第五夜 お出かけしようよ、ゆめちゃん

 どぉもー、霊界一の承認欲求モンスターことゆめちゃんだよー。

 お化けだけにっ!


 たはーっ! 上手すぎッ【おでこを自分でぺチン】


 ……くぉおらあああ!

 もう普通に無視するじゃーん!


 今日という今日はキミの親に一言文句言ってやる!

 オタク、家ではどういう教育しているんですか? ってね。


 え、そういうモンスタークレーマーみたいなことはやめなさいって?


 ふふふ、冗談に決まっているじゃないか。

 アタシレベルになると、緩急自在なのですよ。


 意味わかんない?

 うん、アタシも何言ってるか全然わかんないや。



 まぁつかみはオッケーってことで、これくらいで勘弁してやるか。

 今日はいつもより遅いんだね? って、あぁそうそう。


 確かにぼちぼち、丑三つ時だもんね。うへへへ。

 怖い言い方やめなさいって? べっつにいいじーゃん。


 キミはアタシのあまりの可愛さに忘れちゃってるかもだけど、アタシはこんなに可愛いのに幽霊だからね。


 たまにそれっぽい言葉も使いたくなるんだよ。

 相変わらずめんどくさい性格してるね……って、知ってるわ。


 まぁ丑三つ時にはまだ時間があるにしても、もう消灯時間はとっくに過ぎているよね。

 せっかくだし、ちょっとお出かけしない?


 大丈夫だって。

 ちょっとここの施設の中をウロウロするくらいだから。


 怖くない怖くない!

 だって、もうお化けはここにいるじゃないか。


 なんと! ゆめちゃんはお化けっぽくないから例外だって?

 あ~、そう。

 ふ~ん……じゃあつまりその、キミはアタシのことがすす、す――


 へ? 単に慣れただけ?

 は~、さよですか。【がっくし】



***



 ねー、どうだい。

 人っ子一人いないでしょー。


 人っ子一人って最近聞かないね? って、アタシを年上扱いするのやめてよねー。これでもゆめちゃんは永遠の少女キャラなんだから、次に言ったら九九を言えなくなる呪いをかけちゃうよ。


 だから、マジで受け取るのやめなさいって。

 顔面が青すぎてブルーハワイかと思ったわ!


 もうこのっ。美味しそうだな、食べちゃうぞぉ!【イチャコラ】


 ごめんよ、悪ノリしたのは謝るってばぁ。


 ん~、でも人目を気にしないで自由にうろつけるのってのは、なかなか気持ちがいいね。【片腕を伸ばして、もう片腕で肘をつかんで全身で伸びをするゆめちゃん】


 ん、キョロキョロしてどうしたの?

 あぁ、人が全然いないのがそんなに不思議かい?


 消灯時間は過ぎているけど、念には念をって思って、全ての部屋の扉の外から木を×印に打ち付けて、絶対に出れないように中に封じ込めておいたんだ。


 これなら誰にも見られないでしょ。

 アタシってば天才! 行動力の権化!


 え、バレたら絶対出禁になる!?

 やっば、またやりすぎちゃったよっ!



************



 ねぇねぇ、せっかくだからさ。

 キミが気になってるっていう女の子とデートする時の練習をしてみようよ。


 こんな場所でそんなことができるわけがないって?

 そんなことなーい!


 いいじゃんいいじゃん! やってみよおよぉ。【ゴロにゃん】

 いいかい? デートっていうのは、結局のところ妄想の具現化なんだよ。

 ようはイメトレってヤツだね。


 だから、いついかなる時も、男子たるもの女子を上手くエスコートできるように妄想しておくのが大事なんだよ。


 何その顔?

 めっちゃ疑ってんじゃん!


 ふふん、何を隠そうこのゆめちゃん。

 霊界では毎日のように男に言い寄られ、その全てを断っていたからデートしたことは一度もないんだけど、その反動で妄想だけはブラックホール並みにパンッパンに膨れ上がっているのだよ。【ドヤ】


 そっちの方が逆に怖いって?

 怖くないない。単なる妄想のプロってだけだよ。【ニコリ】


 まぁ細かいことはいいから、とにかく行ってみよ。

 んじゃまずはあそこの扉を開けてみよっか。



【ガラッ】

 じゃじゃーん! ここがオペ室だよー。


 じゃあ、そこの手術台をカフェのテーブルに見立てて、アタシをエスコートしてみて。

 フォークはないけど、幸いナイフはあるしね。うへへ。


 は? 頭が完全にイカれてる? 病院行った方がいい? だとぉ!


 何を隠そう、ここが病院じゃーい!

 それに、たかだかオペ室にビビってて女の子を幸せにすることなんてできるはずないじゃろがい!


 その暴力的なまでの極論はやめなさいって?


 ふふん、妄想プロのゆめちゃんを舐めちゃいけないよ。

 オペ室なんてまだまだ序の口なのさ。


 相変わらず意味がわかんない?

 大丈夫。アタシなんて1ミリもわかってないし。えへ。


 おしおし。

 んじゃ、次は本命行ってみよっか。


 嫌な予感しかしない?

 くっくっくっ、どうだろうねぇ。



【そして――】


 さぁ、着いたよっ。

 って、何で怖がってないんだよぉ。


 ここがどういう場所かわかってんの?

 キミのメンタル、バグり散らかして煙吹いちゃってんじゃないの?


 はぁ、キミは時々アタシの想像を遥かに超えてくるね。

 妄想プロのお墨付きをもらった?

 ほほー、キミもなかなか言うようになったじゃないか。


 でも、そんなキミでもここは絶対怖いはずっ!【完全に趣旨が肝試しに変わっているゆめちゃん】


 じゃ、じゃあ行くよ。

 ここ、ここここ、ここが霊安し……うキャーッ!


 ちょっ、脅かさないでよっ!

 今、アタシの首筋を触ったでしょっ!


 へ? 何もしていない?

 罰当たりなことをするから、呪われたんじゃ……って?


 うっぎぃやああああ!【顔面蒼白】

 ごめんなさいごめんなさい!

 にっげろぉぉぉぉ!!



【部屋に戻っていく途中の廊下にて】


 はぁはぁ、めっちゃ怖かったぁ。

 あんなに怖いのはこりごりだね。


 最後はシャレになってなかったって?

 なぁんだ。ほんとはキミも怖かったんじゃないか。可愛いヤツめ。


 でもさ、本音を言うと、キミと二人ならどこでもよかったんだよね。

 丘の上から眼下に広がる海を眺めるでも、墓地でこっそり花火をやっても。


 墓地は嫌だ?

 いいじゃん、夏っぽくて。


 やっぱりアタシとはデートしない……だと?

 ふ~~~んだ。いいもん、いいもーん。


 ――って、やっぱりアタシはキミとまたお出かけしたいかも。

 今度はちゃんと外にお出かけして、ちゃんとしたデート。


 ほら。手、出して。

 ――あったかくはないけど、夏なら冷んやりしていいかもよ。

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