第49話 手強いですよ

 涙が溢れた私を、ねこ先輩は静かに見守っていてくれた。声をかけるでもなく、ただその場にいてくれた。

 泣かないと誓ったはずなのに……私は、弱い人間だ。


 恭子きょうこが犯人だということ以上のショックはないと思ってたんだけどなぁ……


 いつだって現実というものは、私の想像を超えてくる。覚悟はしていたはずなのに……その覚悟がいかに弱いものだったかを教えてくれる。


 だけれど……ここで捜査をやめるという選択肢はない。


「……すいません……」私は涙を拭って、「次に、行きましょう」

「……いいのか?」

「はい」私には恭子きょうこを止めるという使命がある。「えっと……次は、なにをしましょうか」

「20年前の事件をさらに調査する。かがみ景子けいこさんを自殺に追い込んだのが本当に尸位しい教員なのかどうか。それを明らかにする」

「……また地道な調査になりますね」


 20年前の大学生を探して話を聞くだけの作業。


「ああ。ドラマならダイジェストになるだろうな」BGMと映像だけで進んでいくパターンのやつ。「それともう1つ、謎が残っている」

「……謎?」

「ああ。尸位しい教員がリアルタイムでチャットに反応した謎だ」


 11時9分に送られたチャット。そのチャットに反応できた理由。


 ねこ先輩の推理では、尸位しい先生は11時以前に亡くなっている。つまりあの講義動画は録画されたもの。ならばリアルタイムのチャットに反応することは不可能なはずなのだ。


 しかし……わざわざ尸位しい先生が自分が殺される計画に協力するわけがない。仮に自分が殺されると知らなかったとしても、動画撮影なんて協力するわけがない。そのメリットがない。


「ハッキリ言って、この謎を解かなくてもかがみさんを追い詰めることはできるだろう」それしか方法がないのだから。「だが、少しばかりわがままを言うと……僕はこの謎を解いてみたい」


 ……わがまま、か。


「良いですよ」そもそも私のわがままに付き合ってもらっているのだ。「じゃあ……ねこ先輩と恭子きょうこ知恵比べってわけですね」

「……そういうことになるな」

「なら一応警告しておきますけど……恭子きょうこは手強いですよ」

「わかっているよ」


 恭子きょうこは……私の知る限りもっとも頭が良い人間だ。それはおそらく、ねこ先輩よりも。


 私の親友が仕掛けた最大の謎。私にはその推理なんて到底できないけれど、ねこ先輩ならもしかしたら……


 ……


 しかし推理となると私は蚊帳の外だな……探偵役対犯人の頭脳戦になってしまったら私のやることがない。


 せいぜい……他の調査で役に立つしかないな……


 だから私にできることといえば、20年前の事件の捜査くらいだ。


 ダイジェストになるだろうなぁ……

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