第27話 必要ならキミにあげよう

 しばらく目をつぶっていると、


「――」遠くから声が聞こえてくる気がする。「――」


 私に呼びかけている人がいる。


 誰だろうと思って目を開けると、


「キミ、寝不足だろう」ねこ先輩の整った顔が目の前にあった。「目が赤いぞ。しかも少し目をつぶっただけで寝落ちする状態なら、さっさと帰って寝たほうが良い」


 ……寝落ち……?


 ……私、眠っていたのか。ねこ先輩が目をつぶれというから目をつぶって待っていたら、その間に寝てしまっていたらしい。


 ……そういえば昨日は全然眠れなかったな……尸位しい先生の事件があってからも寝不足気味だったし……


 ……しっかりしないといけない。あとでコーヒーでも飲んでシャキッとしてこよう。


「……それで……密室の謎は?」

「ああ。準備はできた」ねこ先輩は出口に向けて歩きながら、「この教室の扉が仮に閉まっていたと仮定してくれ。事件以降、鍵の管理が厳重になって借りづらくなったからね」


 そうなのか……私の知らないところで、ねこ先輩が鍵を借りようとしていたんだろうな。そして断られた、と。


 ……そういえば私は講義時間とか気にしていなかったけれど、講義で301号室が使われていないタイミングをねこ先輩が調べていてくれたんだろうな。だからこうやって捜査がスムーズに進む。


「そして」ねこ先輩はポケットから鍵を取り出す。「この鍵が301号室の鍵だと思ってくれ」

「……本当はどこの鍵なんですか?」

「100円ショップで買っただけだ。必要ならキミにあげよう」いりません。「とにかく、この部屋は密室。そしてこの鍵が301号室の鍵という想定だ。いいね?」

「わかりました」

「さらに」ねこ先輩はスクリーンを指さして、「あそこのロープが見えるかい?」

「はい」


 スクリーンの持ちて部分にロープが取り付けられていた。そしてそのロープはダンボールに結ばれていた。


 ……なんだか特殊な結び方に見える。ただの固結び、ではないようだが……


「約50キロの重りだ。残酷な事を言うかもしれないが……人間1人ほどの重さだ」


 ……つまりあれは、美築みつきの重さ。


 それが今、スクリーンに結び付けられている。


 ……呼吸が乱れかける。しかし受け入れないといけない。検証のために必要なことだ。


「見えます。わかります」

「そうか。ありがとう」


 そう言って、ねこ先輩は扉から出ていった。


 いったい何をするつもりなのか……わからないけれど、今は待つしかない。


 待つこと3分。


「……え……?」


 不意に機械音が聞こえた。なんの音かと思って教室を見回すと、


「……スクリーンが……上がってる……?」


 そう。教室に取り付けられていたスクリーンが上昇し始めていた。


 同時に、ロープにくくりつけられた50キロの重りも、スクリーンに引っ張られて上昇していた。


 ……なぜ? 教室には私しかいないのに……どうして突然スクリーンが……


 そのままスクリーンは上がり続け、私があの日見た美築みつきの高さまで上昇した。


 私がそれを見て呆けていると、


「あ……」


 不意にポケットの中のスマホが振動した。どうやらチャットが来たらしい。


 送信者はねこ先輩。学校のアカウントに向けての送信だった。


【室内に鍵とリモコンが見えるか?】


 鍵とリモコン……?

 

 言われて、立ち上がって鍵とリモコンを探す。


 それらはすぐに見つかった。さっきねこ先輩が見せてくれた100円ショップで買った鍵と、301号室のスクリーンを操作するリモコンが地面に転がっていた。


 それらを詳しく見ると、


「……糸……?」


 細い糸が、リモコンと鍵にくくりつけられていた。そしてその糸を辿っていくと、ロープと同じようにスクリーンに繋がっていた。


「成功したようだね」ねこ先輩が扉を開けて入ってきた。「これで、この301号室の密室はなくなった」 


 ……なるほど……


 考えてみれば、とても簡単なことだった。

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