番外編 ベッドの上の花嫁〜脱出編〜

 私は、目が覚めた。


「夢・・・・?」


 不思議な夢だった。

 

「起きたか、ブライド」


「うん、今起きたところ」


 私は、お父さんに呼ばれてベッドからおりた。


 お父さんとお母さんは小学5年生の頃に離婚して、私はお父さんのところにいる。

 私は、大嫌いなお母さんと離れられて、本当によかったと思っている。


 私は早生まれのために、中学1年生だけど、まだ12歳だ。

 心も、体もどこか子供なところがある。


「高校受験かあ、やだなあ」


 そう呟きながら、椅子に座って、机で勉強をする。


「お父さんだって、ちゃんと高校に行ったんだ。


ブライドも、ちゃんと行くんだ」


「お父さんてっば」


 お父さんは、お母さんといる時はあーんなに親切にしてくれど、今はすごく厳しい。

 だから、こんな時はおじいちゃんと、おばあちゃんに甘えるの。


「おじいちゃーん、おばあちゃーん」


 だけど、私の大好きなおじいちゃんと、おばあちゃんは、中学2年生の進級してから、突然別れを告げることになる。

 最初は病院に長期入院してても、そのうち治るだろうと、そこまで気にもしてなかった。

 だけど、突然亡くなってしまった。


 この日から、私の世界は灰色に変わった。

 

 中学3年生の受験生になり、私は高校受験を受けたけれど、落ちてしまった。

 ここで、私の人生はどん底へと変わる。


 家に帰りたくないと、お父さんに怒られることがいやで、もうすぐで15歳のになろうとした日に、家出をした。

 自分が、どこに向かおうとしているかなんてわからない。


 ただ、遠くに行けばいいんだ。


 ここで、私は後ろから誰かにつかまれ、意識を失った。


 気がつくと、私はベッドの上にいた。

 しかも、手足をリボンで巻かれていた。


 ここ、どこ・・・?


 あれ?

 この部屋、この匂い、夢で見たことがあって、初めての場所なのに懐かしい気がする。


 ここで、扉が開いて、男の人が部屋に入る。

 そう、私の従弟のグルームだ。


「グルーム」


「小学生以来だね」


「そうじゃなくて、これはどういうこと?


ここは、どこ?」


「ここは、これから君の居場所になるんだ。


そして、15歳の誕生日おめでとう。


僕はずーと、この日を待っていたんだ。


遠い場所で、肉体的にも精神的にも成長するのをね」


 どうゆうこと?

 

「グルーム、私と君はどういった関係になるの?」


「婚約者になる以外は、何もない。


強いていうなら、花嫁と花婿という関係って言った方がいいだろうか」


「うん、そうなんだ」


「いやだった?」


「そんなことない。


君と私なら、それも悪くない気がして、不思議な感じがしたの。


本当久しぶりだね」


「それは、本当に不思議なことだね」


「ブライド、私から言わせてほしいことがあるの」


 ここは媚を売って、順応したふりをしよう。

 

「私は、グルームが好き。


大好き。


愛してる」


「嬉しいよ」


「変なの」


「そうかな?」


 嫌味を言ったつもりだったけど、予想外の反応だった。


「この世界は、君と僕がいればいい。


僕も君を愛している。


君も、僕を愛している。


そのことだけ、理解してくれればいいんだ。


そのことだけ・・・・」


「グルームがそう言うなら・・・」


「僕は行かなくちゃいけないところがあるから、本当はずっと君といたいけど、そういうわけにはいかないみたいで。


お休み、良い子にしているんだよ」


「いつまで、子供扱いするの?」


「そっか、もう心も体も大人で、成長しているもんね」


「心も、体もってどういうこと?


もしかして、変態的なこと考えていない?」


「変態?


そうかもね」


 グルームは私の髪に触りながら、匂いを嗅いだ。


「ちょっ!」


「すごーく、いい匂い。


どんなシャンプー、使っているの?」


「薬局でも買えるシャンプーだよ。


グルームって、謎多いよね」


「そうかな?


全然、普通だと思うけど?


変わっているのは、ブライドの方じゃないか。


まあいいや。


髪も綺麗に伸ばしてくれているし、女の子らしい体になってくれてさ、後で赤いビキニ来てくれない?」


「やっぱ、変態じゃん。


こんなの着ないし、着るわけがない!」


「僕も、こう見えても男だよ。


変態なことぐらい、考えるって。


ブライドが、少女漫画の王子様に憧れるのと同じくらいにね」


「それとこれとは、話が別だよ!


全く、スケベなんだから!」


 私は、とうとう顔を真っ赤にして怒ってしまった。


 だけど、グルームはなぜかニコニコと笑っていた。


「感情的なのも、かわいいなあ。


罰として、今からトイレに行かせないから」


「トイレ行けないなら、どうしたらいいの?」


「漏らしていいよ」


「そんなことしたら、お嫁に行けない!」


「大丈夫だから。


おむつ生活を送ることになっても、愛してる。


トイレのやり方忘れても、だ」


「何それ?


私がおばあちゃんになるってこと?


そのくらいなら、グルームもおじいちゃんになるってことじゃん!」


「ならない」


 グルームに、急に真顔で言われた。


「え?」


「君は時間の経過とともに年をとるかもしれない。


だけど、僕は年をとらないから、こうして君のお世話ができる。


これって、得じゃない?」


「年をとらないって、冗談でしょう?


人間なんだから、年をとることぐらいあるんじゃない?」


 グルームは一瞬考え込んだ表情をしてから、答えた。


「人間?


まあ、そうかもね。


でも、君はこうして確実に年をとることは決まっているし、僕はそのお世話をしなくてはならない日がくる。


今だってそうだ」


「それは、君がこうして縛っているから」


「あはは、それもそうだね。


とにかく、僕のことは気にしなくても平気だよ。


不死ってわけじゃないけど、こう見えても不老だからさ。


じゃあね。


お休み。


トイレは僕の許可がおりるまで、行けないと思っておいてね」


 こうして、グルームは扉を閉めた。


 調べてみよう。

 グルームはいつ、帰ってくるかはわからない。

 しかも、グルームは私を置いて、どこに行っているのだろう?


 そもそも、トイレくらい行かせてくれもいいはすだけど、なぜかグルームの許可がないといけないことになっているのは、どうしてだろう?


 手足にリボンが巻かれている。

 ここはお得意の悪知恵というもとを使って、ほどこう。

 私は長い爪と、口の中にある歯を交互に使いながら、リボンをほどいた。

 これは、悪用厳禁なので、みんなには秘密だよ?


 ベッドの下を調べてみた。

 私は監禁されてから、調べたことなんてなかった。


 これって・・・・?


 ベッドの下から出てきたのは、監視カメラと盗聴器だった。

 どうして、こんなものが?


 やばい、グルームに気づかれるのも時間の問題だ。

 見た限り、電源はなさそうだけど、グルームのことだ。

 どうやって、逃げれられないようにしているのかわからない。


 後は調べることもなさそうなので、私はそのまま扉を開けて外にでることにした。

 

 ここは、初めて見る光景だった。

 

 洞窟だ。

 しかも、魔物とかドラゴンがいる。


 こんな生物、実際にいたんだ。


 扉の外に出れたグルームは、何者なの?


 ドラゴンが喋りだす。


「貴様、何者だ?」


「何者でもないです。


グルームって言う人のこと知っている?」


「グルーム?


あの人間の姿をした魔術師のことか?」


「魔術師?」


「小娘よ、この世界では有名な魔術を使い、人間世界を歪ませているのだが、知らないのか?」


「知らないです。


初めて聞きました」


「ほう、小娘よ。


どうやってここに来た?」


「グルームに誘拐されました」


「小娘よ、詳しい事情はわからないが、ここにいるのは非常に危険だ。


よければ、わしがこの場所から離れた場所まで連れっていってやろうか?


人間世界に返すことはできないがな」


「連れて行くって?」


「人間がこの魔窟にいたら、命の危険がある。


なら、せめてペガサスとか、ユニコーンの魔窟なら危険度は低い」


「はい、わかりました。


連れて行ってください。


グルームから離れられるなら、それでいいです」


「よかろう。


落ちないように、背中に乗れい」


 ドラゴンの背中に乗せてもらい、ユニコーンとペガサスがたくさんいるところについた。

 空の上はこわかったけれど、目をつむれば、一瞬だった気がする。


「ドラゴンさん、ありがとうございます。


あの、名前を教えていただけませんか?」


「名乗るほどでもないと思うが」


「私、親切な君のことが好きになったんです。


だから、教えてください」


「君は君で、ずいぶんと変わっているな。


だが、わしはドラゴンの姿の身。


名前なんて、当然ないに等しい。


なので、名前で呼びたくばつければよい」


「じゃあ、龍さんかな?


よろしくね、龍さん」


「お、おう・・・・」


「これから、私と一緒にいましょう」


「君がそういうなら・・・・」


 ドラゴンの竜さんは小さくなり、人間の姿になった。

 青い髪に、瞳の色は紫紺と呼ばれるものだった。

 色は白くもなければ黒くもなくて、耳がエルフのように尖っていた。


 白の衣装には、ドラゴンの絵柄があった。


「君みたいな人は初めてだよ・・・・」


「かっこいい・・・!」


 私は、龍さんの人間の姿に惚れ惚れしてしまった。


「龍さん、友達からでもいいので、付き合ってくれませんか?」


「初対面でありながら、ずいぶんと慣れ慣れしいなあ。


それに、俺がこわくないのか?


さっきまで、ドラゴンの姿だったんだよ」


「こわいわけないじゃないですか。


こんな親切にしてくれて、私はすごっくかっこいいと思いました」


「何だよ、それ?


まあいい。


とにかく、俺はこれっきりですまそうと思っていたけれど、君みたいな人が世の中にいるとは思わなかったな。


ちなみに、俺は人間じゃない。


ドラゴン族と人間のハーフっていうところかな。


この世界では、ハーフドラゴンと呼んでいるみたいだけど」


「それでも、君が好きなんです。


付き合ってくれないですか?」


「初対面で付き合うとか・・・・。


まあ、友達からならいいけど」


「やったあ」


「俺のどこがいいんだ?


今まで、そんな人現れなかったし」


「それは初対面の私を安全なところに送り届けてくれたところ」


「悪いけど、そのことは他の人にもやっているんだ。


人間世界でいう、迷子の子供を交番に送り届けるようなものなんだ。


つい、この間、人間世界で親とはぐれて泣いていた女の子を、交番に届けたばっかりだし。


君だけ特別ってことでもないんだ。


変な勘違いしていない?」


「そんなことないよ!


誰にでも親切な龍さんがいいんです。


髪も青くて、私も親以外の人と出会えて、嬉しいんですよ」


「これのこと?」


 龍さんが、髪に触りながら話す。


「この髪の色、実はコンプレックスだったんだけど、ありがとう・・・」


「この紫の瞳って、憧れます!


すっごく、宝石みたいで綺麗です!


私、それ将来できる子供の瞳にしたいです」


「そっか、君は俺がコンプレックスと感じるところを肯定してくれてるんだ。


ありがとう」


「耳がとがっているところも、自分のことを俺って言うところも、ぜーんぶ、私の理想の男性像ですよ」


 私は、会って初めての龍さんを好きになってしまっていた。

 自分でもどうしてだかわからないけど、運命を感じていた。


「耳の形は人外だっていうことを表す何よりの証拠になるし、俺というのは男の人ならだれでもあることではないんじゃないかな?」


「そんなことないです。


私の従弟は、一人称が僕でした。


だけど、男の人なら俺って言ってほしかったです」


 本当は、龍さんがどんな一人称だろうとかっこいいけどね。


「ありがとう。


君は、肯定することの天才だよ。


だけど、君は俺とずっと一緒にはいられない」


「どうしてですか?」


「簡単な話さ。


俺がハーフドラゴンで、これから戦わなくちゃいけないんだ。


君はどこからどう見ても一般人だし、魔力も感じなければ、きっと武術もないだろう。


隣にいても、正直言うと、足手まとい」



「だけど、龍さんに守ってもらいたいんです・・・・。


グルームは、きっと私を連れ戻しに来ます。


私は、監禁されたところから逃げるという行為を犯しました。


君も、それを手伝ったということは、共犯になります。


だから、一緒に逃げませんか?」


「話がよくわからないんだけど、君はグルームに気に入られていたの?」


「はい。


最初はただの従弟だったんですが、グルーム方から次第に好意を寄せてくるようになって、これで密室な空間に監禁されるようになりました」


「要約すると、君はどこにいても危険ってことでいいのかな?


仕方ないな。


俺が守ってあげるよ。


何があったとか詳しいこととかわからないけど、グルームは何しでかすかわからないし、これ以上は被害を増やしたくはない。


だから、俺の邪魔にならないようにしてね」


「はい!」


 こうして、私は大好きな龍さんと一緒にいられることになった。

 龍さんといつ、付き合えるとかはわからないけど、この美顔で私だけの竜さんにして見せる。


 私は、龍さんが好き。

 グルームのことが、どうでもよくなるくらいに好き。

 第一、ただの従弟のことなんて、私は好きにならない。


 好きになるのは、イケメンで爽やかで落ち着きのある竜さんだった。


 龍さんと一緒にいて、1週間になろうとしていた。

 最初は慣れなかったけれど、龍さんがどうしていけばいいとか教えてくれた。

 私は、その姿に胸の高鳴りが止まらなかった。


 龍さんのまわりには、人間がいなくて、ドラゴンとか怪物ばかりだけど、今の私はそんなものは龍さんがいてくれればこわくなかった。


「俺は女の子と接したことなんてないから、どのような態度で、対応でとかよくわかんなくて戸惑っているよ。


ブライドは、本当にこんな俺が好きなの?」


「好きだよ。


大好きだよ。


でなきゃ、一緒になんていない」


「本当に?


誰かに言われたから、告白したとかじゃない?


人間の世界には、罰ゲームで告白するっていうのがあるみたいだから」


 どうして、龍さんは自分に自信がないんだろう?

 どうして、私が好きだってことを簡単に受け入れないのだろう?


 私は、こうゆうところを含めて、龍さんが好き。

 だから、私が自信を持たせてあげればいいんだ。


「そんな小学生みたいなことしないよ。


それに、私はグルームと監禁生活を送ってきたんだし、誰もそんな罰ゲームをする人なんていない。


グルームはどう思うのかわからないけど、私は今も龍さんだけが好き。


どのくらい、好きって言えばいい?」


「好きの回数とかで、俺は愛をはからないよ。


ただ、君が人間だというのなら、ブライドは親のところに帰った方がいいかもとか、警察に事情を伝えた方がいいかもって思って、その方が安心で、安全でしょ?


俺といても、危険なことばかりしか起こらない気がして」


 龍さんは、気を使ってくれている。

 もしかしたら、気を使わしてしまっているのかもしれない。


「私は、親とうまくいっていないの。


それに、監禁されて何年たっているとか実際のところ、わからないからさ、警察に報告しても、私は人間世界で生きていけるかどうか・・・・。


高校に進学することもできなければ、就職につくこともできない。


それが、誘拐されて、監禁されて人の末路でしょ?


人間世界に帰ってこれたとしても、私は生きていけない」


「そっか。


たしかに、人間世界はそこが冷たいよね。


被害者に対する支援もないもんね。


まともな人生を送れない人は、普通に見放しちゃうもんね。


俺も、見てきたから知っている」


「ここらへんの草原とかに、薪とか落ちているから、拾ってきてくれないかな?」


「薪?


そんなものが草原にあるの?」


「薪なんて、どこにでも落ちている。


そんなことは、この世界では常識になるよ。


こういったことは、俺以外に言わないでね。


変な人の思われるからさ」


「そんなことぐらいで、変な人扱いなんて、この世界変わってるって言えるね」


「君も変わっている方だけど、まあいいや。


とにかく、集めてきてね。


俺は後で迎えに行くから」


「どうして、薪を?」


「俺とその仲間たちはこれから、戦いに行くんだ。


足手まといになるくらいなら、何か役に立つことをしたいかなって思って」


「だからって、どうして薪なの?」  


「薪は、いろいろなことに使えるんだ。


戦闘用の武器に作ってみたり、家を建てることもできる。


これからのことを考えて、薪を少しずつでもいから、今のうちにたくさん集めておきたくてさ、だけど、実際に俺たちは見回りとか戦闘訓練ばかりしていて、肝心なことに時間を使えないんだ。


ここで、君の出番ってわけ。


これで納得したなら、俺はすぐに行くよ。


いつぐらいになるのかわからないけど、すぐに戻ってくるようにするから」


 私は、不満でしょうがなかった。

 どうして、龍さんと一緒にいられないのだろう?


「私は、一人なの?」


「仕方ないだろう?


俺の近くにいつまでもいたいなら、そのぐらいは飲んでもらわないと。


それに、君をこのパーティーから追放するって話もでてるくらいなんだから・・・・」


「そんな・・・」


 パーティーを追放されるくらいなら、この時間だけ一人という方がまだいいような気がしてきた。


「わかったら、素直に聞いてくれる・・・?」


「しょうがないから、きく。


龍さんと、ずっと一緒にいられるようにするために」


「ありがとう。


それじゃあね」


 龍さんは、ドラゴンに変身して空を飛んでいった。

                                            

 私は龍さんに言われて、薪拾いをしていたところに、一人の男がガサゴソと音を立てて、現れた。


「見つけた。


探したんだ、ブライド。


今まで、どこに行っていた?」


 その男は、グルームだった。


 私が一人でいるところに現れるなんて、最悪でしかない。


 龍さんがいれば守ってくれるかもしれないけど、いつ戻ってくるのかわからない。


「グルーム、どうしてここに?」


「それは、こっちの台詞だ。


どうして、急にいなくなったりしたの?」


 この様子だと、私の質問に答えてくれそうにないみたい。


 だから、私はしばらく考えてから、答えた。


「退屈だから・・・・」


「退屈って、それだけでどこかに行っちゃうのか?


今のこの時間を生きている君は・・・・」


 そんなことを言っているけど、それぐらいはわかってほしい。

 だけど、これ以上に私の理想を押しつけないでほしかった。

 

 目の前に来ることが、鬱陶しい。


「私は、他に好きな人がいるの。


それだけはわかって?」


 グルームには、私のことを諦めてほしい。

 だけど、どうすればいいかなんてわからない。

 だけど、ここで説得しておかないと、この先もつけ回される気がしてくるし、また誘拐されての監禁生活なんていや。


「好きな人って、誰だよ?


そいつの名前、教えてくれないか?」


「教えなきゃ駄目なの?


私は、どちらにしても君の対しての気持ちはとっくの通りにない」


 私は冷たく答えた。

 ここは下手に優しくすると、気を持たれてしまいそうでいやだった。


「本当に僕に対しての熱がないのか・・・?」


「何回、言わせるつもりなの?」


 私は何度でも、何回でも、この人を突き放すよ。

 

「考え直すとか、できないのか?」


「直せない。


この先も、ずっとそんなことはないと思う」


「思う?


ということは、不確定ではないんだね?」


 しまった。

 この人に曖昧な表現をしてはいけないんだ。


 なら、はっきり言おう。


「確実なことを言うよ。


私は、君が大嫌い。


鬱陶しいから、消えてほしんだよ」


「消えるのは、僕じゃなくて、相手の男の方だよ?


男に何かそそのかされていないか?


君は、僕にそんなことを言わない。


そんなことを言うような人じゃないってことは、僕が一番わかっている」


 私はカチンときて、叫んでしまった。


「わかっていない・・・・!


君は私のことを、ちっともわかってない!


過去のことを、いつまでも持ち出してこないで!


私は、もう過去の人じゃないの!」


 グルームは、ショックを受けている様子だけど、これでいいんだ。

 私は、曖昧にしたくない。


「こうやって、話している間にも時は流れているの!


私の気持ちだって、いつまでも同じなわけじゃない!」


「そうか・・・・・」


 ここで、グルームはどこからかナイフを取り出した。


 私は、恐怖で声も出せなくなっていた。


「・・・・っ!」


「僕は作るよ。


君が僕の物になる未来をね」


 グルームが私にナイフで襲いかかろうとしたところに、竜さんがグルームの腕をつかんだ。


「何をしているの?」


「龍さん!」


 私は嬉しかった。

 龍さんが来てくれたから。


「この子に何をするつもりだ?


グルーム」


「邪魔するな」


 グルームが竜さんをにらみつけていた。

 だけど、邪魔しているのは龍さんではなく、グルームの方だ。


「龍さん!」


「何のつもりかわからないけど、僕の邪魔をするようなら、容赦はしない」


「もしかして、グルームだよね?


どうして、一人の少女を殺そうとしているの?」


「どうして、僕の名前を知っているんだ?


どこかで会ったことあるのか?」


「さあね。


どちらにしても、君は顔が広いから、認識ある人も多いと思うよ?


そんなことより、僕の質問に答えてくれない?


どうして、君は一人の少女にナイフを向けている?」


「簡単な話だ」


「君の発言も、行動も、何ひとつとして理解できるものがないね」


 龍さんの言う通り。

 グルームの行動や発言には、何一つとして理解できるものがない。


「グルームのいうことを理解しようとするのは、もう無理なんだよ。


龍さん、グルームをやってしまおうよ」


「待って。


その前に、聞いておきたいことがあるんだ」


「どうして?」


 こんな人は、早くとどめをさしてしまわないと、次はどうなるのかわからない。

 私の身が危ない。


「僕はブライドの気持ちを諦めていない。


諦めていない。


だから、邪魔だ」


 こうして、グルームは龍さんをナイフを持っていない左手で突き飛ばし、私の方に駆けつける。


「ブライド」


「やだ!


来ないで!?」


 私は、グルームを振り払った。


「殺そうなんて、しないから!」


「そんな話、信じない!」


「君だけが、希望なんだ!


わかってくれ!」


「わからない。


わかりたくもない」


「・・・・・・。


ブライド、僕をからかってきたりしないのか?


君は、僕の従姉じゃないのか?」


「何の話をしているの?」


「『好き』という言葉は、日常茶飯事だった。


君は僕だけを愛してくれることがなくなってしまったんだ。


それは、どうしてなんだ?」


 グルームに聞かれても、私はその出来事を知らない。

 知らないのだから、答えようがない。

 答えられることがあるとしたら、今の私がどう思うかだけだ。


「グルーム、君は今の私を見ていない。


今の私をわかっていない」


 龍さんは起き上がり、ドラゴンに変身した。


「何をする気なのかは知らないけど、どちらにしても、君のすることは正しいことじゃない。


間違ったことは、訂正するんだ」


「訂正?


はん?


訂正だって?


僕の気持ちも知らないで、苦労もわかってないくせに、軽々しく言うんじゃない。


君は、ブライドの何なの?


恋人?


僕と同じようないとこ?」


「答えは、どちらでもない」


「私は龍さんが好きなの。


だから、手を出さないで?」


 このままだと龍さんとグルームの戦いになりそうだから、私はここではっきり好きな人のことを伝えて、諦めてもらおうと考えた。


 簡単に諦めてくれないかもしれない。

 それでも、諦めてもらうんだ。


 ここで、なぜかグルームはナイフをドラゴンの姿に変身した竜さんに向けた。


「ならば、殺さなくてはならないな。


そうか。


ブライドは、この男にそそのかされていたんだ」


「やめて!」


 私は叫んでいたけれど、なぜか龍さんは冷静だった。


「俺は、ただのハーフドラゴン。


そして、ブライドの恋人にはなれない存在。


結婚することも許されない身だ」


「いとことかも、そうだ。


僕は従弟だったから、結婚も子供を作ることすらも許されなかった。


だけど、君は違う。


君は、ブライドと血縁関係はないんだろう?」


「ところが、あるのだよ」


 え?

 私と龍さんに血縁関係がある?

 そんなことない。


「龍さん、何を言っているの?


私はハーフドラゴンじゃないよ」


「そんなことは、知っている。


君は完全なる人間で、俺が半分人間だということくらいはね」


「血縁関係があるということは、いとこか?」


「何度も言っているように、いとこじゃない。


もっと、近親的なものだ。


いとこよりも、もっと血が近いんだ」


「というと?」


「俺とブライドは伯父と姪という関係。


いとこの言う、4親等とかじゃなくて、3親等であるために、恋人にもなれないし、結婚もできない。


子作りなんて、もっとだめだ。


だから、手を出すわけにはいかなかった」


 龍さんと、私が伯父と姪という関係?

 そんなことは知らないし、聞いたこともない。


「すまない。


ブライド。


今まで、黙っていて。


いつか、言おうと思っていて、言い出せなかった。


俺は、ブライドの伯父で、弟の子供だから、どんなにアプローチをされても、告白されても、手を出せなかった。


好きだとわかっていても、気づいていても、俺はなあなあな関係を続けていた。


弟がそのくらい大切で、姪である君も大切だから」


「はははは」


 グルームが、どうしてだか、そこで笑い出した。


「そうか。


なら、付き合うのは無理だな!」


「だけど・・・、だけど・・・、どうしてかな?


俺は姪だって、わかっているのに、ブライドが好きになっていた・・・」


 龍さんが、悲しげに語りだした。

 私は、どんな反応をすればいいのか、どんな言葉を返せばいいのかわからなかった。


「まあいい。


これできまりだな」


 グルームが、高らかに笑い出した。


「決まりって、何が?」


「僕も、このドラゴンも、例外なく、近親恋愛をしている。


僕も同じだ。


だから、龍、ここはもう二股でもいいじゃないか。


一緒に、ブライドを好き放題しよう。


僕は、今後、容赦しないと思っている」


「好き放題・・・・?


何をする気だ?」


 龍さんが、グルームに問いかけた。


「僕は、遠慮していたんだ。


本当は派手なことしたかったけれど、押しの強いブライドに負けていたんだ」


「今の説明だと何をしたいのか予測がつかない。


何を企んでいる?」


「逆に聞くけど、君はブライドに何をしたいと思った?」


「俺は、正直に言うと、キスしたいとか思った。


このまま、付き合ってしまった方が、許されないことだとしても、結婚したら、楽になれたかもしれない。


だけど、実の姪にそんなことをするわけにはいかなくて・・・・」


 龍さん、そんなこと思っていたんだ。


「こんなことなら、早く言ってくれれば、アプローチもしなかった。


告白もしなかった。


龍さん、もういいよ」


 私は龍さんのところから、消えるしかない。

 いくら知らなかったとはいえ、龍さんを、つらい目にあわしてしまった。


「ブライド、ごめん」


「私の方こそ、ごめん。


私は、きっと龍さんを振り回してしまったんだね。


そうゆうことなら、さようなら」


 私は竜さんのところから去っていく。


 だけど、そんな手をつかんだのは、グルームだった。


「僕がいる」


「グルーム?」


「だから、僕がいる」


「私は、どうしてもグルームが好きになれないの。


このままだと、嫌いになりそう。


すでに嫌いになっているけど、それもわからない?」


「そこで諦めたら、僕の頑張りが全て無駄になることもわからない?」


 私の返事は、即答だ。


「わからない」


「君が僕のものにならないなら、僕だけのものにならないというなら、こちらにも考えがある」


 グルームはどこからか、スタンガンをだして、その電気を浴びた私は気絶した。


 気がつけば、私はベッドの上にいた。

 白い部屋。


 ぼんやりした頭で、考えた。

 私は、また同じ場所に戻ってきた。


 そういえば、私はグルームや龍さんといろいろあったんだ。

 グルームが、ここに運んだのかな?

 龍さんは、今頃どうしているんだろう?

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