第33話 友達

 何度でも言うが、私たちのグループは美築みつきのグループ。私と恭子きょうこはその取り巻き。美築みつきというリーダーに惹かれて集まった人間たち。

 

 そのリーダーがいなくなって……これから私たちはどうなるのだろう?


 注文した昼食はすでに半分以上がなくなっている。途中から無言の昼食になっていて……若干気まずい。


 ……


 このまま別れたら、二度と一緒に昼食を食べられない気がする。二度と友達に戻れない気がする。気がついたら疎遠になっているような気がする。


 ここで勇気を出さないといけない。いつも美築みつきがやってくれていたことを、私がやらないといけない。


「ねぇ……恭子きょうこ

「……なんですか?」

「私……恭子きょうこのこと好きだよ」告白まがいの出だしになってしまった。「かわいいし、賢くして優しくて……いつも冷静で……そんな恭子きょうこのことが好き」

「……?」突然の褒め殺しに、さすがの恭子きょうこも驚いたようだった。「え……? な、なにを……?」

「だからね……その……」


 続きの言葉は、なかなか見つからなかった。


 どれほど言葉を尽くそうとしても、私の貧弱な語彙では足りなかった。どれだけ頭を回しても、アホな私には適切な言葉が見つからなかった。


 結局……私に遠回りな言葉など似合わないということだろう。

 

 ストレートに、私の想いを伝えるしかない。


「私……ずっと恭子きょうこと友達でいたい」伝えたいのは、それだけ。「恭子きょうこからすれば……私は美築みつきのおまけみたいなものだと思うけれど……」


 美築みつきと比べて私は何も長所がない。美築みつきのほうが明るいし面白いし優しい。

 恭子きょうこと比べて私は何も長所がない。恭子きょうこのほうが賢いし冷静だし優しい。


 私は……たいして長所なんて持ち合わせていない。影が薄いことくらいだろうか。


 そんな私と恭子きょうこが知り合いだったのは、美築みつきがいたから。ただそれだけ。私に魅力があったとか、そんなことじゃない。


 でも、それでも……


「ダメ、かな……」私は恭子きょうこのことが好きである。「これから何があっても、私と友達でいてくれると、嬉しいんだけど……」

「……」


 珍しく、恭子きょうこがポカンとしていた。私の言っていることを理解するのに時間がかかったのか、返答にはしばらくの間があった。


「……おまけなんて……思ったこともないですけど……」

「え……?」

「私も、たまちゃんのこと好きですよ」当たり前じゃないですか、と恭子きょうこは続ける。「いつも一生懸命で……決して怒ったりしない優しいたまちゃんのことが好きですよ」

「……なら……」

「こちらからお願いしたいです」恭子きょうこは深々と頭を下げて、「これからも……私と友達でいてください。私は友達が少ないので……ずっと友達でいてくれると嬉しいです」


 友達……


 恭子きょうこと、友達。


 恭子きょうことは1年生の時から一緒だった。そりゃオンライン授業になって直接会う機会は少なくなっていたけれど、それでも常に近い距離感にいた。


 だけれど今日始めて……恭子きょうこと本当に話した気がした。本音で通じ合った友達になった気がした。


 私たちが幸せに生きてたら……きっと美築みつきも喜んでくれるよね……?

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