四日目

「ひとまず、壷については竹下さんに直接教えて貰うのが一番手っ取り早いみたいですね……。」

怜の隣に座る裕太の傍らに不安気な顔で佇みながら、裕太の方を指差す彼に。


「……あなたが持っているそうです。」

「へ?」

裕太は何がなんだか分からないという様子で怜を見つめた。それもやむを得ない話だ。


「すみません、ちょっと親に確認してみます。」

そう言うと裕太はスマートフォンを取り出して電話を掛け始めた。


「あ、母さん?あのさぁ、うちに昔から伝わる曰くつきの壷なんてある?御札が貼ってあるような奴。」

「なにその面白そうな話は。母さんは知らないわよ?」

電話の向こうの声が漏れ聞こえる。


「ちょっとお婆ちゃんに聞いてみるわね。」

そう言うと、裕太の母が大きな声で

「お婆ちゃーん!」

と呼びかける。

「あのね〜、うちに、御札の付いた壷があるかって、裕太が聞いてるの。」

「壷かね!ああ、ああ、あった!」


『えっ!?嘘、本当!?』

裕太と母の声が重なった。


「あったな!絶対に開けんようにと、母が遺した壷があったわ。何処にやったか……確かこの辺に……。」

どうやら家の中を探し始めたようだ。

「この辺って、そこ、食器棚よ?」

「他に置く所が無かったんよ。」


「そんな大事なものを……。」

思わず絶句する裕太。やがてふと思い当たったかのように呟いた。

「食器棚……?待てよ?そう言えば、引っ越しの時に使ってなさそうな食器を幾つか貰って来たな。」

電話の向こうでは裕太の祖母が引き続き壷を探しているようだ。


「ありがとう。母さん、お婆ちゃん!」

そう言うと裕太は一方的に通話を終了し、怜に向き直る。

「家の中を探してみます。」

「ご一緒します。早速向かいましょう。」




節子

重くなった身体を横たえると、腹の内側から力強い胎動を感じ、思わず呼吸が止まる。

節子は丸く膨れ上がった腹を撫でながら呟いた。


「元気に育ってね。あなたはわたしの分身なんだから……。」


笑いが込み上げる。何がそんなに可笑しいのか自分でも分からない。

……しかし


──……わたしのやるべき事を見つけた。わたしならきっとできる。


節子はこれから自分が成す偉業に胸を躍らせていた。


──……トツキトオカまで、あと少し……。


必要になる祭文には幾度も目を通した。

和紙を切り抜いて御幣を作った。

……あとはその日を待つのみ。


「ふたぁつ、必要なの。だから……ね。協力してね。うふ、あはっ、あははははははははっ。」


深夜の静寂を掻き乱すかのように節子の笑い声が響いた。

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