第三夜 美味しいね、ゆめちゃん

 愛を込めて怨念をー!

 みんなのスーパー貞子ことゆめちゃんだよー。


 何だい、その顔?

 いいんだって、アタシと貞子の仲なんだから。


 くっくっくっ、幽霊と言えば貞子っていう世間の先入観をぶっ壊すのさ。

 だから、あたしの方が有名になるまでは貞子の名前をちょいちょい使うことにしたんだよ。


 何だって? 売名行為? 名誉棄損? 人のふんどしで相撲を取る? 他人の念仏で極楽参り? 最後はなかなか難しいところをブッ込んできやがるし。


 ふふん、言ってろ言ってろ。

 そのうちゆめちゃんはキミの手の届かない存在になって、気軽に話せない状況になっちゃうかもしれないぜ。


 ――幽霊と話せている自分が怖かったし、むしろ願ったり叶ったり……だとぉ!?


 むっきぃーぃっ!

 何て生意気な子なんざましょう!


 キャラ変わってるって?

 やー、これはキミはどのゆめちゃんが好きなのかを探っているんだって。



***



 って、何をキョロキョロしているんだい?

 あー、食堂に誰もいないのが不思議なのか。


 実はね。せっかくだから、今日は食堂を貸し切りにしてあげたんだよ。

 あぁ、それは簡単。キミが食堂に入った後に『今日この食堂に幽霊が出るぞぉ』って、血文字でドロッドロの地獄のような立て看板をドアの外に置いておいたんだよ。


 ……

 あああ、普通に引くのやめてぇ!

 違うの違うの、今日はアタシがキミに料理を振る舞ってあげようかと思ってさ。


 なぁに、その疑いの表情は?

 アタシは嫁入り前のスーパー貞子。料理なんて得意中の得意だっての。


 スーパー貞子はもういい?

 あ、うん。そうね……って大事なところはそこじゃなーい!


 アタシの手料理だよ?

 霊界の野郎どもなら発狂して喜ぶところだよ!


 幽霊が料理なんてできる訳ないだと?

 もう、キミってヤツは。古臭い先入観に縛られまくって、亀甲縛りからのM字開脚だねっ。【ヒロインっぽく可愛く】


 ……ただ言いたくなっただけなのよ。

 知ってるくせに。【ちょい照れ】


 てゆーか、ゆめちゃん料理できるもん!


 ん?

 ……まぁ、そりゃアタシだってたまには可愛い言い方だってするよ。

 そんなこと言ってぇ、アタシの多重人格っぷりがクセになってきたくせにぃ。


 で、どう?

 せっかく食堂を貸し切りにしたんだしさ。


 アタシが作ってあげるから、二人でご飯食べようよ、ね。【優しいお姉さん風で】


 いや、キミがいつも食堂でひとりぼっちで食べてるのが気になったとか、別にそんなんじゃねーし。【口を尖らせてごまかしている】


 だからさ、何でも好きなものを言ってみて。

 食堂にある物全部使ってとびっきり美味しい料理を作ってあげるから。


 カレー?

 ザ・ド定番キターーー!

 何のひねりもねーーー!【(゚∀゚)←この顔文字の感じでGO】


 うそうそごめんよ。

 ちょっと調子に乗ったってば。【汗】


 うん、いいよ。

 カレー作ったげる。

 キミは辛いのは平気?


 りょーかいだぁ。

 んじゃあ、キミも手伝ってよ。


 何だよぉ、いいじゃん。やっぱり一緒に作りたくなったんだから。


【二人で食堂のキッチンへ】


 ありゃ。肉がないじゃん。

 今週は魚メインの献立?

 だからかぁ。まぁいいや、たまには魚のカレーってのもオツでしょ。


 んじゃ作っていこうか。

 キミは野菜は切れるかい?


 へぇ、偉いね。じゃあ、玉ねぎと人参、それにジャガイモをお願いね。

 人参とジャガイモは皮をよく洗ったらそのままで、切り方は適当に乱切りとかでいいよ。

 あ、指切らないようにゆっくりね。


 ご飯は炊いてあるしっと。

 んじゃま、アタシは調理&仕上げ担当で。


【バカッと冷蔵庫を開ける】

 ぬぬぅ~、魚はそうだなぁ。よくわかんないね。

 これとこれでいいかな。【川魚を適当にチョイスするゆめちゃん】


 どれ、野菜は切れたかな? お、ちゃんとできてるじゃん。

 んじゃ、あとはアタシにお任せあれ。


 ん、大丈夫。

 まぁ、キミは椅子に座って、ゆっくりテレビでも見ててよ。



【そして……】


 できたよぉ。【かたっと皿を置く】

 はいどうぞ、召し上がれ。


 ……こんな生臭いカレーは初めて?

 どぎついショッキングピンクが色鮮やかに弾けていて、なぜか毒沼の如くコポコポと泡が湧き出しているし、この世のものとは思えないほど生臭いんだけど大丈夫かって?


 またまたぁ。

 大丈夫に決まってるじゃん。

 ヨーロッパじゃ魚のカレーの方がむしろ主流なんだよ。【適当】


 アタシが愛情込めて作ったんだ。

 不味いわけがなかろうもんっ!


 ……まぁ、とりあえず食べてみよっか。

 いっただきまーす!


 ……

【カレーを掬ったスプーンを口に寄せる。スプーンを持つ手がぷるぷる震えて、完全に生臭いと思っているゆめちゃん】


 う~、えいっ!

 パクッ ごふぁっ!【きっつぅ】

 パクッ ぼうへっ!【味覚が死ぬッ】

 パクッ ぶふぉっ!【明日が見えねーッ】


 ……え?

 いやいや、全然無理してなんかないって。【脂汗かきまくり】

 ってキミ、何でバクバク食べてるのさ!?


 いやだって、このカレー、クッソ不味いじゃん。

 ダメだよ食べちゃ。

 いいよ、無理しなくたって。


 ……キミ、不味過ぎて泣いてるじゃん。

 そんなに無理して食べたらダメだってば。


 せっかく二人で一緒に作った料理だから?

 残すなんてできない……って。【感動に打ち震えているゆめちゃん】


 違うの違うの!

 アタシのこれは泣いてるんじゃなくて、ただ目に福神漬が入っちゃっただけで……。


 あー、でも確か食堂のおばちゃんなら何でも美味しくアレンジできるから、置いておけば何とかしてくれるんじゃないかな。


 どうしてそんなこと知ってるのかって?

 ふふん、アタシの情報網を甘くみちゃいけないよ。


 新手の嫌がらせかなんかだと思われそう?

 まぁその時はその時。

 二人で一緒に怒られようじゃないか。エヘヘ。



【結局レトルトカレーを一緒に食べた】


 レトルトでも二人で食べれば高級料理にだって負けないね。

 ――今日のカレーは人生で一番美味しいな。

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