第1話 嘘しか存在しない世界

 私は車椅子で、病院の中にある学校に通う。


「はあ~、疲れたあ」


 車椅子は、おわる君が押してくれている。

 だけど、病院は10時から開くから、おわる君はいつ学校に行くのだろう?


「おわる君、今日は平日だけど、学校とか行かなくていいの?


遅刻しちゃうわよ」


「今になってから、気にするの?


僕は大丈夫だよ。


学校はお昼からだし」


「そうだっけ?」


 普通の学校は確か、朝8時までにはつかなくては到着しなきゃいけない気がするんだけど、私もそんな記憶がある。


「あと、疑問に思うことがあるの」


「なあに?」


「パパとママは?


おわる君は、いつ家に帰ってるの?


おわる君のパパとママは、心配しないの?」


 私は、おわる君以外に会ったことがない気がする。


「君の両親も、僕の両親も海外赴任で、二人暮らしじゃないか?


急にどうしたの?」


「そうだっけ?」


「そうだよ~」


「私のママはスーパーのパート、おわる君のママはファミレスでパート。


私のパパは自営業で、おわる君のパパは人事異動がない会社員。


海外出張なんて、あるっけ?」


「それでも、海外に異動になったんだよ」


 私は違和感しかなかった。

 この職業は、転勤なんてなかったはずだけど。


 ここで、私のパパとママが無惨に死体となって、床に転がる映像が頭の中で浮かび上がった。

 しかも、おわる君のパパとママも死体になっていて、そこに立っていたのは、返り血をあびたおわる君だった。


 何なの、この記憶?

 初めて見る光景のはずなのに、知っている感じがした。


「どうしたの?」


「ううん、なんでもない」


「本当に?」


「本当よ」


「なら、病院とかでお薬とか処方してもらおうね」


「え?


どうして、そうなるの?」


「君は、持病があるからさ」


「何のお薬?」


「それは、えっと、忘れた」


 おわる君は、私のことなら何でも覚えているし、持病のための薬を忘れるなんてある?


「忘れたなんてことあるの?」


「人間だからさ」


「なら、病院の証明書とか見せて?」


「え?」


「持病に関係することなら、病院から証明書とか、どんなお薬だとかの手帳もあるでしょ?


あと、保険証も」


「あ、えーと、それは家に忘れてきた」


「忘れたなら、今から取りにいかないと」


「それだと、遅刻する」


 こうして、病院に付き、私は授業を受けることになった。

 おわる君の行動に違和感がある。


 私は自分が何の持病があって、どうして車椅子で、この学校に転校した経緯が思い出せない。

 そんなことってある?


 私は何か持病を持っていた。

 だけど、それが何かを思い出せない。


 だから、お医者さんに聞いてみた。


「私は、何の持病を持っていますか?」


「さあ、何だろーね。


そんなことより、お薬用意するね」


「はぐらかさないで下さい。


これから、何の薬が出るんですか?」


 そこで、私は耳を疑うようなことを聞かされた。


「あ、えーと、わかんない・・・」


「わからないってことがありますか?


そしたら、私は今まで、何の薬を飲んでいたんですか?」


「さあ・・・・」


 戸惑うお医者さんに、私は強気に出てしまった。


「そんな答えがあるんですか?


はっきりしてくれませんか?


私の持病や、そして、どんな薬を使っていたかを!」


 どうして、はっきり言ってくれないのだろう?


「そんなこと、気にしなくていいんじゃない?


佐藤おわるという人が、毎日来てくれるし、君はただ薬を飲んで、授業を受けての生活を送ればいい。


持病がどんなものか知る必要もないでしょう」


 私は、車椅子から立ち上がった。

 本当は、立ち上がることなんてできたんだ。


「これで、はっきりしました」


「なぜ、立てるんだ?」


「君は、医者なんかじゃないということ」


「え?


え?」


「私は持病なんて持っていないし、車椅子なんてなくても、普通に立てるし、歩けるわ。


おわる君も含めて、本当のことを教えてくれなかった。


だから、嘘に嘘を重ねた。


だけど、君達はうまく誤魔化すことができなくて、適当な言葉を並べたのよ。


おかげで、私は真実に辿り着くことができた。


そろそろ、本当のことを教えてくれないかしら?


私のパパとママをどこにやったの?」


 ここで、お医者さんはニヤリと笑った。


「バレちゃったかあ。


なら、仕方がないねえ」


 え?

 いつもと違う雰囲気に、私は恐怖を感じた。


「君の両親は、この世に存在しない。


君の肉親は、僕だけだよ。


おわりちゃん」


 なんと、お医者さんがおわる君へと姿を変えた。


「どうゆうこと・・・・?」


「名推理だけは、得意なんだな。


だけど、それが自身を危険にさらしている。


何も気づかなければよかったんだ」


「私は、全てに気づいてなんてないわ。


この世界は、何なの?


パパとママがこの世にいないって、どうゆうこと?


おわる君は、どうして、こんなことができるの?」


「こんなこととは?」


「お医者さんに変身したことよ」


「この世界が、何なのかわかってないんだな」


「え?」


 私は困惑した。

 確かに、ただの変装だけで、おわる君は嘘とか下手だから、看護師や他の患者を騙すことには無理がある気がした。


「この世界が、何でできて、僕はどうやって君を監視しているのか、何ひとつわかってないな」

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