第4話 秋の空



秋の空


みなさんは、こんな言葉をご存じですか?


「天高く馬肥(こ)ゆる秋」


これは、

秋晴れは、空気が澄(す)んで、空は夏よりも高く、気温も過ごしやすくて、食べ物も美味しく食欲も増(ま)してくるという、

いかにも、のんびりした秋の一日を想像させる言葉ですね。


この言葉は、もともと中国の言葉なのですが、

実は、中国でこの言葉が生まれた時には、「のんびり」とは程遠い意味だったのです。


この言葉が生まれたのは、中国は唐(とう)の時代、日本では奈良から平安時代の頃です。

この頃の詩人が、前漢時代のことを書いた詩(うた)の中に、こんな一文が書かれていたようです。


「雲(くも)浄(きよ)くして妖星(ようせい)は落ち、秋高(あきたか)くしては塞馬(さいば)肥(こ)ゆ」


昔の中国の北側には、匈奴(きょうど)という騎馬民族(きばみんぞく)の大きな国があり、秋になって馬がしっかりと草を食べて強く育つと、中国に攻めて来るという事を繰り返していたようなのです。


ですから、

その頃の中国では、秋になって、空が高く雲が清らかになると、敵国(てきこく)の馬が肥(こ)え太るので、不吉な兆(きざ)しだと思われていたようです。


今の日本の、のんびりとした秋の空とは、大分事情が違ったのですね。


ところで、「天高(てんたか)く」という言葉があるように、どうして、秋は空が高いと感じるのでしょうか?


実はこれ、気のせいではないのです。


秋は、大陸からの移動性高気圧の影響で、空気が乾燥して、チリなどの不純物も少ないことから、空気の透明度が高く、青空が澄(す)んで見えるのです。


それだけではありません。

人の感じる「空の高さ」とは、「雲の高さ」とも言えるのですが、


夏に代表される雲といえば、何と言っても「入道雲(にゅうどうぐも)」ですね

またの名を「積乱雲(せきらんうん)」ともいいます。

その他にも「わた雲」と呼ばれる「積雲(せきうん)」などがありますが

これらの夏の雲は、だいたい地上から、二千メートルくらいの位置に出来ます。


一方、秋になって見られる雲には

ひつじ雲、うろこ雲、いわし雲などと呼ばれる、「高積雲(こうせきうん)」や「巻積雲(けんせきうん)」があるのですが、

これらの雲は、だいたい地上から、五千メートルから一万メートルくらいの所に出来るのです。


ですから、秋の空は、夏の空と比べて、本当に数千メートルほど高くなっているのです。


さて、ここで、みなさんに秋空を綺麗に見るポイントをお教えしましょう。

秋空は、天気のよい午前中に、太陽を背にして見ると、綺麗に見やすくなるそうです。

みなさんも、一度、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。



秋の空を表す言葉は、その他にも


「女心(おんなごころ)と秋の空」


なんて言葉がありますね。


これは、人の心は変わりやすく、秋の天気と同じだという意味の言葉です

同じような言葉に「秋の空は七度半(ななたびはん)変わる」というのもあります。


それほど、秋の天気は移(うつ)ろいやすいという事なのですが、

これは、秋は高気圧と低気圧が日本の上空を交互に通るため、天気が変わりやすいという特徴があるからなのです。


今の説明で、秋の空が移ろいやすいというのは分かって頂けたかと思います。

でも、「女心と」というのは、女性にとっては少々複雑なのではないでしょうか?


心が変わりやすいのは女性なの?

と思われる方も少なくないと思います。


実は、この言葉

もともとは「男心と秋の空」だったのです。


室町時代の狂言(きょうげん)の中に

「男心と秋の空は一夜(いちや)にして七度(ななたび)変わる」

という一文があり、それが元になって、江戸時代に「男心と秋の空」という言葉が出来たようです。


江戸時代の小林一茶(いっさ)という俳人(はいじん)も「はづかしや おれが心と 秋の空」と、似たような俳句(はいく)を詠(よ)んでいます。


江戸時代は、女性の浮気は重罪で、男性の浮気は寛容(かんよう)という社会的な風潮がありましたから、やはり、ふらふらと移り気なのは、男性だったようですね。


これが、昭和になって、女性が社会に出ていくようになると、徐々に「女心と秋の空」という言葉が定着するようになりました。

しかし、今でも多くの辞書では「秋の空」の説明に「男心と秋の空」という説明が出てきますよ。


いかがでしたか

秋の夜長は、こんな言葉の成り立ちに想いを馳(は)せて、読書の秋と洒落こんでみては?


それでは、またお会い致しましょう。

さようなら


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