姉さんに買わせたらしい。もちろんすぐに取り返させた。
寛容というのは穂乃果姉さんにこそ相応しい言葉だ。自分で稼いだお金は俺の大学進学の資金に回してくれているのだ。それに穂乃果姉さんは俺が高いものを買ってくると怒る。前に穂乃果姉さんに似合いそうだと思って、ブランド物の服を買ってあげたら、怒られた。
私のためにそんなものを買うなら自分のために使えってさ。だけど、穂乃果姉さんはその服を大事に大事に使ってくれている。俺からのプレゼントをそんな風に使ってくれるなら毎年毎年怒られながらも買ってあげたいと思った。
「一条!」
現実に引き戻された。☆7VENUS☆のライブを隠れながら見ている姿勢が寝ていると勘違いされたらしい。
「なんですか?」
「俺の授業でスマホをいじるなんていい度胸じゃねぇか。この問題を解けなかったら、補習な」
黒板の前にまで行かされる。俺は問題を見る。明らかに難易度がバグっていた。これって今の知識で解けるやつじゃないはずだ。私立でもないのに、二次関数の場合分けとか早すぎるやろ。後ろを振り返ると、クラスメイト達と教師はニヤニヤしていた。
ああ、なるほど。これは俺を嵌める気なのね。ライブに集中している間に教室中で手を組んでたわけか。俺の成績なら絶対に解けるわけがないと踏んでるわけか。
「解けないんだったらしっかりクラスのみんなに謝れよ?授業を邪魔してごめんなさいってな」
ふむ。本当に人間ってクソだ。だったらいいや。普通に答えてやろ。成績に関係ないだろうし。俺はカリカリと黒板に数式を書いていく。面倒だから途中式も書かないでいいかなと思ったけど、それで絡まれたら面倒だから全部書いてやるよ。
「なっ!?」
驚いている数学教師。絶対に解けるわけがないと踏んで出してきたわけだろうけど、残念。あっちの世界のスキルで学力に関してはカンストしてるんだわ。ついでに意趣返しで問題を出しておこう。難易度は東大くらいの問題でいいかな。
「はいどうぞ。せっかくいい問題をくれたんだから僕からのお返しです」
クラスメイト達は唖然としている。どう手を付けたらいいのか分からないようだ。数学教師もそんな感じらしい。だから俺は言ってやることにした。
「もっと勉強した方がいいですよ?」
「っ」
小物のせいで穂乃果姉さんのアイドル姿を見過ごしたじゃねぇか。俺は再び同じ姿勢で穂乃果姉さんの応援に集中した。
『やりすぎですよぉ』
『いやいや、全くだろ』
『これで目立っちゃったら本末転倒です』
『確かに・・・肝に銘じておく』
配下からの諫言をしっかり受け入れて俺は今夜のことを考える。
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