第二夜 センス終わってるね、ゆめちゃん
やっほい!
嬉し恥ずかしうらめしや!
みんなの憧れ、霊界一の美女、足先なんて見えなくても8頭身のウルトラスーパープレミアム女子こと、ゆめちゃんだよー。
って無視かーい!
ん? それって何読んでんの?
ありゃ、何で隠すの?
どうせエッチな本でしょ~? ゆめちゃんにも見せなさーい!
【恥ずかしがる少年から本を強奪】
これってファッション雑誌じゃん。
何だよー、いっちょまえに色気づきやがって、コイツめぇ。
ふぁさぁっと、美しい黒髪をかきあげる、霊界一のファッションリーダーと噂になっていたりいなかったりするゆめちゃんが通りますよー。【ちょいウザ】
幽霊のくせにイイ女ぶるなだって?
なにをー、今のは全幽霊を敵に回す発言だぞ。
呪いでこの部屋のエアコンをぶっ壊してやろうかぁ?【それは呪いじゃないと思う】
ふぅ。まぁいいけど。【少し落ち着いた】
てかさ、これだからアタシの魅力がわからないお子ちゃまには困ったもんだよね。
アタシレベルになると、ファッションなんてお手のものなのだよ。何たってファッションが服着て真夜中の墓地を彷徨ってるって言われてるくらいだからね。
じゃあ見せてみろって?
言ったな。べっつにいいですけどぉ!【ちょっとムキになる】
あとでアタシの可愛さにビビり散らかして、
「やっぱゆめちゃん凄すぎ! マジ幽霊!」
ってなって、アタシに許しを請おうと思っても、美味しいミネラルウォーターを持ってこないと許してあげないんだからね!【安あがりなゆめちゃん。幽霊は水が好き】
【そう言い残すと、暴走気味に一度屋外にすり抜けて出ていって、しばらくして戻ってくるゆめちゃん】
【そして――】
くっくっくっ、待たせたな小僧。
これが全幽霊界の先頭を突っ走る最先端ファッションリーダーの実力だ! とくとその眼に焼き付けるがいい!
まず目に飛び込んでくるのは、上下に鮮やかなクリムゾンレッドの本革レザーのセットアップ。
童貞殺しの絶対領域を完備した純白のニーハイ。
そして中に着ている大きくプリントされた、口からダラダラと血を垂れ流したクマさんが不気味に微笑んでいる、差し色である蛍光イエローのど派手なTシャツ。
しかし、ファッションリーダーゆめちゃんはまだまだこれじゃ終わらない。あたしゃ、さらにこうだよッ!【ダサかわTシャツを中にオールイン】
あ、そうそう。見て見て、このレザーの光沢。特にこのエッロい身体のラインにピッタピタのレザーのショートパンツがおしゃエロで、それでいてちゃんとこなれ感もありつつ、さらに足元は外しで決めたハイカットのスニーカー(残念ながら足先は消えて見えないけど)が、お洒落マスターの証!
我ながら完璧すぎるぅ!
ヒャッフゥ~ッ!【テンションだいぶ高めなパリピ風。ひゃっ↓(ちょい溜めからの)ふぅ~ッ↑な感じ】
【どこからか手鏡を出して】
はぁ、これはもう気絶するほどに……ふ、ふつくしい……【うっとり】
……はッ、何だって?【現実世界に引き戻される】
季節感ガン無視だし、とにかく全体のバランスがぶっ壊れてて放送禁止レベルにクソダサい?
それに言ってることがイチイチ鼻につくし、トチ狂ったSM嬢にしか見えない?
SM衣装にクソダサTシャツを躊躇なくオールインしておいて、ファッションリーダー気取りって正気か……だと?
くっくっくっ、キミは本当に何も知らないとんだお子様だねぇ、この万年童貞がよぉッ!【ブチギレ】
あ、いや、実はそんなに怒ってないから怯えないで【ちょっと反省】
ほんの一瞬、あまりにもムカつき過ぎて、意識が宇宙の彼方にぶっ飛びそうになっただけ。
あれ、やっぱ完全に怒り狂っちゃってた? いっけね。テヘへ。
とにかくさ、真面目な話、そんなにお洒落に無頓着だと女の子にモテないよ。これは一周、いや、ぐるぐるぐるーって三周半回って最新なんだから。
え、三周半なら最新じゃなくてトレンドの真裏に行ってるし、そもそもゆめちゃんってマジでファッションセンスが狂ってるから、ちゃんと勉強した方がいいだって?
いやいや、そんなバカなことがあるわけ……
【ガラス窓に映る自分を見た】
……ホンマや
【このあといつもの白いワンピースに着替えた】
***
ねぇ、キミはさ、どうしてお洒落に興味を持つようになったの?
あぁそうか、好きな子がいるんでしょ。
にゃあにゃあ、どんな子なんだい?【少年の頬を人差し指でぐりぐりする】
このゆめちゃんに教えてみ。
大丈夫だって。
こう見えてアタシは口が堅いのですよ。
もうカッチカチのギンッギンでゾックゾクなのですよ。
意味わかんない? いいんだよ、細かいことは。
で? うん、ほうほう。
え? その子の苗字しか知らないんだ?
う~ん、そっかそっか。
てかさ、どうして好きになっちゃったわけ?
敷地に捨てられていた子猫を助けているのを窓から見かけた?
ふむふむ……で、飼ってくれる人はいないか、周りの大人に適当にあしらわれても必死に呼びかけていた。
そんな姿を見てとっても芯が強くて優しい子なんだって思っていたら、いつの間にか目で追うようになっていた、か。
うん、好きになる理由としてはきっと十分だよ。
でもさ、相手の子はキミのことを知っているの?
へぇ、一度だけ話したことがあるんだ?
そっか、食堂でねえ。
その子と偶然隣同士になって、猫の話で少しだけ盛り上がったんだ?
無事に飼ってくれる人が見つかったって言ってたの?
それはよかったじゃないか。
子猫もきっと安心したに違いないね。
優しい飼い主さんだといいね。
あー。あとそっちの話もか……。
まぁ共通の話題だし、そりゃそうか。
それでもさ、相手の子だって嬉しかったんじゃないかな。
いや、だって、その子だってきっと不安だったろうし。
だから、一緒に猫のことを心配してくれる男の子がいるってわかったら安心するし、その女の子もまた何か辛いことがあっても勇気が出せるんじゃないかな。
そりゃ気に掛けてもらえて嬉しいに決まってるよ。
え? そのあと手紙ももらったの?
あぁ、その女の子がスマホ持っていなかったのかぁ。
へー。で、何度か文通みたいなやり取りもしたんだ?
なんか、令和に文通って逆にエモエモじゃーん。
そっかぁ、なんだよ。やるじゃんかぁ、このぉ!
で、ファッション雑誌なんて読んで、その女の子に気に入られようって魂胆かぁ?
いやー、このマセガキが! スケコマシ! 女ったらし! 女の敵! 浮気者! 発情期ぃ! ハァハァハァ……
あ、うん。そうね、なんか暴走したかも。
何をそんなに興奮してるのって、そりゃ興奮もするでしょうよ。
だって、ね。
そりゃあ……【ポリポリと照れながらこめかみをかくゆめちゃん】
まぁその、あれだよ。
アタシだって一応女の子だからさ。
――恋の話は大好きだよ。【にっこり】
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