好機
装飾品の露店で買い物を済ませた後も、ナタンとリリエは「市場」の見物を楽しんでいた。
と、人波の間から、誰かがナタンたちに手を振っているのが見えた。
「よぅ、ナタンにリリエじゃないか」
人懐こい笑みを浮かべて人波から抜け出してきたのは、少し前に「帝都跡」の探索を共にしたラカニだ。
「ん? 今日は二人だけ?」
ラカニは一瞬首を傾げたが、ナタンとリリエが、しっかりと手を繋いでいるのを見て、なるほどとでも言いたげな顔をした。
「あぁ、フェリクスとセレスティアとは別行動なんだ」
「そうだよな。恋人同士なら、たまには二人きりになりたい時もあるだろうな」
ナタンの言葉に、ラカニは何度も頷いている。
「ラカニも、市場の見物?」
「それもあるけど、『
「買い取り専門の方がいるということは、『
珍しく、リリエが口を挟んだ。
「あの人たちは、仕入れた『
ラカニは首を捻った。
「とりあえず、一緒に行ってみるか?」
「はい! 是非お願いします!」
リリエは勢いよく答えてから、はっとした表情でナタンの顔を見上げた。
「あ、あの、勝手に返事してしまって、すみません……」
「いや、俺は全然構わないよ」
ナタンは、そう言って笑った。
「リリエは、研究に関係しそうなことになると、一点集中しちゃうのは分かってきたからね」
「そ、そうなんですね」
はにかんだような表情を浮かべるリリエを見て、ナタンの頬も緩んだ。
ナタンとリリエは、ラカニと共に「
屋根だけの天幕を設置した店舗が並ぶ通りの奥に、一軒の簡易な小屋が建てられている。
出入り口の
「ここが、買い取り商人の店? 天幕じゃなくて組み立て式の小屋なんだね」
「一応、金目のものが集まるからな。他の露店みたいにスカスカじゃあ、盗みに入られるかもしれないだろ?」
ナタンの言葉に答えながら、ラカニが小屋の入り口の
店主らしき恰幅のいい中年男が、三十歳前後に見える
「おっと、待たせたな」
「なに、俺たちも、今来たところさ」
ラカニは、男に軽く頭を下げた。
「いらっしゃい。……ああ、あんたか」
店主が声をかけてきた。どうやら、ラカニとは面識があるらしい。
よく見ると、店主の周囲には、買い取った品物の入った箱と、これから品物が入れられるであろう空箱が幾つも並べられている。
その傍らでは、顔も体格も
帯剣しているところを見ると、店主と金品を守る護衛たちだと思われる。
帝国時代の
「
そう言って、ラカニは背負っていた背嚢から、「帝都跡」で発見した「板」と「情報体」を取り出して机の上に載せた。
「どれどれ、見せてみな。ところで、その子供たちは?」
店主は、差し出された「板」と「情報体」を受け取りながら、ラカニの後ろに立っているナタンとリリエに目をやった。
「ちょっと前に、探索に同行させてもらったんだ。若いけど、立派な
「なるほどねぇ」
相槌を打ちながら、店主は「板」と「情報体」を
「『板』の側面にある突起を押してみてくれ」
ラカニに促され、店主が「突起」を押すと、「板」の表面が、ふわりと淡い光を放った。
「もう一つの小さいほうの板……『情報体』を、側面の
ラカニが、
彼に言われるがまま、店主が「情報体」を「板」の側面にある
「この、『再生』という文字に触れると、何か起きるんだな」
店主が「再生」の文字に触れると、画面は一瞬暗くなり、次の瞬間、そこに映し出されたのは、華やかな衣装をまとった一人の可憐な少女だった。
幻想的に輝く星空を背景に、不思議な音色の伴奏に合わせて、少女が踊りながら歌いだす。
「この音も、『板』から出てるのか?! どんな仕組みなのか見当がつかないが……」
「凄いだろ? この女の子、結構かわいいけど、残念ながら百年以上前の人だから、もう会えないんだよなぁ」
食い入るように「板」を見つめる店主の様子に、ラカニが、してやったりという顔をした。
「……これと似たものを見たことがあるよ。
「あの……」
リリエが、店主に声をかけた。
「その『板』は、外部から動力となる『マナ』を補充する必要があります。『
「へぇ、お嬢ちゃん、詳しいね」
店主が、感心した様子でリリエに目をやった。
「リリエは、
リリエが褒められたのが自分のことのように嬉しくなり、思わずナタンも口を挟んだ。
「彼女、帝国時代の
ナタンたちの前に取引をしていた
「いえ……今回は、たまたま上手くいっただけです。帝国時代の
リリエが、慌てて
「お嬢ちゃん、動かない
店主に言われ、リリエはナタンの顔を見上げた。
「ど、どうしましょう……」
「君が、やりたいようにすればいいと思うよ。品物を見せてもらう、いい機会だと思うけど」
ナタンの言葉にリリエは頷くと、箱の傍にしゃがみこんで、その中を覗き込んだ。
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