第20話 判断ミスだった
その後のことはよく覚えていない。
AEDを持って、私は近くにいた教職員に話しかけた。
説明はうまくできなかったと思う。だけれど泣きわめく私を見て緊急事態であることは伝わったようだった。
気がつけば301号室に戻ってきていた。横たわる
しばらくして救急車が到着。
救急隊員の人たちが
そのままサイレンを鳴り響かせて、救急車は病院に向かっていった。
……
放心状態、という言葉がよく似合う。
なにがなにやらわからない。完全にパニック状態だった。
その事実だけが私の頭にあった。
気がつけば、私はベッドで寝転んでいた。白いカーテンに囲まれた場所で……どうやら保健室まで運ばれたようだった。
清潔感があって、空調が完璧に施された部屋だった。さっきまで暑い部屋にいて汗をかいているから少し寒いが……気にしていられない。
「少し、落ち着いた?」
カーテンを開けて、保健室の教員らしき女性が顔を出す。
……とても心配そうな顔をしている……
どうやら私は、相当取り乱していたらしい。そんな状態で保健室まで運ばれてきたらしい。その記憶がないあたり、本当に頭が真っ白だったんだろうな。
返事をしない私を見て、
「……ちょっと落ち着いたみたいだね……良かった」運ばれてきたときは泣きわめいていたんだろうな。「運ばれてきたときはびっくりしたけれど……ゆっくり休んでね」
「……はい……」
自分でも驚くくらい細い声が出た。何もしていないのに呼吸が乱れて、会話どころではなかった。
……
いったいなにが起こったのだろう。
さっきまで見ていた光景は、本当に現実なのだろうか。夢だったなら、どれほど良いだろう。
いや……わかっているはずだ。あの状況で……助かるはずがないことなんてわかっているはずだ。
しばらく私が呆けていると、
「多少落ち着いたようだね」スポーツドリンクを2本持った
「……ありがとう……ございます……」
言われてみれば喉がカラカラだ。301号室は不自然に暑かったし、水分補給が必要だろう。
私はベッドに座って、一口スポーツドリンクを飲んだ。
「……あの……ありがとうございました」
「なににお礼を言われたのか、わからないな」
「……先輩の指示がなかったら、私……なにもできませんでした」
「……」先輩はなにかを言いかけて、言葉を止めた。そして代わりに、「すまない。判断ミスだった」
「え……?」
なんで謝られたのだろう。
「窓の外から現場が見えて、キミには刺激が強いだろうと思って見ないように忠告した。しかし、それは間違いだったな。まさかキミの知り合いとは思わなかった」
「……いえ……」
先輩の忠告があったから、心の準備が多少はできていた。
なにかが301号室で起こっていることは把握していた。だから……少しだけショックは少なかった。
……正直言って、まだ現状は受け入れられていない。嘘なのではないか、夢なのではないかと思ってしまっている。
だから……その決定的な一言は聞きたくないのだ。思いたくもないのだ。
部屋は沈黙に包まれた。カーテンの中で
……これからどうしよう。
そうしていると、
「失礼しますよ」
軽い声が保健室の中に聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。