対比

 「おど子熊こぐま亭」のカヤから情報を得たナタンたちは、通りの向かい側にある、「帝都跡」の地図を扱っているという雑貨屋へ向かった。

「……ナタンさんたちって、昨日会ったばかり……なのですか?」

 道すがら、ナタンがフェリクスとセレスティアの二人と会ったのが昨夜であると聞いて、リリエは驚いた様子を見せた。

「皆さん、とても親しそうに見えたので……ずっと一緒に旅をされているのかと思っていました」

 そうリリエに言われて、ナタンも少し不思議に思った。

 ――たしかに、フェリクスたちとは会って間もない筈なのに、まるで、ずっと昔からの知り合いのような気がする時もある……

「――初めてフェリクスさんを見た時……少し怖かったです」

「怖かった……? 少し頭に血が上っていたことは否めないが」

 フェリクスは、リリエの言葉を聞いて戸惑ったようだった。

「……ごめんなさい。でも、ナタンさんが殴られているところを見たフェリクスさんは、凄く怖い顔をされていて……あと、動きが速すぎて、よく見えませんでしたが……あの大柄な男の人を片手で投げ飛ばしていたので、驚いてしまって」

「そんなことが起きていたのか……」

 ナタンは溜め息をついた。あの時は地面に倒れていた上に、瞼が腫れ上がって目がよく見えなかったのもあり、フェリクスが来たことは分かっても、彼が何をしたのかまでは把握していなかった。

 大柄な破落戸ごろつきの男の身体は、下敷きにされていたナタンが力一杯もがいても、びくともしなかった。男は体格が大きくて重いというだけではなく、ちからも強かったということだ。

 そんな相手を、フェリクスは、不意打ちに近かったとはいえ片手で投げたという。

 同じ「異能いのう」ではあるが、単純なちからだけでも、フェリクスは自分とは桁違いなのだ――ナタンは、改めて、そう思った。

「たしかにフェリクスは強いけれど、危害を加えてくるような人以外には優しいから、心配ありませんよ」

 セレスティアが、そう言って微笑んだ。

「はい、分かっています」

 リリエも、頷いた。

「ナタンさんのことを大切に思っているから、あの時、フェリクスさんは怖い顔をされていたんですよ……ね? それで、皆さんは親しい間柄なのかと思ったんです」

「……そうだな。ナタンを見ていると、昔の大切な友人を思い出して、放っておけないんだ」

 言って、フェリクスは、どこか寂しげな笑みを浮かべた。

 ――たしか、フェリクスは、その「友人」を頼りにしていたみたいだったけど……俺とは、見た目が似ていても中身は全く違うってことか。

 リリエたちのやり取りを聞きながら、頼られるとまではいかずとも、せめて「放っておけない」などと言われないくらいには強くなりたいと、ナタンは思った。

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