第47話 じゃあ猫じゃらしですか?

 さて図書館に来たのはねこ先輩とのデート……なわけがない。当然、理由がある。


尸位しい先生の事件のとき、かがみ恭子きょうこさんは20とやらに反応していたんだね?」

「はい。私がなんとなく20年前も事件があったみたいだね、みたいなことを言ったんですけど……今にして思えば恭子きょうこがリアクションしてました」


 そういえばそんな事件があった、という反応じゃなかった。その事件のことを詳しく知っているような反応だったように思える。


 だからおそらく……その事件に恭子きょうこは関係している。だから私が話題を出したときに変なリアクションになったのだ。


 犯行当日にその話題が出て、さすがの恭子きょうこも動揺したのだろう。


 その20年前の事件のことを調べに、私たちは図書館に来ていた。20年も前だとインターネットも発達していなかったので、当時の新聞を調べるしか方法が思いつかなかった。


「ここからが地道な調査になる」ねこ先輩が肩をすくめて、「ハッキリ言って面倒だな……」

「素直な人ですね……」人からの評価なんて気にしない人だからな。「面倒なら私だけで調べますけど……」

「いや……まぁ飽きるまでは手伝わせてもらうよ。乗りかかった船だからな」


 というわけで2人して20年ほど前の新聞を読み漁っていく。


 乗りかかった船……


 そういえばねこ先輩からすれば、これ以上この事件に関わるメリットもないよな。しばらくしたら警察が犯人にたどり着いて、そのまま逮捕に至るだろう。


 これは私のわがまま。警察より先に恭子きょうこを止めたいという私のわがまま。そのわがままにねこ先輩は付き合ってくれている。


 事件が終わったらお礼をしよう。そのためには……


「先輩……」私は20年前の新聞に目を通しながら、「先輩って、なにか好きなものはあります?」

「マタタビ」吹き出しそうになった。「冗談だ。真に受けるな」

「じゃあ猫じゃらしですか?」

「そういうことにしておこう」


 まともに答えてくれる気はないらしい。


「……できればちゃんと答えてほしいんですけど……」

「そうか。ならば寝ることだ。寝ることが好きだ」

 

 寝ることか……

 お礼として渡すなら……まくら、とかだろうか。いや、でもすでにお気に入りのまくらとかあったら渡しても意味ないよな……


「他にはなにか、ありますか?」

「……なにを聞き出そうとしているのかわからないが……まぁ、そうだな……強いて言うなら、人の笑顔が好きだ」

「……笑顔?」

「誰かが楽しそうに笑っていたら、こちらも幸せになる。だから、人の笑顔が好きだ」


 ……


 なんだかねこ先輩らしくない……いや、らしいのだろうか。わからない。私はねこ先輩のをまだ知らない。


 ともあれ笑顔ね……私の笑顔がお礼……なんて恥ずかしいことが言えるわけがない。


 私は新聞のページをめくりながら、


「では、物理的なものなら?」

「ふむ。キーボードになるだろう」

「キーボード? 先輩、ピアノやるんですか?」

「そっちのキーボードじゃない。タイピングのほうだ」そういえば、パソコンとかで入力するやつもキーボードって名前だったな。「ほしいキーボードがあるんだが……少々お高くてね。購入を迷っているよ」

「……お高い……いくらくらいなんですか?」


 キーボードの値段なんて相場がわからない。高級なものなら1万円とかだろうか。


「約3万5千円だ」

「さ……!」新聞を落としそうになった。「3万……?」

「値段に見合う性能をしていると聞くが……」先輩は頭をかいて、「やはり尻込みしてしまう値段だな……どうしたものか……」


 ……

 3万円のキーボード……


 プレゼントしてあげたら、喜ぶんだろうな……


 でも3万円かぁ……ちょっと私も手が出ないな……金銭的余裕はあんまりないし……


 ……


 ま、まぁプレゼントのことは事件のことが終わったら考えよう。それまでは……事件解決に集中しよう。


 そうしてしばらく2人で新聞を眺め続けた。


 本当にそんな事件があったのかと疑い始めた頃だった。


「あったぞ」


 不意に、ねこ先輩が言った。

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