プロローグ3

穂乃果姉さんは俺と飯を共にして、早くに寝てしまった。明日、朝一で撮影があるらしい。頑張ってほしいけど、複雑な気持ちだ。俺は穂乃果姉が寝たのを確認して、虚空を掴む。


「≪黒鍵≫」


何もないところに黒いドアが現れる。そして、それを開けると、この世界から俺という存在すべてが消えた。



何もない虚空。宇宙の中にいるようだった。照明は空にある星々っぽい何か。俺が正面を見ると、そこには大理石のような石でできた机があり、既に七人揃っていた。俺は虚無の階段を波紋を立てながら歩いていった。


「悪いな。少し遅くなった」

「いえいえ、私たちも今、揃ったところですから」

「そうか」


長机の右隣に澪がニコニコと座っていた。そして、他の六人もだ。俺は無駄に豪奢につくられた椅子にどかりと座り頬杖を突く。虚空にグラスが浮かび上がり、赤色のワインが注がれた。俺はそれを一口飲んでから話を始めた。


「まずは急な呼び出しに応じてくれて感謝する」

「何をおっしゃいますか。私たちは貴方に救われた身。何があっても貴方に忠誠を誓っています。我が主、いえ、魔王様」

「その名はあっちの世界に捨ててきたっていったろ?今の俺はただ一条朔だ」

「そうでしたね」


クスクスと笑う澪、いや、ミオ。学校では隠していた九本の尻尾と獣の耳を生やしている。彼女は狐人族・・・。俺の異世界での配下だ。他の六人についても同様だ。


俺は現実世界で毒親に一度殺された際に異世界に勇者・・として召喚された。そこでは俺と同い年くらいの人間が何十と集められた。全員勇者で人を外れた力を持っていた。もちろん、それは俺もだ。


魔王軍と戦うために集められた俺たちは奇跡のような英雄譚を何章も作り上げた。しかし、力を持った勇者はだんだんと正義の名のもとに悪逆非道な行いを始める。捕まえた魔族を拷問、強姦、処刑、凌辱、晒し、奴隷、あらゆることをやった。


俺はそんな仲間たちの行いに疑問を持った。だけど、戦い始めた俺たちには魔王の討伐以外に道は残されていなかった。早く魔王を討伐すれば、俺たちはすぐにでも元の世界に帰してもらえる。俺はいつしか勇者の暴走を止めるために戦いに出ていた。


けれど、魔王を討伐しても勇者共の行いは変わらなかったし、元の世界に帰されることはなかった。むしろ俺たちを召喚した王国の人間も魔族狩りに参加してきた。現状に嫌気が差した俺は魔王を討伐した経験値を使って、魔王になった・・・・・・


そして、勇者共を全員殲滅し、王国も滅ぼした。人間という人間を滅ぼした後、異世界に俺を召喚した女神が俺を強制送還して元の世界に戻った。俺にこれ以上あの世界に関わらせないためだろう。人間を救うために召喚システムを使ったのに、召喚した人間に人類を滅ばされるとかざまぁだな。


話を戻そう。俺が元の世界に戻ると、穂乃果姉さんが泣いていた。時計を見ると五分くらいしか経っていなかった。穂乃果姉さんは俺が死んでからずっと泣いていたらしい。両親は俺が死んでいないことで殺人犯にならずによかったと安心していたようだ。


両親みたいな人間なんてどうでもいいと思ったけど、俺のことを本気で思ってくれている穂乃果姉さんがいた。あっちの世界でも同種の人間たちからは忌み嫌われて死ぬことを望まれ続けた。だからかもしれないけど、俺はコロっと義姉さんのことを女として見るようになってしまった。


そして、義姉さんは昔以上に過保護になった。その結果が家出だった。アイドルで稼いだ金でアパートを借りて俺を連れ出してくれた。俺としてはDVがなくなることよりも穂乃果姉さんと二人で暮らせることにうきうきしてしまっていた。


俺はこの楽園ヴァルハラを破壊されないようにするために、実家に一度戻り、実母と義父を殺した。俺にとっては人間なんて穂乃果姉さん以外無価値。殺すことになんの躊躇いもなかった。けれど、


「まさかお前らまで付いてくるとは思わなかったけどな」

「ん、私の居場所は貴方のお側。あの世界にはもう興味も愛着もない」

「そうね・・・」

「置いていくなんて酷いですよぉ。次、置いていったらこの世界を海に沈めます、分かってますか?」

「わたしもです!いつまでもお側に居させてください!」

「ふふ、主様のお側がわたくしの居場所でございます」

「そうなのです!ご主人あるところにメイはあるのです!」


口々に色々言ってくれる彼女たちは俺が勇者を殲滅中に仲間になったそれぞれの種族の長や姫たちだ。助けたわけじゃないと言ってもついてくるからいつしか側近になっていた。


「私たちが来てくれて嬉しいって素直になってくださいよぉ、朔様」

「うるさい。お前だけ元の世界に戻すぞ」

「酷い!?」


まぁいい。実際こいつらがいてくれるとやれることは多い。存分に利用させてもらおう。なお、両親が死んだことを穂乃果姉さんに伝えてはいない。両親は生きているように偽装しているし、実家をこいつらの拠点にさせている。


人死にで足を付けられたら面倒だからな。


「で、ミオ。裏は取れたか?」

「はい。バッチリです。私たちで協力して、七人が大罪を犯しているのは掴みました」

「流石だな。お前らに任せて正解だったよ。面倒が省けた」

「こ、光栄です!」


褒められると大仰に頷くミオと他六人。部下もいないんだから、もう少しフランクに接してほしいものだ。まぁいい。


俺は義姉さんを叩く人間たちを許せない。だけど、義姉さんはすべてを逆転させて一番のアイドルになりたいといっていた。だから、俺がどれだけ消したいと思っても、義姉さんの餌共であるファンを殺すわけにはいかない。


だから俺は発想を変えた。穂乃果姉さんが逆転して、世界で最高のアイドルになる上で障害になっている人間のみを社会的に消せばいいと。その筆頭格が


☆7VENUS☆


穂乃果姉さんは人の悪口を言わない素晴らしい人間だ。だから、イジメてきた相手にすら笑顔を向けるし、もしくはいじめだと気付いていない節すらあると思った。だから、俺は一度穂乃果姉さんを付けた。


すると、案の定だった。姉さん以外の☆7VENUS☆のメンバーは全員クソにクソを混ぜたようなゴミの集まりだった。姉さんに飯を作らせたり、パシらせたり、肩を揉ませたり、暴力を振ったり、衣装を汚したりと最悪だった。


だから俺はこいつらを潰す。だけど、義姉さんを悲しませたくはない。あの人は聖人君主だ。俺が殺したと分かれば悲しむし、何よりもメンバーのことを大事にしている。だから、俺は迂闊に動けなかった。


穏便に卒業させつつ、地獄の生を謳歌させるにはどうすればいいかと考えていたとき、俺の配下の七人がこっちにやってきた。その時俺は考えた。


「メンバー全員、俺の配下に入れ替えて、義姉さんをセンターにすればいいじゃん」


幸いにも俺の配下は超が付くほど美人だ。穂乃果姉さんほどではないが、素晴らしい人材たちだ。義姉さんの護衛兼サポートを任せられれば一石二鳥だ。


だから、俺は作戦を練った。☆7VENUS☆のような女は基本的に裏では悪いことをしているはずだ。だから、俺はそれを晒しつつ、世間で生きていけないようにする。そして、空いたところには俺の配下を入れて、徐々に支配していけばいい。


そして、いずれ最高のアイドルになった穂乃果姉さんを俺が格好良くかっさらってやる。俺としては手のひら返しをした人間を許せるわけがない。だから、俺からの最高の復讐はなんのとりえもないモブAがお前らの偶像を頂くことだ。


もちろん☆7VENUS☆だけではない。芸能関係で俺の義姉さんのイメージを付与したやつは全員死んだ方がマシだと思えるほどの生き地獄を味合わせる。のうのうと生きていけると思うなよ?


「お供します」


俺が虚空に決心していると、七人の配下≪魔王の七剣≫がそれぞれの形で礼を尽くしていた。

━━━

プロローグはここで終わりです。

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