第六夜 知ってたよ、ゆめちゃん

 アタシは素敵なステキング!

 女子でキングとはこれいかに?

 霊界最強スーパーアイドル、不動のセンターことゆめちゃんだよー!


 ……は?

 つかみのネタがどんどん薄くなってきてんじゃないって?

 それだけはマジでやめときなさい。



 あれれ?

 なんかキミ、ちょっとぐったりしてない?


 あぁ、夏バテかぁ。

 確かに今年の夏はとんでもなく暑いもんね。


 んじゃ、そんなキミにこのゆめちゃんがとっておきの怪談話で涼しいどころか心臓をバッキバキに凍り付かせて……


 だから、ゆめちゃんの霊界ジョークだってば。

 でも、本気で怖がってるその顔が見たくなっちゃうから、ついやっちゃうんだよね。へへ。



***



 そう言えばさ、全身麻酔ってどんな感じなの?

 もし、効きが浅かったりしたら地獄の苦しみだろうねぇ。


 唐突にどうしたって?

 いやぁ別に。


 麻酔みたいに意識をなくす能力が使えたら幽霊活動もはかどるかなぁと思って。うへへ、オマエを永遠に眠らせてやるぅ~ってね。


 は? 何言ってんの!?

 もうぜんっぜん、キミが手術を受けるのかどうかが気になってとかじゃないない!【ごまかすのが下手すぎるゆめちゃん】


 なんだーい、その余裕ぶっこいたニヒルな笑いは。

 子供のくせに妙な色気を出しやがってからに。


 てゆーか、アタシはただ、何かのネタになるかもって興味本位で聞いただけだからね。


 へ?

 元気づけるために色々やってくれたんでしょ? って、アタシを買いかぶりしなさんな。


 このゆめちゃん、霊界では知るものぞ知る、余にも恐ろしい幽霊なんだぞぉ。


 三大好物は人の生き血と恐怖におののいた表情、そして断末魔の叫び。ぎぃやぁぁぁぁ! ってね。


 どうだい?

 これを聞いてもそんなことが言えますかぁ?


 だから何で笑ってんの。

 ほんと、キミってば調子が狂うなぁ。


 で、実際のところはどうなの?

 やっぱり、手術って血がどばーって出て、


【ゆめちゃん、迫真の演技がスタート】

「先生、患者が急変しました! 心肺停止です!」

「何だと!? すぐに、アレ持ってこい」

「はい、先生!」

「電気ショック行くぞ」【ドンッ! ピー!】

「もう一度だ!」


 ってなったりすることもあるんでしょぉ?【あっさり元に戻る】

 やー、怖いよねぇ。

 ほれほれ、キミもビビってんじゃないのぉ?


 なぁにその顔は。

 ゆめちゃん、テレビドラマの見過ぎだよ、ってそりゃテレビくらい見るでしょ。


 先生を信頼しているから怖くない?


 また出たよ~。

 どうしたら、こんなクソみたいに歪んで汚れきった世俗に毒されずに、そんなに素直に成長できるのか、あたしゃ不思議で仕方ないよ。



 ……怖いのは病気だけ。

 こうしている間にも身体が蝕まれてるって……?


 ――あぁ。そう、だよね。


 キミはまだ子供なのにとても難しい判断を迫られている。

 ご両親もキミの判断を優先するって言ってるんだよね?


 何で知ってるの? って、アタシは何でもお見通しだよ。

 何を隠そう、キミの前ではわざとポンコツっぽく振る舞っていたけど、実は霊界でも指折りの能力者なのだよ、このゆめちゃんは。


 知ってた、ってウソつけぇ!

 キミってば、いつもアタシがポンコツをぶちまける度に指差して笑ってたじゃないか。


 ――キミが笑ってくれて救われたのはアタシの方なんだけどさ。【ボソッと】



 で、どうなの?

 難しい手術って聞いたけど、受ける気になったのかい?

 成功率だって半々って話なんだよね?



 ――ねぇ。今から、めちゃくちゃワガママを言うよ。

 アタシはそこを乗り越えて、キミには元気になって生きていてもらいたいな。


 想像するだけで怖いよね。

 胸がぐーって苦しくなるよね。

 何でボクだけって思うよね。


 でもさ、手術を受ければ治る可能性がある。



 また、キミと一緒にご飯食べたり、動画作ったり、デートしたり、ずっと笑い合ったりできる日が来るかもしれないって思ったら、アタシだって――。【少年に近づきながら】


 あ、いや。何でもないない。【我に返って距離を置く】

 アタシったら何を言っちゃってるんだろうね、はは。


 え? 怖いけど手術を受ける決心がついた?


 ――そっか。うん、うん。

 でも大丈夫だよ。キミにだけ怖い思いはさせないからね。

 


***



 ん? 霊界ってどんな世界だって?


 この話の流れでそれ聞いちゃう?

 キミってば、ほんっっとメンタルがバグり散らかしていて清々しいほどだね。


 前から思ってたけど、キミってたぶん異常者だから、一度病院行って診てもらえば? あ、ここは病院だった――

 って、そのくだりはもういい? コイツめ……。


 そうだねぇ、霊界は天界と人間界の狭間って感じなんだけど、アタシたちが気軽に行き来できるのは人間界なんだよ。


 だから、割と今キミに見えている世界と景色はほとんど変わらないかも。色はだいぶ暗いけどね。くっくっくっ。


 あと、人間と同じで幽霊にも色んな性格がいるから、みんな割と自由にやってるよ。



 生きている人間と姿形を全く同じにもできるのか、――って?



 ――あぁ、なぁるほど。そういうこと、か。

 キミには姿んだね。


 そっかぁ。

 だから、無敵のスーパー美少女幽霊のアタシにつれない態度を取れたわけだ。


 あれ? でもさ、姿で見えてたんなら、もっと優しくしてくれてもよかったじゃん。


 十分優しくしてたつもり?

 童貞だから女の子とどう接したらいいかわからなかった、って。


 ふふ、あはは。

 いやー、言う言う。


 でもまぁ、キミはまだ子供なんだからそんなの当り前だって。

 女慣れしてる小学六年生とかこっちが引くわ!


 てゆーか、言っとくぞ。

 キミにはそんなの、ぜんっぜん似合わないからねっ!


 だけどさ、アタシの目的はキミに生きてもらうことだったから、なんにせよ手術を受ける気になってくれたのは素直に嬉しいよ。



 ――大丈夫。【ここから耳元で】

 きっと上手くいく。

 どんなに難しい手術だって、アタシが上手くいかせてみせるから。


【少年の両肩を掴んで少し離れた】

 なぁにその目は?

 また疑ってるぅ。


 アタシはさ、霊的なものではあるんだけど、実はそのちょっと上の世界からきた存在だったりするんだ。だから安心し――


 天使?


 ……ばっ、何言って、ち、ちげーし!【焦るゆめちゃん】

 アタシはそんなんじゃないない!


 誰が何と言おうが、アタシはただの幽霊女子のゆめちゃんだよ。【にっこり】



 ねぇ、だからさ……【少年の手を包むように握る】

 キミから見たら頼りなさげだろうけどさ、とにかく今回だけは任せてよ。

 アタシがキミの手術を必ず成功に導くから。



 ――それがの最後の願いなんだから。

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