第25話 JUDGEMENT

 その部屋に入るだけで、かつての熱気がフラッシュバックする。


 ガラスを割った途端に出てきたあの熱……今はそんな温度はないはずなのに、体温が上がってしまう。


 無意識のうちにスクリーンに目をやってしまう。いないはずの美築みつきの幻影が見えて、視界が歪む。


 ごまかすように、私は言う。


「……301号室は、密室だったんですよね……」

「ああ。この教室に出入り口は2つあるが……そのどちらも施錠されていたことは僕も確認している」そんな確認をしていたらしい。「上部に取り付けられている窓までは確認していないが……密室殺人と騒がれている以上、施錠されていたのだろうな」


 301号室は……301号館と言い換えても差し支えない。要するに巨大な教室が1つだけその場に存在している。廊下もなければ他の教室もない。


 その教室の窓も扉も締め切られていた……だから密室殺人。


「もっとも」ねこ先輩は教室の真ん中に移動して、「この場所にあった窓が施錠されていたかどうかは不明だがね」

 

 教室の真ん中の、とある机。


「……ノートパソコン、ですか?」オンライン会議殺人事件の続きだと騒がれる要因となった、ノートパソコン。「パソコンが、窓?」

「OSの名前さ。聞いたことくらいあるだろう?」おーえす、ってなんだろう。「そのノートパソコンはオンライン会議のアプリが起動されていた。そして会議に参加していたアカウントの名前は『JUDGEMENT』」

「ジャッジメント……」言われて、思い出す。「そうだ……尸位しい先生が殺されたときに書き込まれたチャット……その送信者も『JUDGEMENT』でした」

「なるほど。だが同一犯なのか、模倣犯なのか……まだ判断ができないな」


 尸位しい先生を殺した人と、美築みつきを殺した人。

 それらは同一人物なのだろうか。

 それとも……まったくの別人なのだろうか。


 それすらもまだわからない。


「さて現状を整理しよう」ねこ先輩は机を軽く叩いて、「この場所にノートパソコンがあって、オンライン会議が開かれていた」


 その理由は不明。


「次に……スクリーンの持ち手にロープが巻き付けられ、そのロープで草薙くさなぎ美築みつきさんの首は締められていた」


 思い出したくないけれど、その通り。


「事件現場である301号室は密室。鍵は室内に落ちていた」


 スペアキーがあるのかもしれないが、その鍵がなくなっていれば話題になっている。だから密室。


「事件当日、301号室は異常な高温だった。おそらくエアコンが作動していたのだろうね」


 暖房をかけて閉め切れば、あそこまでの高温になるんだな……


「今現在、尸位しい教員殺害事件との関連は不明。2つの事件は繋がっていると思いたいが、まったく別の事件である可能性もある」


 マスコミはオンライン会議殺人事件の続きだと面白がっているが、まだ2つの事件が同一犯である確証はない。


「わかっていることは、これくらいだ」


 ……


 情報が少ないなぁ……この情報だけで、本当に真実になんてたどり着けるのだろうか。

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