第9話 一部の生徒からの要望
そのお知らせは事件から1週間が経過した頃に発信された。
【明日から講義を再開します】明日とは……急だな。【一部の生徒からの要望を考慮し、対面での講義となります。突然のことで混乱すると思いますが、対応をお願いします】
……対面授業か……数年ぶりの対面授業。なんだか懐かしい。
まぁ感染症に関してはかなり収束してきているし、オンライン授業を終えるには良いタイミングだったのかもしれない。
それにしても【一部の生徒からの要望】か……
やっぱり、オンライン授業での殺人を怖がっている人がいるのだろうか。私自身も少し怖いけれど……
さて久しぶりの対面授業……楽しみでもあり、面倒でもある。
朝食を食べながら、学校の準備をする。インスタントコーヒーの粉を入れすぎて、苦いコーヒーになってしまった。
通学に必要な物が思い出せない。どの電車に乗っていたのかあやふやだ。時間の感覚も微妙である。
なんとか準備を終えて家を出た。
そして駅まで歩いている最中に、
「誰か……!」悲鳴に近い女性の声が聞こえてきた。「誰か……止めて!」
……止めて……?
なにかと思って声のほうに目を向けると……
犬がいた。リードはついているけれど、飼い主は遥か後方を走っている。
大型の犬が道の真ん中を全力疾走。田舎道なので他に人は見えない。
どうやら散歩の途中で犬のリードを離してしまって、そのまま犬が走り始めてしまったようだ。
私はカバンを地面において、受け止め体制を取る。脇を通り抜けようとしても捕まえられるようにフットワークの準備をしていると、
「――っ……!」
その大型犬は私の脇をすり抜けるどころか、まっすぐ私に向けて走ってきた。
そしてそのまま正面衝突。自転車にでもはねられたのかという衝撃が伝わって、私は地面に転がった。
痛い。まさか通学再開初日に大型犬にふっとばされるとは思っていなかった。
しかし、
「っ……捕まえた……!」
なんとか大型犬を抱きとめて、犬の動きを止めることに成功した。
その後、あとから追いかけていた飼い主様にお礼を言ってもらって、良いことをした気分になりつつ登校を再開する。
調子に乗っていたら電車を乗り間違えかけて、なんとか修正する。
四苦八苦しながら電車を乗り継ぎ、久しぶりの学び舎にたどり着いた。
外見はキレイ、と評判の校舎だった。しかし中身はといえば……田舎らしく虫が大量にいたりする。とくに夏場はクモの巣にいろんな虫がくっついていたものだった。
とはいえ敷地はそこそこ広い。12号館まで存在するし、教室の数には困っていない。最近建て替えられた11号館だけは中身も美しかった。
久しぶりの学校。久しぶりの登校。久しぶりの対面授業。
ちょっと、緊張してきた。今日はそんなに講義が多くないのだけれど、それでも不安だ。
少しばかり早く到着してしまった。どこかで時間を潰すか……なんて思っていると、
「おはようございます」後ろから小動物みたいな声が聞こえてきた。「直接会うのは、久しぶりですね」
「
振り返ると、そこには
低めの背と童顔で、とても大学生には見えない。その割に落ち着いた声のギャップ。常に冷静な女の子。
外出自粛が始まってから、直接会う機会が少なかったので、かなり久しぶりの対面だった。
私を見るなり
「……そのケガ……どうしたんですか?」
「え……?」言われて肘を見ると、なぜか擦りむいていた。「ああ……ちょっと犬と遊んでたら、転んじゃって……」
「なるほど……」
説明するのも面倒なので、話を変える。
「あれ……
「体調不良だそうです。そりゃあ……あんな事がありましたからね……」
「……
そんなに
一番優しくて、一番明るくて……それでいて一番繊細なのが
今度、予定が合えば
「まだ講義開始まで時間がありますね……」
「そうしようか」
昼食には早いけれど、まぁ飲み物でも注文して席に座らせてもらおう。
久しぶりに直接
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。