番外編 ベッドの上の花嫁〜幼女編〜
私は、閉じ込められている。
このベッド以外、なにもない白い空間で・・・。
私は、ベッドの上で、鎖に両手や両足を鎖につながれた状態で、いつもベッドで寝ていた。
というか、ベッドの上でしか一日を過ごせない。
起き上がろうとしたり、寝返りをうとうとしただけで、鎖がジャラジャラと音を鳴らして、正直言うと、熟睡はできていない方だと思う。
時計も置いてないし、白い部屋以外は何もないために、どのくらいの時間が過ぎていくのかわからない。
そして、誰かが入ってきた。
白い扉を開けたのは、私をこの部屋に閉じ込めた、張本人だ。
「少しは、反省できたか?
裏切りさん」
彼は、無表情で質問をするけど、何を考えているのか全然読めない。
本来ならば、なんて答えるのが正解なのは考えなくてはいけないところかもしれないけれど、私はそれよりも、「どうして、こんなところに閉じ込めたの?」という気持ちの方が先走り、感情的になってしまった。
「私が、いつどこで裏切ったって言うの?
よくわからないよ」
「将来、結婚しようとって約束して、他の人と婚約しちゃったのは、どこの誰かな?」
「そんな覚えない!」
私は、なぜか大声を出してしまった。
全然知らない人ならもっと慎重だったのだろうけど、相手が昔からの付き合いとなると、私はどうしても無縁慮になってしまう。
この人は、私の従弟で、長い付き合いがある。
だけど、私の記憶をどんなに探っても、彼と婚約した覚えはなかった。
どちらにしても、私は恋愛感情なんてないし、あいつとはただの腐れ縁だ。
「私は、どちらにしても君なんて好きじゃない。
好きじゃないのだから、ただの従弟として過ごすしかない」
「そうか。
あの約束だけを頼りに生きてきたけれど、僕は君にまんまと騙されていたということか。
じゃあ、婚約破棄しないとね、例の男とね」
「運命の人を見つけたの。
だから、婚約しただけ。
一体、何が悪いの?」
私が本気で好きになった運命の人だけど、勢いで婚約した。
「そいつのどこが、よかったんだ?」
「それは、どこだろうね」
「知らないで付き合ったの?
君らしいね。
しかも、結婚できる年齢でもないのにいいのか?」
「そんなこと、わかっている。
お互いの親も、反対だったし」
「だろうね」
「それでも、運命の人だったの」
「どこが、そうなのか、はっきりしてから、答えてほしいな。
それに、あいつは、DV気質で、事件も起こしていた」
「そこに閉じこめている君も、まさに危ない男じゃないの?」
「それはそうだけど・・・・」
私は、ブライド。
将来の夢は、運命の人と出会い、白のウェディングドレスを着た結婚式をあげること。
ちなみに、まだ成人はしていないし、結婚もできる年齢でもないけど、早い段階から運命の人を見つけたい夢見る乙女な私。
ただ、私は惚れっぽいけれど、飽きるのも早い。
私は、もっと理想があるの。
「ごめん、グルーム、君とは結婚できない」
早い段階から、私は従弟のグルームと別れた。
「どうして?」
「飽きたから」
「飽きたって、そんな・・・・」
「飽きたものは、飽きたの。
あーあ、私の読む少女漫画みたく、もっと刺激がある人がほしいなあ」
自己中とか言われるけど、私には刺激がないと、常に飽きてしまう。
いつからか、私は運命の人ばかりを探してばかりいるようになった。
グルームは、転校してやってきた時から、一目ぼれしてしまったけれど、付き合ってみると、やっぱり恋はどこかで冷めてしまうの。
「付き合いたいって言うから、付き合ったのに理不尽すぎる・・・・」
「何と言おうと、私は君に熱はないから、これからは友達でいようね」
「友達になんて戻れるか・・・・」
グルームは、納得のいかないような表情をしていた。
だけど、そんなことは、私にはどうだっていいの。
私は、グルームと別れて、私立のお嬢様中学校に入学した。
ここでも、私は恋愛モードだった。
付き合っては、別れてを繰り返してばかりいた。
友達からは「どうして、すぐに男の人を好きになれるの?」とか「付き合っても、別れるよね」とよく言われた。
「そういえば、何でだろう?
私は、男の人に何を求めているんだろう・・・?」
自分でも、自分がわからない状態だった。
簡単に婚約とかしてしまうけど、理想通りにいかないと別れる。
「こんなの、おかしいって。
絶対、なんかの病気じゃない?」
「病気?」
「そうよ。
そもそも、どうして、好きになるのかよくわからないし、お父さんと同じ相手を求めていない?」
「お父さんはよく、わからないなあ。
私には、そういった存在はすでにいないから」
「いないって?」
「うん。
小学5年生の頃に、姿を消してそれっきりだから」
私が、男の人をすぐに好きになる理由がわからないまま、時間だけが流れていく。
そして、私は疎遠になった従弟の、グルームに誘拐されて、部屋に閉じ込めれることになった。
私は、どんなに暴れたとしても、勝てない男の人の力によって、密室の空間に閉じ込められた上に、鎖で手足を拘束された。
「いきなり、何をするの?」
「それは、こちらの台詞でもあるよ、ブライド。
自分勝手で、駄々っ子がいつまでも抜けないお嬢様」
「よくわからないけどさ、この拘束を解いてくれない?」
「うーん、僕が好きって言ってくれるようになったら、解いてあげてもいいけど?」
「私と君は、すでに終わった関係なの」
「そっか、って納得すると思う?
僕は、君を諦めていない。
諦めきれない。
そのくらいに、好きなんだ」
グルームとは、ただの従弟で、なんでもない元カレだと思っていたから、彼がそこまで本気だとは思わなかった。
「好きって、言ってほしいの?」
「何のために、閉じ込めたと思っているの?」
「私を花嫁にしたいくらい?」
「婚約したのに?」
「本気で、ほーんきで、私を好きなら、花嫁にして?
女の幸せは、お嫁さんになることなんだから」
「君の理論はよくわからないけど、まあいいよ。
君が望むように、花嫁にしてあげる。
最高で、世界一幸せな花嫁にしたげる。
だから、飽きたとか、ぜーったいに口にするなよ」
「しない。
しないと思う。
ううん、絶対にしない。
多分、しない」
「どっちなのか、はっきりしてくれない?」
私は、閉じ込められてしまったけれど、そんなことはいいの。
どんな手段でも、幸せを勝ち取りたかった。
家にいても、母親はどうせ、私のことを気にかけてくれないことはわかっていたから、ここで、従弟とでもいいから、ここから出たくないってくらい、幸せを過ごしたい。
「私のこと、好き?」
私は、愛を確認したかった。
この言葉がなくなったら、私はどこかに消えてしまいそうだ。
「好き」
「どのくらい?」
「好きだけで、満足しないのか?」
「しない。
もーっと、愛して?
言葉で、表現してくれないとわかんない」
「世界で、一番好きだ」
「ほんとに?」
「信じられない?」
「信じたいから、聞いているの」
「やっぱ、僕は君が理解できないや。
言葉で伝えなくても、態度や行動だけで、愛されているってならないのかな?」
「ならない。
愛が本物かどうかなんて、確かめてみないと。
勝手な思い込みだけで、決めつけたくないから」
私は、母親と同じような人生を歩まないって、決めたから。
母親がやらなかったようなことを、こうしてやっている。
母親が父親にしたようなことは、ぜーったいにしないの。
愛情確認なんて、私は何回でもする。
「君は、摩訶不思議なお嬢様だ」
グルームは、そう囁いた。
私は、朝と夜しか食事をとっていない。
なぜなら、グルームは、昼間は学校とかに行っているから。
制服とか、着たいな・・・・。
女子を敵に回すことがあったとしても、やっぱり、学校は楽しかった。
好きな人を常日頃から追っては、失恋してもまた別の恋を追えばいい。
そんなふうに、気軽にしか考えてなかった。
短かった私の髪は、次第に伸びていくようになった。
髪を切ってもらおうと、グルームにお願いしてみても「髪が長い方が似合う気がするから、腰まで伸ばしとけ」と言われる始末だった。
どれくらいの時が流れたのかわからないけれど、私の髪は肩まで届きそうなくらい伸びていた。
私は、白のウェディングドレスを着ているけど、ずっとこの衣装のままでいたいかと言われると、寝る時はさすがに辛い。
だけど、あの母親の元にいる時と比べれば、ここで監禁された方がまだよかった。
監禁生活、サイコー!
って、ここは何の自慢にもならないか。
鎖につながれているために、ベッドの上で過ごすしかないから、昼間はトイレに行きたくてもいけないことが辛い。
グルームは、親切なのか、そうじゃないのかよくわからない。
トイレぐらいの配慮ぐらいはしてほしかった。
あんまりおねだりしてしまうと、グルームからは「駄々っ子」とか言われてしまうけど、どういう意味なんだろう?
こうして、私は帰りを待つ。
グルームがこの部屋にやってくるのを。
こんなことを思っているうちに、私はいつの間にか寝てしまっていた。
ここで、夢を見る。
こわくて、思い出したくもないお父さんとお母さんが離婚をする夢。
「お前とは、もうやってられない」
「それは、こっちもよ」
お父さんと、お母さんは喧嘩ばかりしていた。
激しい口論の末に、二人は離れることになり、私の親権で争うことにもなった。
結果、私の親権はお母さんのところになる。
これは、小学5年生の頃の出来事だ。
私はお母さんがいつの間にか嫌いになっていき、気が付けば、心の中でお父さんを求めるようになっていった。
だけど、同い年の中にお父さんみたいな男の子は、どこにもいなかった。
お父さんが、どこにいるのかもわからない。
だって、お母さんは教えてくれないし、私はお母さんには逆らえない。
私は、お母さんの理想に答えて、ご機嫌取りをしながら、勉強に励む。
お嬢様学校に行くことになったのも、そのせいだった。
私は、お母さんが大嫌い。
大嫌いで、会わなくてもいい方法があるなら、会いたくない。
私は、夢から覚めた。
夢から覚めると、自分でも気づかない感情がここにあったんだと自覚をした。
私は、無意識かもしれないけど、お父さんみたいな人を求めていたんだ。
突然、姿を消して、どこにいるのかわからない男性が気がつけば、私の理想像になっていた。
お父さん、どこにいるの・・・?
今すぐにでも、会いたいよ・・・・。
そこで、扉が開く音がして、グルームが帰ってきた。
「いい子にしてた?」
「いい子にしているしかない。
鎖で繋がれているんだし」
「ブライド・・・・」
グルームが、私の顔を真剣に見つめていた。
「どうして、泣いているの・・・・?」
「え・・・?」
私の目からは、涙が流れていた。
「それは・・・・・」
「ここにいることが、もしかして、辛いの?」
「辛いって・・・・?」
私を監禁しておきながら、どうして、こんなに親切なの?
彼が、私のことを気にかける様子に、動揺をしていた。
「ここに来てから、ずっと君は笑ってないから、辛いのかなって」
「辛くないわけがない・・・。
この鎖をずっとつけられてさ、ほんとは嫌なんだよ・・・・。
女の子らしくて、かわいい部屋にいて、かわいい服とか着たいよ。
お母さんから解放はされたかもしれないけど、その代わり、私はいろいろな物を失っているの。
そしたら、お母さんといる時と、グルームと一緒の時、どっちが不幸なのかわかんない・・・・」
「そうか・・・・。
僕は、君の好みとか正直、わからなかった。
ごめん、気づいてあげられなくて。
ウェディングドレスを着たいって言うから、ずっと着たいのかなって勝手に勘違いしてた。
だけど、それは完全なる思い違いだったのか。
これからは、ブライドの望んだ部屋とかにするし、服とかも。
だから、ブライドを幸せにするよ、絶対」
「ほんとに?
お父さん以上の幸せを、私に頂戴。
そして、私のお願い、なんでも叶えて」
「なんでもってわけではないけど、わかった。
君のことを今まで以上に幸せにするよ」
あれから、5年後。
中学1年生の12歳の頃に監禁されて、今は17歳になった。
短い髪は、腰まで長い髪になった。
私も、グルームもまだ結婚できる年齢ではない。
だから、結婚できる年齢まで待っている状態。
私の監禁生活は、まだ続いている。
鎖で繋がれることはなくなったけれど、今はかわいいモフモフの手枷と、足枷をつけられている。
部屋は、真っ白の部屋とかではなく、かわいく模様替えされている。
私は、完全にお嬢様になっていた。
私は、気が付けばグルームのことを好きになっていて、彼と一生を過ごしたいと思うようになっていた。
彼のことが大好きだから。
だけど、私は今の外の世界がどうなっているとかは知らない。
ずっと、同じ部屋で過ごしているから。
今日は、上は白のレース付きの服と、下はデニムキュロット。
腰までの長い髪は、どんなヘアーアレンジもできそうだけど、基本はベッドの上でしか過ごせないから、三つ編みか、髪をおろしたままにしていることが多い。
グルームはよく私のためにビキニを用意してくるけど、こんな真っ赤なビキニをどうして持ってくるのかいまだにわからない。
「ビキニ着られるような年齢になったろ?」
「なってても、サイズが合わないって」
「この年になっても、まだビキニが着られる体型にならないとか、どういうことだ?」
「言葉をオブラートに包んでよ。
しょうがないじゃない。
いつまでたっても、成長しないものはしないんだから」
私は、いまだに幼児体型だった。
大きくならないものは、仕方がない。
ビキニが着られなくても、すでに花婿候補が決まっているんだから、問題はない。
「小学生みたいだな」
「精神はもしかしたら小学生かもしれないけど、これでもれっきとした大人だよ。
グルームとしか一緒に過ごせる人いなかったし、世の中にはどうしようもできないことだってあるの。
これで気がすんだなら、ビキニなんて派手な女性しか着られないような物は持ってこないでよね」
監禁生活を送ってきたから、私の精神は12歳のままで止まっているような気がするのは、自分でも自覚していたけれど、グルームと二人でしか過ごせない状況の中で、どうやって成長するのかとはわかりようがない。
「顔は美人だけど、性格がなあ」
「この私を選んだのは、間違いなくグルーム。
どこでもない、誰でもないグルーム」
「僕は、ブライドが好き。
これは、紛れもない事実。
だけど、この自己主張の強いところは、控えることとかできないのかな?」
「私は、この部屋に来て以来、部屋から出たい願い事以外は何でも叶った。
だから、これからもどんなわがままを叶えることも、君の役目じゃなくて?」
「どうやら、僕は相手を間違えたみたいだ・・・」
「どういうこと?」
「つまり、こういうこと」
グルームは、どこからか小さく尖ったナイフを持ち出してきた。
「何をするつもりなの・・・・?」
「そんなことは、決まっている」
「何を言っているのか、よくわからない」
「わからないだろうね」
こうして、私はナイフで刺され、意識を失った。
痛みも、不思議となかった。
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