第7話 それだけ?
どうでも良いけれど……私は私の名前が苦手だったりする。
別に私自身が私の名前が嫌いなわけじゃないけれど……なんだか勝手に下ネタを連想する人がいるようだった。
それもこれも……
閑話休題。
目の前にいる警察官2人は、なんともガタイの良い男性たちだった。威圧感があるというかなんというか……こうして対峙しているだけでビビってしまう。
「なにか、御用でしょうか……?」
「いやぁ……大した用事じゃないんですが……」じゃあ来ないでほしい。「5月23日の11時10分から30分の間……あなたはどこでなにをしていましたか?」
あまりにも予想通りすぎる質問だった。
「なにって……この家の中でオンライン授業を受けていました」
「そのことを証明できる人は?」
「……オンライン会議に出席者のリストが残ってると思いますが……」
「そんなの、会議だけ繋いでサボってた可能性もあるよね?」
なんか感じの悪い警察官だな……疑われている以上しょうがないか……
「……じゃあ、証明できる人はいないですね……」
私はアパートに一人暮らしだ。私が私の部屋でオンライン授業を受けていることを証明する人はいない。
親友2人との会話だって、家の中じゃなくてもできる。
「では……あなたが
「……そう、ですけど……」
もっと気を使って聞いてほしかったな……思い出したくないことだから。
「どんなことされたの?」
「……」マジでデリカシーのない警官だな……「……言わないとダメですか?」
「言えないの? ウソってこと?」
そうじゃないけれど……ただ、自分の身体を触られたことなんて言葉にしたくない。それくらいわかってくれよ。
とはいえ……この状況なら仕方がないか。下手にウソをついて疑われるのも面倒だし……
私は小さくため息をついてから、
「……1年生のとき、ですね。その頃はまだ対面授業だったので……」オンラインになってからのセクハラはなかった。「履修してる人が少ない講義で……よく小テストがある講義でした」
思い出して、少し気分が悪くなってきた。
深呼吸をしてから続ける。
「テスト中で声が出せなくて……その状況で……お、おしりを……」
「触られたんだ」
「……はい……」
だからもうちょっと気を使ってくれよ。さてはモテないだろ。
「それだけ?」……もう警官やめちまえよ……「たったそれだけで?」
「……」いろいろ反論したいことはある。だが、「それだけで、なんですか?」
「……」殺したの?と言いかけたよね。「いや……なんでもないよ」
……ニヤニヤしてるのが腹立つな……この警官たち、ワイドショーのニュースを真に受けて私を疑っているのか? それとも、警察内部でも私が怪しいと思われているのか?
「そのセクハラ……警察には相談しなかったの?」
「しましたよ。門前払いを食らいましたけど」
学校も警察も、まったく助けてくれなかった。なんか今になって腹が立ってきた。
「そっか」そっか、じゃないよ。文句言ってるんだよこっちは。「まぁ警察も暇じゃないからね……仕方ないね」
……私のセクハラ対応を無視した時間で誰かを助けたんだろうか……なら許すけどさぁ……
ともあれ警察に相談したりしているうちに感染症が流行してオンライン授業になった。結果としてセクハラはなくなり、私はオンライン授業の準備のために奔走することになった。
「とにかく……アリバイはなくて動機はあるってことだね」
「……」そうだけれど……「なにが、言いたいんですか?」
「なにも?」いっそストレートに言ってくれよ。「まぁ……また来るかもしれないから、そのときはよろしくね。それとも……キミがこっちに来ることになるかな?」
なんて言葉を残して、警官たちは去っていった。
……なんで彼らは、あんなに喧嘩腰だったのだろう。私のことを容疑者としてみているのだろうか。
……
このままだと私……捕まるのでは?
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