第20話 みかん


蜜柑(みかん)


食欲の秋を超えて、冬に美味しくなる食べ物といえば、「蜜柑(みかん)」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。


この「みかん」とは、皮が柔らかくて、むきやすい小型の柑橘(かんきつ)類を総称してそう呼ぶのですが、

柑橘類のなかでも、蜜(みつ)のように甘い柑橘類なので、かつては「蜜柑(みつかん)」と呼ばれ、

それがいつしか「みかん」になったと言われています。


みかんの起源は古く、三千万年前のインド北東部のアッサム地方から中国、四川省の南部あたりと言われています。

この地方には、みかんの他にもレモンやライムなど、多くの柑橘類が自生していたようです。

みかんを最初に栽培したのは、中国と言われており、

約四千年前には数十種類の柑橘系が栽培されていたという記録が残っています。


日本でみかんが本格的に栽培されるようになったのは、室町時代頃で、温暖な九州地方を中心に広まって行きました。

そして、江戸時代には和歌山県から「紀州みかん」が船で大量に江戸に運ばれるようになり、

江戸でも盛んにみかんが食べられるようになったようです。

江戸時代には「みかん」といえば、この「紀州みかん」の事を指していました。


この「紀州みかん」、中日本や西日本では「コミカン」と呼ばれるみかんなのですが、

その名の通り、形が小ぶりで、酸味が強く、種(たね)がある為、食べづらいものでした。

今の私達が、一般的に「みかん」と呼んでいる、種(たね)の無いみかんは、

「温州(うんしゅう)みかん」という種類なのですが、

実は、この「温州みかん」も、江戸時代の中期頃には既に産まれていたのです。

ですが、何故か圧倒的に「紀州みかん」が市場を支配していました。


温州みかんは、三百年程前の江戸時代の中期頃、鹿児島県で中国の品種が突然変異して種なしみかんとなりました。

しかも、甘味と酸味のバランスがよく、食べやすくて美味しいみかんだったのです。

そしてこの美味しい「種なしみかん」は、中国の有名なみかんの産地である「温州(おんしゅう)」の名前を取って

「温州(うんしゅう)みかん」と名付けられました。


しかし、この温州みかんは、江戸時代にはあまり人気が出ず、明治時代になるまで、殆ど栽培される事がなかったのです。

ではなぜ、食べやすくて美味しい温州みかんが、それほど長い間、日の目を見る事が無かったのでしょうか?


それは「種が無かった」事が原因と言われています。

今の人にとっては「種が無い方が食べやすいくていい」と思うかも知れませんが、

昔は「種がない」という事が「子宝(こだから)に恵まれない」という事を連想させ、縁起が悪いと考えられていたのです。


例えば、お正月飾りに使われるみかんは、元々は「ダイダイ」と呼ばれる種類のみかんでした。

これは、親から子へ、子から孫へと、代々一族が栄える事を連想させて、縁起がよいとされていたからです。

また、この果物は、収穫しないといつまでも実が木から落ちず、同じ木の上に何世代もの実を付けるという事でも、縁起が良いとされているのです。


このように、子孫繁栄を願う昔の人、特に武士階級の人にとっては「種がない」というのは、

さぞ縁起が悪いと思われたのでしょうね。


しかし、明治期頃から、この温州みかんは「美味しくて食べやすい」という事で全国各地で栽培されるようになり、

今では「みかん」といえば「温州みかん」を指すようになったのです。



さて、ここで話は少し変わりますが、

同じ温州みかんでも、中の皮が柔らかく、皮ごと食べられるみかんと、

皮が硬くて口に残ってしまうみかんがあるのを、皆さんはご存じですか?


皮ごと食べるつもりだったのに、皮が固くて食べられなかったという経験をお持ちの方も居るのではないでしょうか。

皮が固いみかんを食べると「外(はず)れた」と感じる方もいるのだとか。


でもこれ、当たり外れの問題ではなく、実は品種の違いなのです。

同じ温州みかんでも、収穫時期によって幾つかの品種に分けられるのですが、大きく分けると2つの品種に分けられます。

一つは、早い時期に収穫される「早生(わせ)品種」で、一般に「早生(わせ)みかん」と呼ばれます。

もう一つは、遅い時期に収穫される「晩生(ばんせい)品種」で、俗に「青島(あおしま)みかん」と呼ばれています。

青島みかんは、本来は品種の一つなのですが、出荷される晩生種の殆どが「青島みかん」なので、

晩生種全般を「青島みかん」と呼んでいるようです。


皮が柔らかい「早生(わせ)みかん」は

早いものでは9月から、一般的には10月中旬くらいから市場に出始め、1月頃まで出回っています。

味がのって最も美味しくなるのは11月の中旬くらいからでしょうか。

一方、皮の硬い「青島(あおしま)みかん」は、11月の下旬くらいから収穫が始まり、

収穫後に、貯蔵をして、ある程度酸味が取れてから出荷されるので、

一般的に市場に出回るのは、12月の下旬から年明け頃で、3月頃まで、この貯蔵された青島みかんが出回ります。


つまり、お正月前後が、皮の柔らかい「早生(わせ)みかん」と、皮の硬い「青島みかん」の入れ替わり時期になるのです。

ですから、この期間にみかんを買う時には注意が必要ですね。


早生(わせ)みかんは、形が丸っこく、中の皮が柔らかくて、酸味と甘みのバランスがよいのが特徴です。

どちらかというと、小さいサイズほど、美味しいとされています。

早生みかんは、食べやすくて人気があるのですが、皮が柔らかいせいもあり、

痛みやすく、鮮度が落ちて酸味が抜け、所謂(いわゆる)「ボケた味」とか「煮えた味」になりやすいという欠点があります。


一方、青島みかんは、形が平たく、中の皮が固く、早生みかんと比べると食べづらいところもありますが、

糖度(とうど)が高く、コクがあり、日持ちがするという特徴があり、大きいサイズが食べ応えもあり美味しいとされています。


勿論、どちらのみかんが優秀という事ではなく、好みの問題なので、

みかんを買われる時には、一度気にしてみてはいかがでしょうか。



いかがでしたか、

好きな人は箱で買うほど大量に市場に出回るみかんですが、

美味しいからといって、沢山食べすぎると、肌の色が黄色くなる「柑皮症(かんぴしょう)」になってしまうので、注意してくださいね。

でも、「柑皮症(かんぴしょう)」は病気ではなくて、みかんの栄養素が皮膚に蓄えられている状態ですから心配はいりませんよ。


さて

みかんは、身近な果物だけに、まだまだお伝えしたい事が沢山あるのですが、

今回はここまでに致しましょう。


それでは、またお会い致しましょう。

さようなら

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