第50話 主犯

 卒業生を調べるのは簡単だった。そしてその名前を検索して、ある程度有名になっている人を発見。


 その人の調査から始まり、地元にまだ住んでいる元在学生を片っ端から調べていく。


 大抵は空振りに終わった。大学には何百人も在籍しているのだから、一発で情報に行き着くなんて思っていない。


 調査開始から5日で必要な情報に行き着いたのは、とてもラッキーだったと言えるだろう。


かがみのことだろ?」アパートから顔を出した男性が、苦々しそうに語ってくれた。「……今だから言うけど……俺、アイツのこと好きだったし……というか、狙ってるやつは多かったと思う」


 そりゃ恭子きょうこの母親だからな。とんでもない美人だったのだろう。


「でも、なんか途中からかがみ……元気なくなってな。体調も悪そうだったし、1年くらい学校に来てなかったんだ」

「……1年、ですか?」休学していたのだろうか。「……なんで1年も……」

「……これは噂でしかないけどな……」男性は声を落として、「妊娠してたんじゃないかって話だ」


 妊娠……

 

 約20年前……


 そのとき景子けいこさんのお腹の中にいたのが、恭子きょうこだったのだろう。


 そして……そして……


「もしかして……相手は……」

「……これも噂でしかないが……尸位しい先生に襲われたんじゃないかって言われてたよ」


 尸位しい先生……


 つまり恭子きょうこは、自分の父親を……


かがみがどうして自殺するまで追い詰められたのか、俺は知らない。どうして子供を残していってしまったのか……彼女の心情を読み取ろうったって不可能な話だ」


 ……そうだろうな。

 私も尸位しい先生にセクハラはされていたけれど、最終的な行為までは行き着かなかった。それは尸位しい先生の体力的な問題なのか……あるいは……


「だが……他にも変な噂があったことは知ってる」

「変な噂……?」

かがみを襲ったのは尸位しい先生だけじゃない。学生も絡んでたんじゃないかって……」

「学生……」それはもしかして……「草薙くさなぎ、さんですか?」


 母親を襲った2人に復讐をしたのだろうか。それが今回の事件の動機だったのだろうか。


「1人はそんな名前だった気もするな……」

「……1人は……?」

「ああ。かがみを襲ったって噂だったのは3人だ尸位しい先生と学生2人。その3人が主犯だって言われてる」

「主犯、ですか?」

「……ああ……」男性はため息をついて、「かがみがおかしくなってるのは、みんな気づいていた。なのに見て見ぬふりをした俺たちも、同罪みたいなもんだ」


 ……

 見て見ぬふりは罪なのだろうか。私にはわからない。ただの自己防衛のような気もする。


「ともあれ、名前は詳しく覚えてねぇよ。あくまでも噂だったし、もう20年も前のことだからな。申し訳ないが……これ以上は力になれん」

「いえ……ありがとうございました」


 もうわかった。


 恭子きょうこの復讐したい相手が誰なのか、私にはハッキリわかった。


 これで必要な情報は十分だ。ねこ先輩にとってはまだ情報が出揃っていないのだろうけど、私には十分すぎる。


 私は探偵でもなんでもない。ただの……恭子きょうこの親友。


 できることは、1つしかない。

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